第22話 助けた少女は少女ではなく!!
――リオside――
―――その時だった。
微かに王子の手が動き、小さなうめき声が聞こえる。
そして……ゆっくりと目を開けると……美しい紫の瞳が現れる。
「私は……ここは?」
「気が付いた?」
そうトモカサが駆け寄ると、王子は「君たちは……」と問い掛ける。
事情を軽く説明すると、王子は小さく頷きながら顔を伏せてしまった。
「まだ虚脱状態だから、横になった方が良いよ」
「それに、心の整理だって出来てないだろうしね。安心しなさい、君の事はこの子達と私が守ろう。ああ、もう一人居るんだが今は宿の厨房で朝ごはんを作ってくれている」
「そう………天上界よりも地底界の方が安心できる。ね、そこの二人」
「「!?」」
そう言って微笑んだ王子に……俺とマー君は顔を見合わせた。
クリームは確かに「一般人には俺が地底界の人間と同じ肌」と思わせないように服を作ったと言っていた。
なのに、王子は俺の肌を…そしてマー君の肌の色を地底界の者と同じ肌と見破った。
「流石はラルアガース王の血筋だな」
「なぁマー君。天上界や地底界、精霊界の人間にも俺達の肌の色は……」
「見破る事は普通なら難しい筈だ。私の服にも、そして君の服にも強力な魔法が掛けられているしね。 ただ特別な力を持つ者や、かなり上の力や権力を持つ者になら別だが………」
「なるほど……」
「お――い、飯持ってきたぞ~~!!!」
そう扉の向こう側でクリームが叫ぶ声が聞こえドアを開けると、沢山のおにぎりがお皿いっぱいに並んでいた。
それをテーブルの上に乗せると、鞄からお茶の入った水筒を取り出しコップを並べる。
「ささ、た――んとお食べ!! カリンちゃん目が覚めた?」
「私をカリンちゃんなどと呼ぶな」
「いんや。王子を連れて旅をしてるなんて周りにバレたらこっちも危ないんでね。悪いけどカリン王子には女の子として旅してもらうから」
「なっ!! この私に恥をかけと言うのか!!」
「うんうん、そんだけの元気があれば大丈夫だな。飯食ったらお前の服縫うから。安心しろと、スカートとか穿かせないから」
そう言ってケタケタと笑うクリームに、カリン王子は枕をクリームの顔面に投げつけた。
「それと、リオは飯食ったらテントとかコップとか買ってきてもらうわ」
「俺パシリ?」
「何もしないで居るよりマシだろ~? 二人も仲間増えたんだから食器類足りないの! それに……何時天上界の奴らが来ても可笑しくない」
「確かにそれは言えてるね……でもリオ一人で大丈夫?」
「だからサッサと飯食って行ってこい」
「分かった分かった、買う物リスト書いてくれよな」
そう言うとカリン王子も起き上がりクリームの作ったおにぎりを食べている。
毎回思うが、クリームの料理は本当に美味い……。
「うん、中々の塩加減だ」
「こんな物食べるのは初めてだ」
「こんな物言うな! 農家の方々が一生懸命一年掛けて育てた穀物だぞ? 王子ならその辺りちゃんと勉強した方がいいんじゃねぇの」
「……そうだね」
「その辺は旅をしながら見て回ると良いよ。色々な苦労も聞けるし、色々な人生経験も聞ける。それに……一生懸命働いてる人の手を見てみると良いよ」
そうトモカサがにこやかに口にすると、カリン王子はキョトンとした表情でトモカサを見た。
「とてもゴツゴツしてて、触り心地もお世辞にも良いとは言えない。でも……一生懸命働いたとても素敵な手をしているよ」
「……ふ~ん」
そう言うとおにぎりを余り食べれていない王子は、おもむろにトモカサの手を握りしめる。
ニギニギ……サスサス……むにゅむにゅ……。
その様子に、俺もクリームもおにぎりを手にしたまま口をポカーンと開けて見てしまった。
「……良い触り心地……寝てる時柔らかくて気持ちが良い感触があったけど」
「僕がずっと手を握ってたんだ」
「……そう」
そう言ってウットリした表情を浮かべるカリン王子……だが、見た目は女の子なので何とも言えない空気が周りに出来てしまった。
まぁ、トモカサも見た目女の子と変わらない訳だが……カリン王子には負ける。
「おいおい、こらこら! 飯食ってからにしろ! それと俺も後でトモくんの手ニギニギしちゃう!!」
「クリームが言うと変態みたいだよね」
「まぁ、見た目的にカリンは女の子だからねぇ。見てる分には悪い気はしないが……戸籍上男の子だと思うとちょっと私も複雑だな」
「ほれほれ、さっさと飯食ってカリンは風呂! リオは買い物!! マー君とトモくんは宿屋で待機」
「了解、そうだクリーム、僕が食器洗ってくるよ」
「頼んだぜ」
そう言うと皆が食べ終わると同時に俺はクリームから買い物リストを貰ったが、中には食材も大量にあって思わず「うへぇ」と口にしたが、まぁ二人も仲間が増えたんだから当たり前かと思いつつ先に宿屋を後にした。
――まさか一気に二人も仲間が増えるとは思っても無かったが、早々にこの村から出た方が良いだろうと言うのは俺でも理解できる。
「早く買い物終わらせて旅立った方が良いな」
そう口にすると、俺は雨が降りそうな雲空を見上げて駆け出し、道具屋や食材売り場へと向かった。
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