第20話 謎の青年と、狙われた俺達と――。

――クリームside――



翌朝―――とは言っても、遠くでドンパチする音が聞こえなくなった頃、トモカサとリオに少女の看病を頼んで戦いがあったであろう場所へと向かった。

息も切れ切れに走り辿り着いた場所では、確かに魔法での戦いがあったであろう痕跡を見つける事が出来る。

だが、それと同時に沢山の血だまりが乾かず残っていた。

―――何一つ残らない戦闘跡。

何か痕跡は無いかと辺りを見渡したが……あるのは血痕と乾ききっていない血だけだった。



「冷静になれ……何かが可笑しい」



そう小さく呟くと、俺は地面に乾かず残る血だまりの数を数えはじめる。

一人二人……その数は増え、最終的に十二体の血だまりを数えることが出来た。

十二体の死体があったにも関わらず、死体は一つも見当たらない。 これは普通の人間に出来る芸当では無い事だけは確かだ。

もし、炎の魔法で焼き消したとしても痕跡は残るが………それも無い。



「………」



トモカサの話では、一人の青年がこの場に向かったと言っている。

その青年一人で十二人もの相手に戦ったと言うのだろうか……? だとしたら、その力は桁違いに強い。



「……一体何が起きようとしているんだ」



そう言って立ち上がったその瞬間―――バチッと言う魔法の音が聞こえ咄嗟に具現化した布が俺を攻撃魔法から守った。



「なっ!?」



周りを見渡しても人の姿は無い、ハッとして顔を上げると、そこには白い翼を持つ天上界の者が一人俺を見つめていた。



「貴様か? 十三人もの仲間を殺したのは」

「十三人!?」

「……具現化能力、普通の旅人では無いな?」

「――っ」



そう口にする天上界の者は、まるで獲物を見つけたような瞳で魔法を繰り出してくる。

このまま村に戻るのは余りにも危険だ。 それに魔法を村の人が見れば――そう思った俺は魔法をかわしながら近くの森へと入って行く。

―――敵は一体のみ、魔法の威力はそう強くないのが分かる。

森の奥へ奥へと入り逃げている最中、何かに足を取られ倒れ込んでしまった。



「お? 何だ何だ?」



そう寝ぼけた声が聞こえ後ろを振り返ると、そこには水色の髪に褐色の肌の青年がくつろいでいる。



「……天上界に地底界、ったく何が起きてんだよ!!」

「ん?」



そう言って立ち上がると、布を掴み魔法を込めると今まさに降り立とうとしていた天使に向けて風の攻撃魔法を放つ。

森の木々は突風と共に風の刃で切り落とされ木の葉が舞い上がったが、天使はそれでも魔法に耐えながら俺の元へと剣を手に迫りくる。

再度具現化の布でその剣すらも受け止めると、天使が驚いた声を上げたのが分かった。

―――俺に驚いたのか、それとも地底界の者に驚いたのかは分からない。

だがその一瞬を俺は見逃さなかった。

名前のない具現化の布で一瞬にして天使を絡め取ると、身動きの取れない天使は俺と地底界の者を見つめる。



「おお、凄い凄い」

「とぼけるな!!」

「おお、怖い怖い」

「オイ……何なんだよこの状況は!! 天使には襲われるわ地底界の奴はいるわ!! ったく良い事ないぜ」



そう言いつつ溜息を吐くと、俺はとぼけた顔をした青年と俺達を睨み付ける天使を見た。



「どう言う事なんだ? ラルアガース王国を襲ったのは……考えるのも必要がない程な訳だが」

「我々は命令通りに動いているだけだ!!」

「それって宣戦布告って事?」

「……」



そう口にした途端、天使は歯をギリギリと言わせて俺を睨み付ける。



「俺もさ、馬鹿じゃない訳よ。今から千二百年前の大戦で四つの世界は平和協定を結んでいるはずだ。それを……天上界側から破ったのか?」

「それはっ」

「しかも協定を結ぶよう働きかけた英雄の一人、ナサ=ラルアガースの治める国、ラルアガース王国を襲った事は、他の界の者たちも黙っては無いだろう」

「…………」

「他の界をも敵に廻して良い事なんて一つも無い筈だ。 無駄な血が流れるだけなのは天上界の者たちとて分かるんじゃねぇの? それとも………精霊界にもこんな風に攻撃してんのか?」



そう問い掛けると、天使は高笑いし始め俺と地底界の者を目を見開いて見つめる。

最早、狂ってるとしか言い様のない様子だが、それでも俺は気負けする事も無く笑い続ける天使を見た。



「精霊界!? ククククッ ………あの様な不抜けた者たちを何故我々が相手にせねばならんのだ? だが、精霊王は中々理解ある者だと耳にしたことがある」

「なるほどねぇ。精霊王が天上界の奴と手を組むこともあり得る訳だ。それを見越して、平和ボケしてる様な地上界を狙い、配下につけたその後地底界へ攻撃を仕掛けるでOK?」

「……頭のキレる少年だ。どうだ? 私が上のモノに言えばお前を仲間に入れてやっても良いぞ?」

「冗談でもゾッとするな~……悪いけど遠慮するわ」

「悪い話ではあるまい!?」

「ん、悪い話だね。それに俺のツレが許さんだろうしな~……悪いけど、ここで死んで貰うわ」

「何を!?」



そう最後の言葉を口にした天使に背を向けると―――指をパチンと鳴らした。

断末魔の雄叫びを上げながら……具現化の布は天使を締め上げ、肉が裂ける音や骨が砕ける音が聞こえる………。

ボタボタと大量の血が布の下から流れ落ちるのを横目で見ながら、ある程度音が聞こえなくなったところでもう一度指を鳴らすと、布は剥がれ落ち死体だけがグシャリと音を立てて地面に落ちた。

ヒラリと布を手にすると、布には血の跡なんて一つもなく新品同様だ。



「便利な布だねぇ」

「関心するトコはそこかよ」

「いやいや、色々聞けて私も助かったよ」



そう言ってにこやかに語る地底界の青年は俺をジッと見て「ふむ」と口にする。



「中々頭のキレる少年だな、君がいてくれるならトモカサも安心だ」



その言葉に俺は目を見開き青年を見た。



「安心しなさい。私は君たちを襲うつもりは微塵もない」

「………何故トモカサの名を知っている」

「事情があってね。所で精霊族の君の名前は何かな?」

「色々調べてやがんな」

「そうは言っても、昨日十年振りに地上界に来たんだよ。そしたらラルアガース王の一人息子が奴らに追われていたのでね。助けてあげたんだ」

「あの女の子………ラルアガース王の一人息子か!?」

「ああ、ついでに群がってたのも始末しておいた。伝達の者も始末しておいたから君たちの事は今時点では分からない筈だ」



そう男がにこやかに話すと、男の影がうねり俺が殺した亡骸を闇へと引き摺り落とす。

―――なるほど、死体が無かったのはこの所為か。

「いやぁ……それにしても見事な手際だったねぇ。精霊族は殺傷を好まないと思っていたんだが」

「時と場合を考えろよ」

「だがあれだけの事があった訳だし、王子を助けたと言うのもある。 天上界の者達が君たちの特徴を村の者に聞くことを考えると、君たちはこれで晴れて天上界の奴らのターゲット……って所かな」

「面倒だなぁ」

「な~に、そこまで悲観する事は無い。これも何かの縁だ、私も旅に同行させて貰いたいな」

「はぁ!?」



そう俺が言うと、青年はにこやかな笑顔で俺を見つめてくる。



「ただ、ちょいちょい地底界に帰るけど。ああ、そこは追及しないで」

「何者なんだお前……」

「君たちの敵ではない事は確かさ」



そう言って笑った笑顔に一瞬トモカサと重なった。



「まぁ、決めるのは俺じゃなくてトモカサだしなぁ……。トモカサに聞いてくれ」

「了解、ではこんな場所からはサッサと離れて村に行こうか」



そう言うと俺と地底界の青年は歩きだし森を後にしたが――。

「ちょい待ち」

「お?」



そう言うと俺は青年の白いマントを掴んだ。



「………褐色のは――だ!!!」

「ああ、大丈夫大丈夫。ちゃんと魔法を入れ込んである服だから」

「どんだけ準備してこっちに来たんだ?」

「ふふふ」



そう言って笑う青年に俺は溜息を吐くと、兎に角みんなの待つ宿屋へと向かったんだが―――。



「なぁ、そう言えばお前名前は?」



肝心なことを聞き忘れていた事を思いだし問い掛けると、青年は一瞬考え込んだ表情をしてこう口にする。



「トモカサにでも、付けて貰うさ」

「ふーん……本名すらも言えない立場の奴なのな」

「ははははは! 深入り禁物だよ?」



そう笑いながら、しかも鼻歌交じりで宿屋へと向かう青年に、俺は嫌な気もせず後ろを歩いて宿屋へと戻ったとある日の朝の出来事――――。




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