第17話 買い物にも事情がある事を知る。

――クリームside――



「どう言う事なんだオイ!!!」



宿屋に戻り部屋に入るなり、リオが声を荒げて俺とトモカサに詰め寄った。



「トモカサ!!!」

「なに?」

「お前……本当に母さんを探して旅をしてるのか?」

「違うよ?」

「おい待て」



サラリと口にした言葉にリオは目を細めてトモカサの頭を引っ叩いた。



「嘘付いて買い物しちゃダメだろ!」

「仕方ないじゃない、僕のこの見た目で旅してるって言ったら、理由言わないと武器売ってくれないんだよ!?」

「そう……なのか?」

「そりゃさ……クリームやリオみたいに年相応に見られれば僕だってさ………」



そう言ってポロポロと涙を零し始めたトモカサに、今度はリオが慌て始めた。

まぁ確かにトモカサは十四歳と言う年齢にも関わらず、背も低いし声変わりだってまだだし、実際周りの大人から見れば、十歳~十二歳の少年に見られても仕方ない。



「リオ、確かに嘘をつくのは悪い事だが、トモカサの場合理由が無いと武器を売ってくれないんだよ。トモカサの場合見た目や顔、性格を考えたら『親を探して旅をしている』って事にした方が良いわけ。親の仇を討つ為に~とかじゃ説得力無いだろ?」

「………まぁ、確かにトモカサのこの顔と性格じゃ似つかわしくない理由だな」

「で、俺はその護衛として付き添っていると言う形で旅をしてる訳。そうすれば俺だって武器を購入できる。良いかリオ、この世界は青少年への武器の購入が難しくなってきてるんだ」



そう言うとリオの頭をぺちっとで叩いておいた。



「だからリオも、トモカサの護衛として旅をしているって事になってんだよ」

「外の世界は色々大変なんだよ~?」

「第一旅人として武器の購入が出来る年齢は十八歳以上と定められてるんだぜ?」

「えっ? そうなの?」

「でも、理由があっての武器購入なら十八歳未満でも買えるんだよ。だから僕達はある意味特殊なの」

「なるほどなぁ……そう言う決まり事があるなんて知らなくてさ……」

「いや、教え忘れてた俺も悪い」



そう言うと俺はベッドに座り溜息を吐き、今日の朝買ってきた新聞を広げた。



「………だが、その規定も崩れる事態が世界では起き始めている」

「え?」

「どう言う事?」

「これを見ろ」



そう言うと俺が広げた新聞に二人は目を見開いて俺を見つめた。



「…………ラルアガースの国……襲われたの?」

「ラルアガースって、前お前らが話してたよな? 剣術に優れた国で~……えーっと」

「王は歴代ずっと魔法を使う事が出来る」

「それそれ!!」

「どうやら王が何者かに殺害され、国も攻撃魔法でやられたらしい」

「それって………」



そうトモカサが顔を上げると、俺は頷き溜息を吐いた。



「国一つを滅ぼすだけの魔法だ……地底界の奴らの可能性が高い……が、生き延びた国の住人によると、襲った奴らの肌の色は褐色では無かったそうだ」

「じゃあ……」

「天上界、もしくは精霊界の者による攻撃だな……。だが精霊界の奴らってのは殺生を好まないモノが多い。ま、今の精霊界の王はそれとは違うようだがな」

「ラルアガース王には一人息子がいたよね? その子も殺されたの?」

「行方不明……としか書かれていない」



そう言うと俺は新聞をベッドに放り投げた。



「ラルアガース王国は歴史も古く、地上界でもかなりの大きな王国だ。剣術にも優れ、魔法に関しても寛大な国でもあるし、平和の象徴とされてきた国だ……狙われる要素は何一つ無い筈だ」

「……だが襲われたとなると」

「どこの界かは分からないが、宣戦布告と言ったところだろうな」



そう俺が口にすると、トモカサは新聞を手に取り悲しそうな顔をしている……。



「他国の王達は今頃オロオロとしてるだろうな。ラルアガース王国を潰すだけの攻撃だ……他の王国に太刀打ちできるとは思えない」

「そんなにラルアガース王国は凄いのか?」



そう問い掛けて来たリオに、俺が知る限りのラルアガース王国の歴史を語り始めた。

ラルアガース王国が有名になったのは、今から千二百年も昔に起きた、地上界・精霊界・天上界・地底界をも滅ぼすだけの力を持った男と戦った英雄の一人だからだ。

他の者たちの名前は分からないが、その英雄の一人が『ナサ=ラルアガース』と言う王様らしい。

他の英雄たちがどこの界の者だったのかは不明とされている中、ラルアガース王だけは記録としても残っている訳だが―――。



「その英雄の子孫を殺し、そして国を襲うと言う事は、それだけ重大かつ今後戦争が起こると考えて間違いないだろう」

「行方不明の王子も心配だね……」

「捕まっていたとしても、生きてる可能性はあるんだろ?」

「それは無い」

「なっ!」

「王の一族は皆殺しにされているらしいし、唯一遺体が見つからなかったのが王の一人息子だけだそうだ」

「生きてる可能性があるって考えて良いのか?」

「恐らく、そう考えたい所だな。 兎に角、各国々は魔法を使える者や剣術に自信がある者を募り始めたらしい」

「傭兵集めかぁ……」



そう言うと、トモカサは自分のベッドに腰掛け新聞を読んでいる。

だがその時。



「なぁクリーム。そんな簡単に地上界に天上界の奴らが来たりする事なんて出来るのか?」



と、問い掛けてきた。



「良い質問だな。ま、そうだな……行き来は出来ない事は無いんだぜ? 魔方陣さえ描ければな」

「魔方陣?」

「この四つの世界には、それぞれ魔方陣が存在するんだよ。金を支払って行き来するか、もしくは自分で魔方陣を描くか唱えるか、魔方陣が描かれている洞窟に行き封印を解くか、この三つだな。時空を超えるだけの魔方陣だから精神力もかなり削ぎ落とされる訳だが、ラルアガース王国の城にはその魔方陣が数多く描かれた部屋があると言われている」

「数多く?」

「この地上界だけでも、あちらこちらに移動する為の魔方陣があるんだよ。国の数だけ魔方陣が存在していて、飛んだとしても何所に飛ばされるかはランダムな訳だ。 その国の中に飛ばされる事もあれば、近くの場所に飛ばされる事もある、不安定な魔法ではあるんだよな」

「なるほどなぁ………」

「んで、四つの世界を行き来しようとすれば、四つの魔方陣が必要になる訳」

「ふーん」

「でもクリームはその魔方陣描けるし魔法も使えるのに使わないよね」



そう俺がリオに説明していると、トモカサは話を聞いていないようで新聞に目を通しながら話に加わった。



「え? クリームってそんな魔法まで使えんの?」

「使えるよ~。クリームの服の模様だって魔法の一部を模ってるだから」

そうトモカサが口にすると、リオは眉を寄せながら俺の服を見つめてきた。

「………魔方陣……っぽくないよな?」

「一部って言っただろ~」

「へぇ……俺の服もそうなのか? お前の服と似たような部分があるけど」



そう言って袖の部分を俺に見せるリオに、俺は片方の耳飾りを取りリオの袖の部分に翳した。

途端浮かび上がったのは―――魔法の呪文。



「!?」

「内緒にしたかったんだけどな~……まぁ仕方ないか。ぶっちゃけると、お前の服には『日焼けするまで仕事している』って思わせる為の魔法を入れ込んで作ってある」

「なっ!」



そう大きな声を発して立ち上がったリオには申し訳ないが、もしもを考えた上での俺なりの対応だったと説明をした。

確かに畑仕事をし過ぎて色黒な肌をした者は多いが、リオの様に褐色の肌になるまでに働いている人間はこの世界には居ない。

悲しい事だが………リオの肌の色は地底界の者と同じ肌の色だ。



「この服を着ている限り、リオは地上界では地底界の者と思われる事が無い様に魔法を掛けている……。 ま、つまりはこの服を着る事であくまで一般人には自動的に暗示が掛かる様に出来てるって事だ」

「………そんな」

「でも、リオを守る為の服でもあるんだ……ごめんな」



そう謝ると、暫くリオは無言だったが、自虐的な笑みを浮かべて「仕方ないよな」と口にした。



「俺も可笑しいとは思ってたんだ……そっか、クリームが俺を守る為にか………だったら村の奴らの反応も納得だぜ」

「リオ……」

「気にするなよ。お前の作った服のお蔭で俺は伸び伸びとこの村で過ごせてるんだぜ? ま、クリームが布やらに魔法やら暗示を掛けれるってのにはビックリはしたけど」



そう言うとリオはベッドに座り、そのまま後ろに倒れると天上をジッと見つめた。

長い沈黙………トモカサも心配そうな表情で俺とリオを見つめ、どう声を掛けて良いのか迷っているようだ。

だけれど。



「クリームが作ってくれたこの服を着てると、俺は安心出来るんだ」

「リオ……?」

「それでいい。 それだけで………俺は自由だ」



そう言うとリオは目を閉じて微笑んだ……。



「それに、俺が褐色の肌って言うのに、お前等二人は俺の事を友達だって、仲間だって言ってくれて、一緒に旅まで出来てるんだ。これ以上の事望んだら罰当たるぜ」

「ふふふ、リオったら!」

「ま、そう思って貰わないとこっちも困るぜ。服に魔法入れ込む作業って結構ハードだからなぁ~」

「だから、魔法を入れ込む服を作る時ってクリーム周りの音聞こえなくなっちゃうんだよね。心の中で魔法をずっと唱えてる状態だし」

「でも、暗示が掛かる様に出来てるなら肌を露出させても問題ないよなー」

「まぁね」

「そうだそうだトモカサ、さっき買った武器見せてくれ」



そう言って上半身を起き上がらせたリオは、トモカサから先程武器屋で購入した武器を受け取り、胡坐をかいて考え始めた。



「接近戦向きの武器………だよなぁ」

「うん、僕二つとも使えるよ」

「お前どんだけ武器使えるんだよ……てか、この武器二つともやっぱトモカサに譲るわ」



そう言うと、リオは少し集中すると武器屋の主人が問題にしていたオートボウガンを具現化した。



「あれ、具現化早くなった?」

「まぁな。俺はやっぱり遠距離武器で戦うのが向いてる気がしてさ」

「なるほど~」

「トモカサが前衛で戦って、クリームが魔法援護、俺は射撃で~……ってダメかな?」

「別に構わないよ? ただ、複数の敵に囲まれた時リオを守れるか自身無いけど」

「その時は銃をアレコレ変えたりして逃げ切るさ」

「なら問題無いんじゃないかな? どう思うクリーム」



と、最終判断は俺に任せられた訳だが、リオが一番戦いやすい状況が遠距離だと言うのなら無理強いもしないと告げると、二人は安堵して顔を見合わせていた。



「ま、色々世界情勢の方も気になるが………取り敢えず飯にすっか」

「だね、クリームご飯作りいってらっしゃーい」



そう言うと俺はエプロンを装着して部屋を出て宿屋の台所へと歩いて行った。

そして、その夜は静かに過ぎて……本当にこの地上界で戦争なんか起きるのか? と思う程の静寂の夜だった。




****

しかしその頃――二人の運命が動き出す。

血まみれの少年は森の中を彷徨い歩き………今まさに三人が滞在している村へと何かに導かれる様に。意識が朦朧としながらも辿り着こうとしていた。

――街が燃えるのを、何もできず見る事しかできず……。

――父と母が必死に私を逃がし………。

――魔方陣に押し込まれると……父が最後の力を振り絞って私を外の世界へと逃がした夜……。

何かに呼ばれる感覚を受けながら、私は一つの村の入り口にたどり着くと意識を失った。




****




「陛下、本当に行かれるのですか?」



漆黒の世界で、一人の青年が魔方陣の前に立ち、複数の配下の者たちが青年に膝付き震える声で問い掛けた。

青年は褐色の肌に水色の髪……片目には痛々しい傷跡を持っていた。



「我々では駄目なのですか!?」



そう配下の者が立ち上がるが、青年は優しく微笑むと光り輝く魔方陣へと目を向ける。



「あちら側が動いたのであれば……守らねばなるまい」

「しかし!!」

「時は満ちた……大切な者達を取り戻す為に、私は十数年待ったのだ」



そう言うと青年は魔方陣の中へと足を進めていく……。

光と闇が存在する地上界へ。

運命の歯車が静かに動き出した瞬間だった―――。



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【★完結★】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

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モグリでバグ持ちお人よし人形師は、古代人形の陰に隠れる

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