第24話 精霊族の耳は伊達じゃない。

――クリームside――



新しく村で出会ったラルアガース王の一人息子、カリンと地底界の青年マー君。

マー君は色々謎のある人間だが、気さくで優しく、そしてとっても穏やかな人だった。

トモカサも非常に懐いているし、リオも色々と戦闘や魔法について教えて貰っていて、凄く楽しそうだ。

傍から見れば、まさか天上界が戦争を起こそうとしているとは………思えないだろう。


俺の中で一番不思議なのはカリンの事だ。

国が、そして自分の両親が死んだと言うのにカリンは悲しむ素振りを見せる事はない。

まぁ王子たる故にそんな素振りを見せないのかと思っていたが、どうも俺の中でシックリ来なかった。

村に居る時にカリンの服を縫いながら皆の会話を聞いたり、チラリとカリンの様子を見たりもしたが……こんな事を言うのは悪い事だが、カリンは今の状態を一番心地よく思っているような気がした。


王子ならば、国に戻り民を導く為に――となっても良い筈だ。

だが……そんな素振りすら、カリンには無かった。

そんなある日、マー君とトモカサ、そしてリオが遠くで魔法の練習をしている時に、カリンを呼び出してみた。



「何? 私、家事なんて出来ないんだけど?」

「ンな事頼まねぇよ。おいカリン」

「ん?」

「お前、ラルアガース王国の王子なら、今直ぐにでも国に戻りたいんじゃないのか?」

そう問い掛けると、カリンは無表情のまま俺をジッと見つめてくる。

「何だったら俺が魔方陣作って送ってやっても良いんだぜ?」

「いらないし必要ない」



その言葉に、俺は内心「やっぱりな」と呟く。



「今更国に帰ってどうするの? どうせ民は私の帰りなんて待ってなんかいない」

「どういう事だ? ラルアガース王は代々民の為に、世界の為に尽くしてきたじゃないか」



そう問い掛けると、遠くからマー君が歩み寄ってくる。



「何だい何だい? この不穏な空気は」

「別に何でもないし?」

「おいカリン」



そう言うとカリンは長い金髪を靡かせてトモカサの方へと去ってしまった。

その様子に俺が溜息を吐くと、マー君は苦笑いしながら地面に座り込む。



「カリンと口喧嘩かい?」

「いや、そうじゃないんだけどさ……。ほれ、カリンってラルアガース王の王子じゃん、だから国の事が心配じゃないのかって、魔方陣作って送ってやっても良いぜって言ったんだけど」

「NO……を突きつけられた?」

「ご名答。国民は自分の帰りを待ってないって言ってな」

「ほう………」



その言葉にはマー君も驚いた様子でトモカサの隣で笑顔を振りまくカリンを見つめた。



「まぁ、カリンの気持ちは少なからず解るかな」



そう口にしたマー君に俺は呆れた表情で溜息を吐いたが「まぁ聞きなさい」と笑顔で俺に言う。



「多分カリンは……才能があるが故に重圧が凄かったんじゃないかな? 歴史あるラルアガース王の一人息子、そして具現化の力……。まぁ具現化の力がある事は私も知らなかったが、過去に一度ラルアガース王国に行ったことがあってね」

「んで?」

「カリン王子の事は耳にしたよ。だが余りにも城の者達、そして民の期待が大きすぎるのを感じたね。 そして……その期待に副うだけの力をカリン王子は持っていなかった。まぁ死にもの狂いで頑張っていたんだろうがね」

「…………」

「ここからは私の勝手な推測だが、カリンのその言葉が全てを物語っているんじゃないだろうか。 期待に副うだけの力を持たない王子を民は嘲笑ったに違いない。 城でもさぞかし辛い日々を送ったんじゃないかな」

「………それで、国には帰りたくない……と。でもそれだと只の我儘だ、王の子なら王の子らしく国を意地でも守らねばならんだろうに」

「その結果が、今目の前にあるじゃないか」

「?」

「………王はカリンを魔方陣でココに飛ばし逃がした。つまり……カリン王子では役不足だったと言う事でもある。だが王の血筋を途絶えさせる訳にはいかないからこそ生かされた」

「厳しい意見だな」



そう口にするとマー君は苦笑いをしたが、確かに大人の意見としてはそう考えるのが普通かもしれない。

だが、カリンはまだ十二歳だ……それを受け入れるだけの心が出来上がっていないと考えて良いだろう。

ましてや、重圧に耐えつつの生活が続いていたのならココで皆と過ごしたいと言う気持ちも解らないでもない。

もしかしたら、城の中ではあんな風に笑う事すら無かったのかも知れないと思うと溜息が零れた。



「まぁクリームは年の割りに考え方が大人だ。だがまだまだ未熟でもある」

「そりゃそうですよ~。俺まだ十五だもん」

「ははは、十五歳とは思えない大人びた考え方をするじゃないか? まぁそのお陰でトモカサもこうして生きていられるんだろうがな」



そう言って笑ったマー君に、俺は遠くで笑っている三人の笑顔を見つめた。

確かに子供なら子供らしく、ああやって友達や仲間とつるんで遊ぶ方が良いに決まってるし、何より十二と言う年齢で国を背負うってのも……中々受け入れられる問題では無いだろうな~とは思った。

それに、今国に帰ったとしても……また狙われるだろう。

更に無駄な血を流さずに済むには、もう少し時間が掛かるかもしれない。



「ところで~………クリーム」

「ん?」

「ずっと気になっていたんだが、その両耳に付いているイヤリングは?」



そう言って俺の耳を指さすマー君に、俺は何時も身に着けている淡いピンクの大きな球体のイヤリングに触れた。



「ん―――詳しい事は俺も知らないんだよな。俺が長老に拾われた時既に持ってたモノらしいから、親の形見じゃねぇの?」

「形見?」

「生きてるか死んでるか知らない親だけどさ、俺が地上界の精霊族の隠れ家に倒れてた時に持ってたモノはこのイヤリングと具現化の布だけ」

「ふむ。 だが物凄い魔力を感じる」

「長老ですら触れることが出来なかったらしいが、俺にとっては何の変哲もないイヤリングだぜ? 錬金術で作られたかどうか知らないけどさ」



そう言うとマー君はジッと俺の耳を見つめていたが、ニッコリと微笑むとトモカサ達を見つめた。



「資格無き者、触れるべからず」

「?」

「君のそのイヤリングだよ」

「何の資格があるって言うんだよ、主夫の資格?」

「ははははは!」



そう言うとマー君は立ち上がり、遠くでリオが手を振りながら俺の名前も連呼する。

その後俺達はリオが回復魔法を使える様になったと大喜びしていたので、その日は【祝! 魔法が使える様になった日!】と言う事でリオの好きな食べ物を作ってやることにした。

が―――しかしっ!



「肉!! 肉料理肉料理!!」

「んじゃその辺の奴倒して来い」



と、その辺にうろついてるであろう草食のモンスターを倒して来るように笑顔で告げると、リオはガク――ッと肩を落とした。

だが、たまたま俺達の近くに降り立ちテクテクと歩いて行く鳥系のモンスターが何も知らず近づいてくると、風切音とがしたと思った瞬間鳥系のモンスターはパタンと倒れてしまった。

俺とリオは顔を見合わせトモカサを見ると手には何もない……カリンも何もない。



「え? マー君?」

「ん? 私は何もしてないよ?」



確かに風切音が聞こえたのは確かなのだが、倒れて動かないモンスターに俺とリオが駆け寄ると、見事に急所に小さな吹き矢の様なモノが突き刺さっていた。

引き抜き矢の尖端を見ると………何か塗り込まれているのが分かる。



「「……コレ食えるのか?」」



そう俺とリオが同時に口にすると、クスクスと笑っているのはカリンだ。



「大丈夫、神経を麻痺させるだけだから食べれるよ。 でもつい癖で急所狙っちゃった」

「「カリンお前まさか……」」

「ああ、話してなかったっけ? 私の武器は大剣だけじゃないよ」



そう言うと風切音と共に現れたのはやはり吹き矢だった。



「コレって便利だよ。生きている生物なら大抵効いてくれるし、神経を麻痺させる事も出来れば眠らせる事も出来るし毒を仕込めば殺す事だって可能。それに急所を狙えば……ねぇ?」



そう言って俺達を見つめるカリンの表情はこの上なく恐ろしい……。

リオと抱き合っていると、カリンは「ふふふ」と笑い吹き矢を解除した。



「へ――カリンって凄いね!!」

「褒めても何も出ないよ~」

「可愛い可愛い」



そう言って可愛い笑顔に騙されているトモカサはカリンの頭を撫でているが……あのスピードでの具現化と急所狙い……奴は俺達を殺すかもしれない!!!



「うーん……吹き矢か、それにあのスピード。 暗殺には持って来いだな、うんうん!」

「マー君何でもOKにしないで!!」

「良いじゃない。私からのお祝いだよ」

「あ………サ…サンキューな」



そうリオが顔を引き攣らせながら言うと、カリンはトモカサの腕に抱き着きニコニコと寄り添っている。

その夜は、カリンが仕留めた鳥を使った鶏肉をふんだんに使った肉料理で、リオは笑顔で俺の作った料理を食べていた。

初めて魔法が使えた事がそんなに嬉しいのかと思ってしまうが、過去俺も魔法を使える様になった時は大はしゃぎだったなぁ……と思いだして苦笑いする。



「しかし、リオは案外早く魔法を使える様になったねぇ……これも才能の一つ! うんうん」

「えへへ……まぁマー君が解りやすく教えてくれてるってのも大きいかもな。こう噛み砕いて例え話も入れ込んで教えてくれるしさ」

「私に出来る事ならお手伝いするさ。地底界の人間を快く迎えてくれた君達に感謝しつつね」

「マー君そんな事気にしなくていいのに」

「ははは」

「ったく、トモカサのその性格に俺は救われたよ」

「え――? だって肌の色は違っても同じ人間じゃない。命の重さも同じなんだよ?」

「そう純粋に考える事が出来るのも、トモカサの魅力であり強さだな」



そう言ってマー君は嬉しそうにトモカサの頭を撫で、カリンはジッと隣で照れ笑いしているトモカサを見つめた。

すると、何を思ったのかご飯を机に置き隣に座るトモカサの腕に抱き着いて寄り添うカリン。

ここ数日旅をしていて随分とこのカリンの行動には慣れたが、トモカサも気にする風でもなく片手で肉を食べている。


傍から見ると、女の子同士がいちゃついてる様にしか見えないが………まぁ、俺もリオもマー君も慣れてしまった為誰も口にはしない。

その後は皆食事を終えると歯磨きしたり近くの川に入って水浴びしたりしていたが、俺は食事の後片付け等がある為一人洗い終わった食器類を拭いていると、水浴びに行っていたカリンとトモカサが先に帰ってきた。



「お帰り~歯磨き終わったか?」

「うん、クリームも早めに寝てね」

「おやすみ、家政夫」

「おやす……待てコラ! カリン!! 俺に家政夫ってどういう事!?」

「そうだよカリン、クリームは家政夫兼主夫だよ」

「トモカサ、それ余り変わりないから! 俺は主夫に誇り持ってるんだ、家政夫なんて呼び方イヤだね」

「ん、でも私の中では家政夫だから。おやすみ」



そう言うと不愛想に―――トモカサのテントへと入って行った。



「カリ――――ン!!! そこは俺とトモカサの愛の巣寝室テントォォォォ!!」



そう叫んだ時、トモカサから強烈な五臓六腑飛び出しそうな拳が腹に来たが………悶えながら「それだけはヤメテ」とトモカサのテントへ入ったカリンに訴えた。

だがしかし!! カリンはヒョコッと顔を出すとトモカサを手招きし、トモカサも中へと入ってしまった……。

一人悶えつつ地面に倒れていると、水浴びから戻ってきたマー君とリオが駆け寄ってくれたが、俺が泣きながら二人に事情を話すと「愛の巣寝室はねぇな」とリオは言い「うーん、非生産的な事は宜しくないと思うよ?」とマー君からも諭されてしまう。



「でも、どんな話をしているのかは気になるね」

「マー君~? 盗み聞きはしちゃいけない事なんだぞ?」

「だが、もしかしたらカリンが胸に秘めている悩みを口にするのかも知れないじゃないか?」

「「!」」

「ここ数日君たちの様子を見ていたが、カリンの様子はどうも気になる点が多くてね。 何故あそこまでトモカサに懐いているのかも気にならないかい?」

「「あ、それは気になる」」

「って事で」



そう言うとマー君は人差し指で「静かに」と合図すると三人でトモカサとカリンがいるテントへと耳を傾ける。

すると――。



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