第6話 焼き討ちにしようとしたリオの爺さんと、燃えるフォルナスの泉。

――クリームside――



「お――い!! 戻ったぞ――い!!」

「あっ お帰りクリーム!」

「テントやら諸々片づけたぞ」

「悪いな、てかそれ位やりやがれw」

「んだと!?」

「ちょっと二人ともヤメテよね」



そんな話をしている間にも、僕はクリームの様子の可笑しさに気付いた。

指先を見ると、微かに赤い血の色を見ることが出来たからだ。



「……取り敢えず、リオの服を作ってから出発したかったんだが、ヤバイのを見られてしまったので急いでココを去るぞ」

「ヤバイのを見られた? その耳か?」

「ん、説明はあとあと!! クリーム、収納鞄は?」

「ほらよ!」



そう言うとクリームは鞄からリオ用の収納鞄を投げ渡した。

鞄―――とは言っても、背中に背負う様なモノでもなく、腰につけるポシェットの様なモノだけれど、大容量のアイテムが入るアイテムボックスだ。



「毎回思うけど、こんな小さな鞄に良くテントやら何やら入るよな」

「アイテム整理はここから離れてからしよう。 ほらクリーム! 行くよ?」

「よし、行くぞ!!」



そう言うと僕たちは頷き、森の奥へ奥へと走り出した。

幸いこの森には敵は居ないようだし、出来るだけ離れた場所に移動した方が良いと思ったからだ。




「それより!! 俺の服装云々言ってたけど良いのかこのままで――!!」

「取り敢えずココから離れる方が先――!!!」

「クリーム――!! 何見られたの――??」

「さて! 何かなぁ!?」

「てかお前等黙って走れよ!!!」



そんな事を言いながらも、僕たちは森を抜け更に走り続け開けた土地に出ると立ち止まり、息も切れ切れに走ってきた方角を見つめた。

リンガルドからは随分と離れたようだし、ホッと溜息を吐くとリオは地面に倒れて「もう走れない」と口にした。

確かに随分と走ったし、街からは離れたから問題は無いとは思うけれど………。



「リオ~……もっと体力つけないと敵に殺られるよ?」

「はぁ!?」

「フォルナスの泉の森には敵が居なかったけれど、普通街の外に出ればモンスターだらけなんだよ?」

「ほれ、あそこに居るのも敵だし、アクティブなモンスターも多いからなぁ」

「何だよそれぇ~~……」

「あ、でも良い事もあるよ? 敵を倒せば素材が貰えるw」

「アイテムとかなw」



そうにこやかに答えると、リオは起き上がり僕達を見つめてきた。



「冒険者の世界だなまるで。レベルもあったりするんじゃね?」

「あるよ~」

「俺がレベル50位でトモカサが52位か?」

「で、俺は?」

「「良いとこ行って10後半?」」

「低いな……」

「死なないように気を付けてね!」



そう言って僕がリオの肩に手をポンと置くと、リオは大きな溜息を吐いた。

まぁ戦闘は身体で覚えるしかないし、敵の特性なんてのも多種多様で色々苦労する事も多いだろうけれど、それはそれで覚えて行って貰おうと言う事になった。



「ところでクリーム、リオの服の素材諸々食材も買ってきた?」

「主夫に抜け目は無い!! 暫く旅しても大丈夫なくらい買ってきた」

「そっか」

「取り敢えず安全な場所まで移動して、リオの服を繕うのとテントだな」

「そうだね」



そう言って僕とクリームが立ち上がると、リオも身体を起こして立ち上がった。

色々聞きたい事もありそうな感じではあったけれど、三人で開けた土地を歩きながらもクリームの後ろを着いて行く、すると――。



「おっ あのエリア良さげ」

「OK、じゃあそこがテントだね」

「あぁ? 他の場所とあんま変わらないじゃねーか」



そう言ってリオが目を細めるのも仕方ない、他の場所と変わり映えしない開けた土地だし、唯一あるのは小さな川くらいだ。



「この一帯の水質汚染は酷いんだぜ? 大丈夫なのかよこの川は」

「それを見る目がクリームにはあるんだよ」

「ま……精霊族だしな~」

「それと、モンスターが襲ってこない土地を見つける事が出来るんだよ。 だからココなら安全なんだ」

「ほ~……」



そう言うとリオは関心した様にクリームを見つめていたけれど、クリームは気にする事も無くあちらこちらの風景を見つめている。

そして、おもむろにターバンを外すと、耳をピクピクと動かして神経を尖らせていた。



「………どう?」

「ん、追手は来てないな」

「追手? おいクリーム、お前街でなにやらかしたんだよ」



そうリオが呆れた声で問い掛けると同時に、クリームはバッと後ろを振り返った。

遠く見つめている場所に目を合わせて見てみると――フォルナスの泉の森が燃えているのが微かに見える………。

リオも僕達の様子を不思議に思ったのか、同じ様に後ろを見つめると息を呑んだのが聞こえた……。



「フォッ……フォルナスの森が燃えてるっ」

「……焼き討ちにでもしようって魂胆かな」

「だろうな」

「!?」



この言葉にリオは激しく動揺したけれど、悲しそうな表情で遠くで徐々に燃え上がる森を見つめている。

でも――。



「唯一の森が存在し、唯一の水源でもあった森を燃やすって事は、あの街は人が生きることが出来ない場所になるだろうな」

「何でだよ!!」

「リオ!!」



クリームの言葉に、リオがクリームの服を掴んで声を荒げたけれど、クリームは気にする風でもなくこう続けた。



「あの森があってこそ、フォルナスの泉からは地下水が湧出ていた。森が蓄えた水が循環して綺麗になり地下に浸透し、それが綺麗な水を生んでいたんだよ。だがその森を燃やせば循環システムが狂い……水は湧出ることなく枯れ果てる」

「……」

「付け加えて言うと、街から排出される二酸化炭素を森が吸収し、汚い空気ながらも一応綺麗にしていたんだ。 その森が燃やされ、木々が無くなれば空気を綺麗にするシステムも狂い、公害は更に広がり人体への影響は大きくなる」

「つまり……」

「水を奪い合う様な争いが始まり、工場から排出される有害物質により病気が発生、悪化。 まぁ発展した街だ、水を他の街から買うことも出来るだろうが、値段は高く一般市民には届かない事も考えられる。 そうなるとどうなる?」

「………水を買えない人は、汚れた水を飲むしかなくなるんだよ」

「!?」

「有害物質を含む水を飲めば奇形児も多数生まれる事になるし、身体への害は想像を絶するものがあるだろうな」

そこまでクリームが語ると、リオは燃え上がる森を見つめたまま口を閉ざしてしまった……。

「ま、後の事はあの街が決める事だ。トモカサ、テント張るぞ」

「うん」



そう言うと僕は鞄からテントを取り出し、クリームは地面に座って黒や藍色、白等の生地を取り出すと裁縫を始めた。

リオは………呆然と立ったまま遠くで燃え上がる森を見つめている……。



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