第5話 リオの祖父はリオを殺したくて仕方ない。
――クリームside――
翌朝俺は朝食を作り、トモカサをテントから引きずり出して起こしていると、リオも別のテントから起きてきた。
「二人ともだらしないぞ~こんな時間まで寝てるなんて」
「朝は弱いんだよ……」
「ぐ――……」
「トモちゃん起きて!! 学校に遅れるわよ!!」
「俺が起こすからお前飯作ってろよ」
「んだよ、トモカサを起こすのは俺の唯一の楽しみ!! こんな美味しい役割をお前に渡せってのか!?」
「どこまで変態なんだよお前」
「うるっさいなぁ……」
――――なんてやり取りをしていたらトモカサが起きたので、俺はちょっと不機嫌になりつつも朝食を作った朝。
朝食も終わり、リオが自分の名前が決まった事をトモカサに告げると、トモカサはリオの背中に抱き着いて「良い名前!」と喜んでいる……が!!! 俺のハートにリオへの嫉妬の炎が付いたのは言うまでもない。
しかも、リオはトモカサに懐かれているのが恥ずかしいと言うか、慣れていないんだろうが、でも八重歯を見せて嬉しそうに笑っている。
だがしかし、トモカサから「早く買い物行ってこい」と命令されると、涙を流しながら俺は街へと戻り、リオに必要な服の素材や旅をするにあたって必要なモノを買い漁った。
そんな時だった。
「お前さん、昨日の旅の人じゃな?」
「おっ 昨日の爺さん。 おはようっす」
食材やアイテム買い終え、リオに必要な旅の素材を買っていると、店の奥から昨日リオの事を話してくれた老人が出てきて、買っている商品を見て首を傾げた。
「何じゃ? お前さん達の荷物は事足り取るだろう?」
「おやおや、旅人に関してアレコレ聞かないってのはアイテム屋の鉄則何じゃねぇの? 聞いて良いのは旅人、日雇い冒険者を管理してるトコだけだろ」
「まぁ………気になってな」
「?」
「お前さん、アレを旅に連れてくつもりか?」
そう聞いてきた老人に、今までにこやかに商品を持ってきてくれていた従業員の表情が強張ったのが分かった。
「………昨夜、お前さん達は宿屋に泊らなかった様だしな」
「へぇ~……アレコレ観察してんのな」
「アレを連れて行くのか? 悪い事は言わん、止めておいた方がいい」
「んじゃ聞くが、何時までもアイツをココに住まわせておくってのかい? 街の中じゃなく外で?」
そうニヤリと笑って問い掛けると、老人は溜息を吐いた。
「……そうか、アレも外に行くか」
「ああ、連れてく。 そう決めたからな」
そう話しながら金を支払い、買った荷物を鞄に詰めていると、老人はカウンターの下から――――銃を取り出し俺に銃口を向けた。
従業員は怯えて後ろに引き下がり、老人は肩で息をする荒々しい息遣いだ。
「………何すんだよ」
「アレを連れて行くなどワシが許さんっ」
「じゃあアレか? 爺さんがアイツを街に戻して一緒に生活するってのか?」
「アレは……アレはワシの大事な一人娘を殺した!! アレさえ生まれてこなければ、娘は生きていられた!!」
その言葉に、俺は目を見開き老人を見つめた……。
今の話を聞く限り考えたくはないが、どうやらこの老人はリオの祖父……と言う事になる。
「ワシが……ワシがアレを殺すんじゃ!! 連れて行かれたら……娘の仇を取ることが出来ん!!!」
「ハッ まさかリオの爺ちゃんかよ」
「アレを孫と思ったことなど一度も無い!!!」
パンッ と言う発砲音に、俺の頬を微かに掠った銃弾が壁に撃ち込まれる。
頬から流れる血を乱暴に拭うと、俺は溜息を吐いて老人を見つめた。
「………尚更リオをこんな場所に置いとく訳にはいかねぇわ」
「アレをっ ……アレを!!!」
「悪いな爺ちゃん、リオを旅に連れてくのは決定事項。 今更変える事なんてねぇよ」
そう言うと俺は老人の握りしめている銃を掴み、老人の目を見つめた。
――そして。
「大丈夫だ爺ちゃん……ほら、俺の眼をジッと見てみろよ……」
「うぅ……っ」
老人が狼狽えたものの、既に俺の眼から逃げる事は出来ず、老人の眼は瞳孔が大きくなっていく。
「リオが旅に出ても、何の心配もないだろ?」
「………ぅう」
「爺ちゃんが心配する事じゃないんだ……なぁ? 仇討なんてモノ必要もない……だろぅ?」
そう老人の眼を見つめたまま語りかけると、老人は力を無くし銃を落とした。
パッと老人の手を放すと、老人は無言のまま店の奥へと去って行く。
少々強い暗示をかけ過ぎたかも知れないが、その後老人が店の方へと出てくることは無かった。
不思議に思ったのか、従業員が俺を見つめ「あの……」と問い掛けてきたが、俺はすこぶる良い笑顔で「何?」と返事を返す。
「いえ……何も………」
「あ、商品ありがとな!」
そう言うと俺は踵を返してフォルナスの泉へと走り出した。
あんなのを他の人間に見られたからには長居は無用。 寧ろ危険だ。
トモカサには「乱用禁止」と常々言われている【暗示を掛ける事】だが、今回は仕方ないだろう。
だが、リオには今回の事は口が裂けても言えない事だ。
森に入ると、俺は回復魔法を使い頬に付いた傷を治し、そのまま急いで二人の待つテントへと向かった。
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