第10話 俺の中の開けてはいけない蓋を感じつつ、気分を入れ替える。

――クリームside――


翌日からは、リオに旅についての話や、モンスターとの戦闘についてや、魔法の発動の仕方、そしてアイテムの名前や効果などを教えようと思ったのだが……。



「……悪い……俺、ガッコウとか文字の勉強とかした事なくてさ……」



そう言って申し訳なさそうに答えたリオに、俺とトモカサは顔を見合わせて、リオにまずは文字の読み書きを教える事を提案して数日後経ったある日の事。



「お――っしゃぁああああ!!!読み書きはマスターしたぜ!!!」

「おめでとうリオ!!!」

「じゃあ次算数な!!!」



と、俺が作った自前のドリルを手渡すと、リオはガク――ッと肩を落としてドリルを受け取った。



「はぁ……普通の奴らってこんな勉強すんのな」

「それだけじゃないよ、数学、英語、化学に生物とかいっぱい!」

「お前は銃器系を具現化するんだから、そっち方面シッカリ頭に叩き込んどけよ。 役に立つから」

「うへーい……」



そんな俺たちの話なんぞ耳に届いてる筈もなく、リオは頭を抱えて雄叫びを上げた。



「ダメダメ!! 勉強ばっかりだと息が詰まるぅぅううううう!!」

「もう! 我儘だなぁ」

「俺が折角家事の合間にドリル作ってやってるってのに……」

「八つ当たりしてくる!!」



そう言うとリオは立ち上がり、近場で草を食べていた草食のモンスター相手にバズーカ砲をぶっ放した。

ここ数日、あの 【八つ当たり】 のおかげもあり、リオのレベルはメキメキ上がっている。



「一石二鳥とは正にこの事だな」

「だねぇ」



遠くでドンパチと大砲やら発砲音が聞こえたが、ここ数日で慣れた為トモカサも俺も普段通り過ごしている。

まぁ、確かに勉強は嫌いではあったが、そのお陰あっての今の生活だ。

リオにだって必要最低限の事しか教えるつもりは無かった。

そんな事を思いつつ、洗濯物を取り込んで畳み終ると、俺は鞄から地図を取り出し、近場に町や村が無いかを探していると、トモカサも俺の隣に座って地図を見始めた。



「今この辺だよね?」

「だなぁ……近くの村や町だと………歩いて4、5日ってところかな」

「そう遠くないんだね」

「俺らの足ならな、でもリオの足だと………6、7日は掛かるぜ多分」



そう言うと俺とトモカサは遠くで雄叫び上げつつストレス発散してるリオを見つめた。



「……でも、あの様子だと結構歩くのも早いかもだね」

「だと良いんだがなぁ~」



そう呟いた瞬間、ドデカイ爆発音が上がり、リオが煙の中から出てきて俺達の元へと戻ってきた。



「げほっ あ――……少しスッキリした」

「それは良かったw」

「お、地図見てたのか」

「ああ、そろそろ食材も乏しくなりつつあるし、町か村が近くに無いかな~と思ってさ」

「ふ――ん。 でも金貯まったのか? 俺の服やら揃えるのに結構使ったろ?」

「その辺は分担してるから大丈夫だよ。クリームは家事とリオに勉強を教えるのに専念で、僕がお金稼ぎとお肉や魚の調達兼お金稼ぎしてたし」

「結構な毛皮とか取れたからなぁ。 それも換金すればそこそこの値段になるな」

「何か……悪いな……俺何もしてないのにさ」

「そんな事ないよ? リオが殺害したモンスターからアレコレ僕が剥ぎ取ってある」

「満面の笑顔で怖い事言うなよ……」

「たださ、一つ困る事があるんだよね」

「へ?」



そう言うとトモカサは頬を膨らませてリオに詰め寄った。



「リオさ~……もうちょっと綺麗に倒せない?」

「え? 何で?」

「素材にしたくても、銃痕が沢山あったりで綺麗な商品じゃないの。 換金するならそれなりに綺麗な素材じゃないとダメなんだよ」

「だなぁ……ただ殺せばいいってモンじゃ無いな」

「その点クリームは綺麗に始末してくるよ?」

「マジか? そう言えばクリームの武器って見た事ねぇや。 どうやって倒すんだ?」



そうリオが不思議な顔して俺に問い掛けて来たので 「面倒くさーい」 と言ってプイッとソッポを向いた。



「何だよソレ―――!!」

「お前がまず文字を覚えないと……次から次にアレコレ覚えれないだろ? 戦闘についてとか聞かずに八つ当たりでガンガン行くからレベル上がってるけど」

「でもさー……毎日朝から寝る前まで勉強だぜ? 俺だって別の方面で息抜きしたくなる気持ち分かるだろ?」

「あ、それは分かる」

「トモちゃ~ん?」

「やっぱり根詰め過ぎだよ~。 少し息抜きが必要じゃないかなぁ?」

「だろ? だろ~~?」



そう言いながらトモカサの頭を撫でまわすリオにイラッと来ながらも、俺は溜息を吐くとリオをジッと見上げた。

―――確かに勉強は出来る奴だとは思う。

戦闘も、教えれば確実に強くなるだろうし、銃器関係の武器だけではなく、他の武器も作れるようになるに違いない。

――そう……例えば………。



「クリーム?」

「!?」



思わず何かに吸い込まれそうになった時、トモカサの声で一瞬ビクッとしてしまった。

何を思い出そうとしたのか分からないが、言い様のないナニカを感じたのは確かだった。



「え? 何の話してたっけ?」

「だから、リオの息抜きの話!」

「ああ」

「大丈夫か? 何か顔色悪くね?」

「大丈夫だ、問題ない」

「クリーム?」



二人揃って顔を見つめて来たので「恥ずかしい!!」と言うと二人は呆れた表情で溜息を吐いた。



「兎に角! リオも勉強ばっかりじゃ疲れるし、息抜き無いとダメだと思うだ」

「ってもなぁ……必要最低限の事くらいは頭に入れて貰わないと俺としても困るんだぜ? 町やら村でリオにも買い物頼もうって思ってるのにさ」

「おいおい、冗談だろ? 俺の肌は褐色だぜ?」

「胸張って歩けばいいだろ。 何か言われたら外で働き過ぎたとか言えば良いんだし」

「本当にソレって使えんのか?」

「使える使える~」



そう言って手をヒラヒラさせると、リオは溜息を吐いて地面に座り込んだ。



「んで? どれをどこまで頭に叩き込めば息抜きさせて貰えんの?」

そう不機嫌に口にしたリオに、俺は算数のドリルを手にするとリオの顔に投げつけた。

「この算数をぜぇ~~んぶ覚えたらっ!!」

「ぬう………」

「銃器関係使うなら数学も算数も化学も色々頭に入れ込んでおけ! あ、敵に対してへの弱体を考えるなら生物も必要だし、錬金術とかも良いかもな」

「錬金術?」

「クリームは錬金術と裁縫と料理が上手いんだよ。 鞄の中にだって沢山の錬金術のアイテムが入ってるし。 錬金術は色んな素材から多種多様のアイテムを作るんだけど、中には毒薬もあったり麻痺薬もあったり。 でもクリーム程の腕前ならホムンクルス作れそうだけどな~」

「ホムンクルス?」



聞き覚えの無い言葉に首を傾げると、トモカサはリオに丁寧に教えてくれた。



「人口生命体って言えば良いかな? ただ、成功例が少ないし、失敗すると目も当てられないモノが出来るって聞いたことある」

「何か………禍々しいな」

「でも、ホムンクルスって長生き出来ないから直ぐ死んじゃうんだよね?」

「だなぁ。 まぁ俺は命を吹き込んだ商品を作る気は無いけど」

「ふ――ん」



そう言って俺をマジマジと見つめるリオに「何だよ」と答えると「お前って変態だけじゃなかったんだ」と言われたので顔面を足で蹴っておいた。



「何すんだよ!!」

「馬鹿野郎! 能ある鷹は爪を隠すって言葉を知らんのか!」

「まぁまぁ二人共」

「だ・れ・の……おかげで勉強してると思ってんだお前は?」

「クッ」

「これ以上馬鹿にしたら勉強教えてやらん!」

「クリームも止めてよ~~~。 何か今日のクリーム様子変だよ?」

「…………」



そうトモカサに言われて頭をガシガシかくと、大きな溜息を吐いた。

………確かに、さっきの何かに引き寄せられそうになってから可笑しい………。

ホムンクルスの話だってそうだ。

何か俺には――タブーなモノの様に感じた。

足元から何かが忍び寄ってくるような………そんな違和感が俺を苛立たせる。

そんな時だった……。



「………やっぱ……俺が勉強で分からない事聞きすぎた………かな……? 悪いクリーム」



そう言って困った表情で頭を下げるリオと、心配そうな表情で俺を見つめるトモカサに、俺は何て言っていいのか分からず頭をかいた。

すると―――。



「……やっぱさ、町行こうぜ」

「おい」

「俺っ……俺自分で教材買って勉強するから!! これ以上クリームに負担掛ける訳にはいかねぇよな」

「リオ……」

「だからさ! このドリル全部終わったら……俺一人で教材買ってくる。 息抜きは今まで通り――――じゃなくて、ちゃんと売り物になる様に気を付けて倒す」

「リオ…!」

「だからさ、俺が居なかった時みたいに過ごしてくれよ。 邪魔になりたくねぇしさ」



その最後の言葉を聞いた瞬間、俺は立ち上がりリオの首根っこを掴むと思い切り殴った。

これにはトモカサも驚いて間に入ったが、どうしても許せなかったからだ。



「誰が邪魔とか言ったんだよ!!」

「ちょっとクリーム!!」

「んだよ………俺がアレコレ聞くからお前のストレスが溜まったんじゃないかって思ったんじゃねーか!!!」

「邪魔だと思ってんだったらドリルなんか作るかよ!!」

「だったら何だよさっきからの態度は!!」

「二人とも止めて!!」



トモカサが必死に俺にしがみついて喧嘩を止めようとしているが、普通ならこの感触で怒りが収まるのに今日に限って収まらない。

それだけの事を、あの最後の言葉でリオが言ったからだ。



「邪魔なんて思わねぇし、イヤだったらお前を旅に連れてくなんて言うかよ!!」

「だったら何でイライラしてんだよ!!」

「……二人ともヤメテって言ってるのに………言ってるのに―――!!!」



そうトモカサまでも大声を上げた瞬間―――俺の腹に強烈な拳が入り、リオは回し蹴りを食らって転倒した。



「~~……ッ」

「喧嘩両成敗!! 次したら骨砕くよ!!!」

「ふぁ……ぃ……」

「リオ聞いてる!?」



そうトモカサが両手を腰に添えてリオに近寄ると……トモカサが今にも泣きだしそうな表情で俺を見つめてきた。



「ん?」

「ど……しっ……どうしよう……僕手加減したのに……あっ アイテムアイテム!!」

「オイ待て……まさか……」



痛む腹を押さえ地面を這いながら倒れて動かないリオの元へと向かうと――泡を噴いて死んでいた……。



「トモちゃ――ん……」

「ごめんなさ―――い!!!」



ガポッとリオの口に蘇生アイテムを突っ込むと、リオはパチッと目を覚ましたが……。



「………お花畑がみえたぁ~……」

「うんうん、見えたな」

「ごめんねリオ、手加減したんだけど……まさか逝くなんて思って無くて……」



そう言って涙を零し泣き出してしまったトモカサに、俺とリオは顔を見合わせ、縮こまって泣き続けるトモカサを見つめた。



「いやさ……俺等も悪かったし……?」

「そうそう! 俺とリオが喧嘩したのが発端だしさ!!」

「ひっく……でもクリームとリオ………仲が悪いから……」

「んな事ない! 俺とクリームって…………友達……だもんな!!」

「だよな!! 友達友達!!! 喧嘩する程仲がいいって良く言うじゃん!?」

「だよな!!!」



思わず肩を抱き合いトモカサに仲の良さをアピールすると、涙を拭いて俺とリオを見つめるトモカサは、次第に笑顔を見せた。



「良かったぁ~」

「だろ~?」

「取り敢えずさ、この算数のドリルを全部クリアしたら、生き抜く術とか戦闘の極意とかアレコレ教えてくれよ、な?」

「うん!」

「クリームも頼むな」

「おう!」

「へへ……っ よし!! 俺ちと勉強する!!」



そう言うとリオは意気揚々と解説付きで分かりやすく書いたドリルを開き、机のある場所へと向かうと直ぐにペンを走らせ始めた。

そんな様子に笑みを浮かべると、トモカサは俺の横に座りニッコリとした笑顔を向ける。



「……ん?」

「ううん、行き成り喧嘩し始めるから僕びっくりしちゃったよ?」

「悪い悪い、リオが自分の存在が邪魔みたいな発言するからさ、思わずカッとなっちゃって」

「まぁそれは分かるけど」

「でも、これからも喧嘩は多いかもな~……」

「え―――……」

「だってさ、リオはきっと同年代の奴と喧嘩とかした事ないぜ?」

「あっ……」



この言葉に、トモカサはハッとすると俺の気持ちに感づいたようだ。

―――リオは友達も一緒に生活する人も居らず、ずっとあの暗い森で一人で生きてきた。

同年代の友達と遊ぶ事も、同年代の友達と喧嘩する事だって一度も無かっただろう。

こうして数日一緒に生活してきても、中々自分から話す事が苦手な様でもあったが、色々知る事も、覚えなくてはならない事も多くて、分からない所をどんどん俺に質問してきた。

そんなリオを、俺は面倒臭いとか、教えるのが億劫とか思わず、解りやすく話をして必死に知識を身に着けようとするリオを応援してきた。

そんなドリルに噛り付くリオを見つめ、フッと笑うと同時に、トモカサが笑い始める。



「ふふっ」

「ん?」

「なんでもな~い! あ、僕コーヒー入れてくるね!」



そう言うと立ち上がりテントへと入っていくトモカサを見て笑うと、俺は空を見上げて雲が流れる様を見つめる。

―――今日の晩飯……何にすっかなぁ……。

天気も良いし……リオもやる気が増したし、初めて大喧嘩だってした。

それに、リオが勉強へのやる気を出した事や、一人で教材を買いに行くと言う言葉も聞けた。



「……砂糖……醤油……ん、今日の夜はすき焼きだな!」

「え? なになに?」

「トモちゃん! リオ!! 今日はちょっと豪勢にすき焼きでも食わねぇ?」

「食べる!!!」

「スキヤキ……? 何だそれ?」

「食べれば分かる!」

「えへへ~……特別な時にクリームが作ってくれる御馳走だよ!」

「おおおお!!」

「だからさっさとノルマ終わらせて飯食えるようにしろよリオ」

「おう!!」

「あっ 分からない所は僕に聞いて! クリームは夕飯の用意あるだろうし」

「助かる! あ、じゃあココ早速聞きたいんだけど」

「どれどれ?」



そう言うとトモカサは俺にコーヒーを手渡しリオの元へと駆け寄ってドリルを見ている。「えーっとね、ここは……」と話してはリオも頷いてるし、そんな様子を見て更に機嫌が良くなった俺は、今日は肉タップリの美味しいすき焼きを作ろうと思った。



「よし! じゃあ下拵え始めるか!」



一気にコーヒーを飲み、近くの川で洗うと鞄からエプロンを取り出し装着する。

包丁を持つ手は軽やかで、鼻歌を歌いつつ料理を始めた俺は、後ろから聞こえる二人の話に耳を傾けもしつつ夕飯に取り掛かったとある日の出来事。




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【★完結★】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

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モグリでバグ持ちお人よし人形師は、古代人形の陰に隠れる

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