第21話 新たな仲間、マー君。

――リオside――



何時まで経っても帰ってこないクリームに、俺は心配になってトモカサに 「様子を見てくる」 と言うと宿屋を出た。

ドンパチがあった後だし、もしかしたら敵に襲われたんじゃないかと思うとゾッとする……。

早く俺も具現化を出来るようになって戦闘で戦えるようにならないと―――そんな事を考えていると、村の入り口に見慣れた姿のクリームを見つける事が出来た。


「クリーム!!!」

「お?」



息を切らしクリームの元へと駆け寄ると、呼吸を整えクリームの両肩に手を置いた。



「帰りが遅いから……はぁ………様子見に行くって……トモカサに言ってきた」

「ああ、悪い悪い。 ちょっと戦闘になってたわ」

「大丈夫なの……ん?」



そうクリームに問い掛けようとした時、クリームの後ろからスラリとした青年が笑顔で俺を見ている。

褐色の肌………俺はバッとクリームを見ると、クリームは「落ち着けー落ち着けー」と念仏を唱えるように俺に言う。



「やぁ、君の名前はリオ君だね? 地底界の人間を見るのは初めてかな?」

「アンタ……おいクリーム、コレどう言う事だよ!!」

「落ち着けって!! トモカサが見た青年ってのはコイツだ」

「!」



そう親指で後ろを指すクリームに、俺は呆然としながらも青年を見た。

年の頃は二十代中盤位だろうか?

眉がトモカサに良く似ていて……何となく安心出来る気はした。

一番特徴的だったのは左目だ。

大きな傷跡に……眼球は何か違う物質で作られたモノの様に思える。



「おや、君も左目が気になる?」

「あっ」

「クリームくん、悪いんだが早々に私用の眼帯を作ってくれないかな? 一番目立ってはいけない事なんだよ」

「それ位してから地上界に来いよな~」

「まぁそう言わず」



そう言って穏やかに笑う青年は、俺の頭をポンポンと叩くと優しく微笑んでくる。



「この子の服は君が作ったんだろう? トモカサは多分作れないと思うんだが?」

「ご名答! ま、俺は主夫なんでね。皆の服や食事の用意諸々俺がやってんの」

「うんうん、関心関心」

「部屋に着くまでマントで左目隠して行けば良いだろ。ほらリオ行くぞ」

「あ……ああ」



そう言うと俺達は宿屋に戻り、部屋へと戻った。



「あ!! みんなお帰り!!」

「ん、ただいま。トモカサ、お前に紹介したい奴いんだけど」

「なに?」



そう言うと青年が部屋に入り、にこやかな笑顔でトモカサを見つめる。

だが、その眼の色はとても優しい………。



「あの時の!!」

「やぁトモカサ。カリン王子を無事宿屋に連れて行ってくれたみたいだね」

「カリン……王子?」

「どうやらこの女の子と思ってた子は、ラルアガース王の一人息子のカリン王子らしい」

「へ――……可愛い顔してるから女の子だって思ってた」



そう言って未だに手を握りしめ看病していたトモカサは、カリンを見て頷いた。



「それでなトモカサ」

「ん?」

「あ、そこは私から言おう」

「?」



そう言うと青年はトモカサの元へと歩み寄ると、ぽんぽんと頭を叩いた後優しく撫でる。



「どうか、私を旅のお供にして貰えないだろうか?」

「え?」

「クリーム君にも聞いたんだが、トモカサがOKを出さないとダメと言われてね。 ダメかな?」

「何言ってるの、こんな弱ってる子を助ける人だよ? 断る理由なんて無いじゃない」

「ははは」

「はぁ――……言うと思った」

「まぁトモカサだしなぁ」

「俺としてはもう少し危機感ってのを持って貰いたいんだけどなぁ」



そうブツブツ文句を言いつつも、青年の服にもミスマッチしない色の布を手にすると裁縫を始めるクリーム。

そう言えば眼帯がどうのと言っていたし、先に縫ってしまおうと言う事だろう。



「それで、お兄さんの名前は?」

「うん、少々訳ありで本名は伏せたいんだ。そこで、トモカサに私の名を付けて欲しい」

「待て!!」

「ん?」



その言葉を聞いた時、俺はガシッと青年の肩を掴んだ。



「それだけは止めた方が良い!!」

「ちょっとリオ――!!」

「馬鹿! お前が俺に名前を付ける時なんて言ったか覚えてるか!? 俺にブリーフなんて名前つけようとしたんだろうが!!!」

「……うん、凄く斬新だ!」

「斬新で済まされるかよ!!」

「褒められちゃった」

「俺は褒めてない!!」

「まぁまぁ、トモカサが思う名前で良い。名前を付けてくれないか?」



そう言うと椅子を持ち出しトモカサの隣に座る青年に、俺はブツブツ文句を言いながらクリームの隣に腰かけた。

どんな奇抜な名前が出て来るのかと思っている訳だが……まぁ俺の名前ではないしと思うと少し気が楽になる。

さてさて、どんな名前が飛び出すかと思っていると、トモカサは目線を外すことなく青年の顔をジッと見ている。

何となく不思議に思い眉を寄せて様子を伺っていると―――。



「……マーくん」



その名前に驚いたのは俺だけではない、青年も目を見開いて驚いている。

「何でだろう? お兄さんの顔見てるとその名前しか頭に出てこない」

「マー君か。うん、良い呼び名だ」

「待て!! 俺の時はブリーフなのに普通の……しかも愛称的な名前ってどう言う事だよ!」

「しょうがないじゃない! マーくんしか思いつかないんだもん!!」

「マー君か……う~ん……良い名だ。うんうん」

「満足すんなよ!!」

「そうだぞ!! それだったら俺だって可愛く呼ばれたい!!」

「俺はりっちゃんだな!!」

「二人ともキモイよ」

「「………………」」



余りの一言に俺とクリームは真っ白になった……。

しかも……トモカサは淡々と無表情で「キモイ」と言い放った……。



「あははははははは!! うんうん、この感じが堪らないねぇ」

「俺達が真っ白になる事がかよ」

「ヒデェぜマー君……」

「いやいや、トモカサらしさがあって良いんじゃないか?」



そう言って涙を溜めながら笑うマー君に俺とクリームは顔を見合わせ溜息を吐いた。



「ったく……話はマー君から聞いてくれ。ホレよマー君」

「おっと、すまないね」



そう言うとクリームは作ったばかりの眼帯をマー君に投げ渡すと、鞄からエプロンを取り出す。



「本当なら今日で宿屋を後にする予定だったんだが………昏睡状態の王子様を連れては行けないからな。トモカサ、あのアイテム幾つ飲ませた?」

「3本目が終わったところだよ」

「なら後数時間で目を覚ます筈だ。それまで宿屋に留まって……あ――それまでにカリンちゃんの服も作らないとそんな姿は外には出れないな」

「だねぇ」

「今日の朝ごはんちょっと手抜きになっちゃうけど……ごめんなさいね?」

「気にしてないよ~」

「腹減ったから早めによろしくー」

「はいはい」



そう言うとクリームは部屋から出て行ったが、その間に俺とマー君とでラルアガースを襲ったのが天上界の者だと言う事を伝えた。

そして、そこから先はマー君に任せて話を聞いて行く。

クリームを襲った奴の話も聞けたし、その後クリームが始末したそうだが……トモカサは顔色一つ変えずに「なるほどね」とだけ告げる。

―――俺にとっては、これが意外だった。

クリームが人を殺したのに、トモカサは顔色一つ変えなかったからだ。



「トモカサ……」

「ん? どうしたのリオ」

「クリームが人を殺したのに……お前何ともないのか?」



モンスターは倒した事はあるが、人間を殺した事のない俺としては不安でならない。

でも―――。



「確かに人を殺す事は良くない事だよね。でも……言葉が通じない相手だったら?」

「それはっ …………」

「旅をしていれば、そう言う輩に会う事は多々あるよ。僕は極力殺さない様にはしてる、でもクリームは割り切って殺しちゃうんだ」

「あのクリームが?」



何時も飄々として自分の事を主夫だからとか何とか言う奴が、人を殺すなんて想像つかなかった。

さっきの様子だってそうだ、まるで人を殺してきたようには見えない。



「私もあの時は驚いたよ、精霊族は殺傷を好まないからね。だが彼は実に冷静だ……こちらが度肝を抜かれたよ」

「そう……なのか?」

「まぁ……言い方は悪いけど、リオもその内……人を殺す事があると思う」

「!?」

「無論、むやみやたらに殺して良い訳じゃないからね? 話が通じない相手と、こちらの命を奪いにかかる相手に限るよ」

「そう……だな………生き残らないと………だもんな」

「うん……」

「今回のクリーム君は、君たちを守る為の事だ。決して責めてはいけないよ」



そうマー君が言うと、俺は自分の中でまだ整理は出来てなかったが小さく頷いた。



「それに、天上界の奴らは必ず君たちを狙ってくる……。カリン王子を助けた以上、天上界の者達がこの村に来て君たちの特徴を手に入れるだろう」

「つまり……指名手配犯って所かな?」

「ま、天上界の者からすれば……ね」

「指名手配犯か……だけど、何でそんなに執拗に王子を狙うんだ?」

「ラルアガース王国の歴史は聞いたかな?」



そう問い掛けたマー君に頷くと、マー君は今回の事に付いての内容を語り始めた。

これはクリームが聞き出した内容らしいが、天上界の奴らは精霊界の王と手を組み、地上界へとまずは攻撃を仕掛け、配下に付けた後……地底界へと戦争を行う予定らしい。

その為、まずは平和の象徴であるラルアガース王国を襲い揺さ振りを掛けたのが本当の目的。



「そして、ここから先は私の考えなんだが……ラルアガース王の血族が生きていて貰っては困るんじゃないかな」

「何でだよ」

「王の息子、つまり次期王が生きていれば、地上界の者たちはまだ希望を持つ事だろう。 何せ伝説の英雄の血族だ、その希望をも潰して配下に置きたい……と思っているんじゃないかな。王子が生きていれば僅かな人間達は、天上界の者に刃向うだろうし、それが面倒なんだろう」

「つまり……」

「王子は守り通さなければならない……と言う事だ。君たちの手でね」



その言葉に俺は未だ目を覚まさない王子を見つめた……。

天上界の宣戦布告、そして狙われた王子……そうだ……王子はきっと自分の親が殺されるのを見ただろう。

そう思うと知らず知らずに拳を握りしめていて、その手をトモカサがそっと包む。



「トモカサ……」

「大丈夫だよリオ。僕も同じ気持ちだから」

「………」



――――その時だった。

微かに王子の手が動き、小さなうめき声が聞こえる。

そして……ゆっくりと目を開けると……美しい紫の瞳が現れる。



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