第23話 具現化の力が使えるカリンの武器は見た目に似合わず大剣で。

――リオside――



あれこれと急いで買い物を終わらせると、俺は息も切れ切れに宿屋へと駆け込んだ。

やはり狙われているかも知れないと思うと、外でゆっくり買い物なんて出来る筈も無いし、何より自分の戦闘能力がトモカサとクリームと比べるとかなり劣っている事を知っているからだ。

魔法も使えない、具現化で敵を倒したのはストレス発散の時のみ……。

俺はもっともっと強くならないと言う焦りを感じていた。

バタバタと足音を立てて部屋へと走り、勢い良く開いたドア。

その慌てっぷりに皆は一瞬驚き、マー君が部屋の窓を覗き込んだが 「大丈夫」 と笑顔で口にする。



「何だよリオ、驚かすなよな」

「だってさ……狙われてる訳だろ? 何時襲われても可笑しくないって思ったら焦ってさ」



そう言ってベッドに倒れ込む俺に、クリームは「まぁな~」と口にして服を縫い続け、トモカサは忘れ物が無いかどうかを確認していた。

「で、買い物リストに書いた奴、全部買ってきたか?」

「あ? ああ」

「カリンはまだ風呂だ。鞄にテントとか入れてやっておいてくれよ」

「分かった」



そうクリームに言われると、俺は買ってきたアイテムから新品の鞄を取り出し、そこにカリン用のテントや必要なモノを入れ込んでいく。

服の方も後少しで出来上がると言った感じだし、少し時間がある様なので綺麗に鞄の中のアイテムを整理整頓しておいた。

そんな俺の横にトモカサがやって来ると、ジッと俺が荷物整理している姿を見つめている。



「リオってマメだねぇ……」

「ん?」

「リオの鞄の中身見ても良い?」

「ああ、良いぜ?」



そう言うと俺は腰からポーチ状の鞄をトモカサに手渡し、カリンの荷物を分かりやすく整理していると―――。



「うわ――……リオって本当マメだね。凄い綺麗に整頓されてる!!」

「トーモーカーサー?」

「ん?」

「ちょっとお前の鞄貸せ!!」

「あ!」



そう言うと俺は問答無用でトモカサの腰から鞄を奪い取ると、中身を見て愕然とした。



「……俺が何を言いたいか分かるな?」

「……えへへ」

「何だこの鞄の中身は!!! こんなんじゃダメだろ!!」

「あう……」

「部屋の乱れは心の乱れ!! 服の乱れも心の乱れと覚えておけ! 鞄の中もだ!」



そう怒るとトモカサの頭をペチンと軽く叩いた。



「ったく……おいクリーム、トモカサの鞄の中酷いぞ~。お前トモカサの保護者ならその辺りもシッカリしろよ」

「あら、トモくんったら。何時も注意してるでしょ?」

「えへへ……」

「あ――もう!! 俺がやる俺が!! 見られてマズイ物なんて無いだろ?」

「うん、特に無いよ」

「ははは、トモカサには良い保護者が二人も居て安心安心」

「マー君は呑気だな……ったく。アンタの鞄の中身は大丈夫なんだろうな?」

「私はこの通り、ある程度大人なものでね」

「なら良いけど……あーあーあー……着替えをこんなに皺くちゃにして………」



そうブツブツ文句を言いながら服も一つ一つ綺麗に畳んでは鞄に入れていくと、トモカサは横で「ほわぁ~」と感心しながら見つめている。



「リオって整理整頓上手いねぇ」

「あのなトモカサ?」

「ん?」

「人間、何時何所で『もしも』が起こるか分からん訳だ。その時鞄の中から瞬時に必要なモノを探せたら?」

「それは安心感も違うね!」

「だろ? だから、鞄の中は何時も綺麗整頓! 覚えとけ」

「はーい」



そう言って分かったのか分かってないのか……いや多分、分かってないだろうなぁ~と思っているとシャワー室からカリンがバスタオル一枚で出て来た。

まぁそれも仕方ない訳だが、クリームに言われた通りカリンの鞄から買ってきた下着などを取り出すと「ほらよ」と投げ渡す。



「着心地が悪いとかはナシな。一番良いのを一応選んで買ってきてある」

「ありがとう」

「服は今クリームが縫ってるから暫く待ってろよ。それと、お前に必要なモノを鞄と一緒に買ってきて整理して入れておいたからな」



そう言うと俺は鞄をカリンに投げ渡すと、カリンは鞄をキャッチして中身を確認した。



「テントに下着の着替え……それとコレは剣?」



そう言うとカリンは鞄に入れていた剣を取り出すと、ジックリと見つめた。



「お前の身体じゃ短刀とかの方が良いんだろうな~と思ったんだけどさ、それだったら使いやすいかなと思ってな」

「私はこんな剣は使わない」

「はぁ!?」

「私の使い慣れた剣はこっち」



そう言うと、風切音と共に具現化された大剣に、この場に居た皆が目を見開いて驚いた。

自分の身体と余り大差ない大きな大剣………それを自分の手足の様に軽やかに動かすカリンに誰もが驚いたことだろう。



「……重くない?」

「待てトモカサ、関心する所が違う」

「具現化の力の事?」



そうカリンが口にすると、俺はカリンやみんなの様には早く具現化出来ないものの、銃を具現化し、トモカサも紙を手にすると具現化して見せた。

それにはカリンが驚き、何時もなら半開きの目が大きく開いて俺達を見つめる。



「………君達は」

「特殊な力である事は解ってるよ。でも僕はその辺にある物なら大抵具現化は出来るし、いざと言う時は何もない状態でも具現化は出来る」

「俺は今の所は遠隔武器ならどれでも~って所だな。 まぁ戦闘に参加したことが無いから何とも言えないが」

「クリームは腰に巻いてるオレンジの飾り布が具現化武器」

「…………」

「マー君は?」

「ははは、私は具現化と言う特殊な力は使えないよ。武器は鎌や剣、後は魔法かな?」



そう語る俺達に、カリンは具現化を解いて俺達へと歩み寄る。

そして、俺とトモカサとクリームをジッと見つめると、顔を伏して背を向けた。



「カリン?」



その様子にトモカサが困惑した様子で語りかけると、カリンは洗い立ての長い金色の髪を靡かせてトモカサに歩み寄り抱き着いた。



「???」

「どうしたんだカリン?」



そう問い掛けてもカリンからの応答はなく、ただトモカサを抱き締めたまま動こうとはしなかった。

すると―――。



「よっし! 出来た!!」



今までカリンの服を縫っていたクリームが声を上げ、ベッドに服を並べていく。



「カリンをより女の子らしく見せる為に、バラ色を基調にベビーピンクも入れて、後は白と黒をアクセントに入れてみた!」

「うわぁ!! か―――わいい!!」

「特に帽子には力を入れたぜ~。キャスケッドとベレー帽の二つを用意しといた!」

「お、いいねぇ……帽子に白いバラと黒いバラのアクセサリーを付けれるのかい?」

「おお、これも女の子なら小物が無いとかな~と思ってさ! ただカリンは髪が長いし、ポニーテールにするならと思って違うパターンのがもう一つ! ヘッドドレス!!」



そう言ってクリームが意気揚々と見せたのは……小さな飾り帽子だった。



「可愛いだろ? 可愛いだろう――!!!」

「かっわい――!!!!」

「どの服にも合うには合うんだけどさ、ああ、帽子が嫌ならと思って一応ゴムにもバラつけてみたんだけど」

「……何故にバラ?」

「お前見た目可愛いけどトゲがありそうだから」

「なるほど……綺麗なバラには棘があると言う事ね」

「うーん……人を花で表現する。 流石クリーム君だな、ところでトモカサを花に例えると何だい?」

「ん――個人的にはアネモネのイメージがあるんだけどな」

「アネモネかぁ……花言葉も色々あるよね」

「儚い恋、恋の苦しみ、薄れゆく希望、純真無垢、無邪気、辛抱、待望に期待や可能性……そして真実!!」

「色別にすると白は期待と希望、真実に真心。 赤は君を愛す。 紫はあなたを信じて待つ……だったかな?」

「何だかロマンチックだね」

「それよりもカリンに服着させろよ、まずは着てみないと可愛さが分からないだろ?」

「バーカバーカ、それ位想像して萌えろよ」

「んだと? この少女趣味!!」

「馬鹿かお前は、デザイナーや芸術家ってのはな、どれだけ頭の中でその人を輝かせるかに燃えるんだぜ!?」

「兎に角二人とも落ち着いてね~。 さ、カリン着替えておいでよ」

「そうね」



そう言うとカリンはクリームが作った服や小物の数々を抱えるとシャワー室へと戻った。

だが、その時の表情は何所か明るく、少し不思議に思ったくらいだ。

それから暫く経つとシャワー室からカリンが現れ、可愛らしい……本当に美少女と呼ぶにふさわしい姿だった。



「うわ――可愛い――!!」

「うふふ」



そうトモカサに褒められると嬉しいのか、仕草も気品溢れるカリンには本当にピッタリの服装だった。



「ポンチョはに小さなバラの刺繍が入ってるのよ」

「どこどこ?」

「ほら、両先部分見て」

「本当だ、黒と赤のバラの花が刺繍されてる。それに端っこには可愛い飾り布もあるんだね」

「どうだ? これなら何所からどう見ても女の子だろ」

「うーん……とても可愛らしい美少女だ」

「さて、用意も終わった事だし早々に村から離れるか」

「そうだね、クリームもしかしてアレするの?」



そうクリームに問い掛けたトモカサに俺は眉を寄せて「アレ」とは何かと考えた。

「する。今回はちとココに滞在し過ぎたしな……天上界の動きも考慮すれば当然の事だろう」

「そっか……じゃあ早めに村を出てテント張れる場所に移動した方が良いね」

「では、移動しようか」

「僕お金払ってくるから皆外で待ってて~」



そう言うと先に俺達が揃って宿屋から出ると、トモカサは大声で宿の主人を呼びお金を支払って出て来た。



「ではでは、皆で仲良く村を出ようかな」

「ともっちゃん行こう」

「「ともっちゃん!?」」

「うん、行こう!」



俺とクリームが驚くのを余所に、トモカサとカリンは手を繋ぎ村の出口へと駆けていく……。

固まる俺達を見たマー君は声を上げて笑い、俺達の頭をポンと叩くと「さぁ行こう!」と声を掛けてくれた。

そして俺達もトモカサとカリンを追いかける様に村を走り抜け、村の出口に立つとクリームが一度咳払いをする。

そして、腰にある具現布をスルリと手にすると一気に大きくなり、そこに魔方陣が映し出される。

驚いてクリームを見ると、クリームの金色の瞳からキラキラと光りが溢れてくる……。



「―――リセット!」



そうクリームが発した途端、布に映し出されていた魔方陣が眩く光り村全体に光が風の刃の様に人を、動物を、植物を、建物を切りつけると……光の刃が空から戻ってきて布に映し出された魔方陣へと消えていく……。



「い………今のは!?」

「さぁ早く立ち去ろう」

「見つかる前にな」

「お、おい!」



慌てる俺は皆に置いて行かれまいと歩いたが、暫く無言で皆が歩き、俺は困惑したまま皆の表情を見つめては、時折立ち止まり後ろを振り返る。

―――村の人々は普通に生活しているし、あの魔法の刃は何だったんだろうか?

そんな事を思っていると、クリームが俺の頭を軽く叩く。



「大丈夫大丈夫、死んでなかったろ?」

「あ?ああ……なぁクリーム、今の魔法は?」

「リセット魔法」

「へ?」



そう今まで無言だったカリンが俺を見上げながらそう口にする。



「人々やその土地に住む全ての生物や物質から私たちの記憶を消したの。無論ご法度の魔法でもあるし、小さな村であったとしてもあれだけの魔法を使えるとは……驚いたわ」

「ははは。だが精神力の消費はデカイなぁ……」

「ご法度って事は」

「違法魔法。見つかれば死刑」

「!?」



そう淡々と答えたカリンに驚いたが、それ以上にそんな魔法をクリームが使える事の方が驚いた………。

―――魔法……俺も使える様になるんだろうか?

小さな魔法でも良い。 せめて怪我を治せる位の魔法でも使える様になれれば……そんな事を思っていると、今度はマー君が俺の頭をポンと叩く。



「?」

「リオ、君は魔法を使えるのかい?」

「………いや、まだ試した事も無いしどうやれば魔法が使える様になるなんて知らないし」

「ふむ……では私で良ければリオの戦闘能力アップも兼ねてアドバイスや魔法の使い方を教えても良いが」

「本当か!?」



一際大きな声に、皆が立ち止まり俺とマー君を見つめた。

俺の真剣な表情にマー君は一瞬驚いた表情をしたけれど、さわやかな笑顔を見せると俺の頭を優しく撫でる。



「構わないよ、無論私の時間が空いてる時で良ければだが」

「それでも良いさ!」

「マー君良いの?」

「ああ、彼の戦闘能力を上げるアドバイスと魔法の使い方を教えよう。な~に、心配しなくてもスパルタ教育はしないさ。リオも君達も成長途中、育ち方も性格も様々だ。枠にはめて教える事はしない。約束しよう」

「助かるぜマー君!!!」

「おおっと」



そう言うとマー君に抱き着いたものの、直ぐに離れると「やるぞ――!!」と声を上げて喜んだ!



「ふむ、魔法を使える事がそんなに良いモノとは思わないけれど」

「良いんじゃない? リオはずっと悩んでたっぽいし」

「ま、マー君が教えてくれるって言うんだったら任せようぜ。 取り敢えず今日は早く寝たい……」



そんな話を三人がしているとも知らず、俺はマー君に何度も何度も「宜しくお願いします!!」と言ってテンションが高かった。



「オイコラ! リ――オ!! 俺疲れてるんだからサッサとテント張れる場所探すぞ。 置いてくぞ!!」

「おう!」



クリームのグッタリとした声にも軽く答えたが、顔は緩んで自分でも喜びを抑えきれなかった。

そんな様子をマー君は優しく見守っている事なんて気づく筈も無く、俺達は陽が暮れる前にテントを張れる場所を探し当て、その日は早々に眠りについたとある日の出来事―――。



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