第3話 旅は道ずれ世は情け! 死ぬ時も一緒だ!
――トモカサside――
ガサッと言う音と共に彼が出て来た。
工場から排出される煙で、月明かりさえも弱々しく届くこのフォルナスの泉に彼が住んでいると言う情報は間違いでは無かったみたいだ。
「あ、ねぇ君さ」
そう言って近づこうとした瞬間、彼は手を掲げると――空気が密集して集まり、シュンッと言う音と共に彼の手には銃が握られていた。
「―――アイツッ」
「わぁおぅ」
思わず感動する僕とは違い、クリームは厳しい表情で彼を見ていた。
そして、彼は銃口を此方に向けると、低い声でこう口にする。
「金と金目のモノを置いていけ」
「金はあるけど、金目のモノか~……クリーム持ってる?」
「俺が持ってる金目のモノって言うと、お鍋とか包丁とかだぜ? 悪いが……主夫の命をお前にやる事は出来ねぇな」
「んなモノは金目とは言わねぇんだよ!! その耳に付いてるモノでも貰おうか」
そう言うと、彼はクリームの両耳に付いているピンク色の宝石に目を付けた。
「悪いがコイツはお前にはやれねぇな」
「待って、お金はあるけど金目のモノなんて見ての通り何も無いよ~」
そう告げると、彼は舌打ちして僕の足元に一発撃ってきた。
それと同時にクリームが僕の前に立ち、二人の間には不穏な空気が流れ始める……。
「……頭に浮かんだモノ、武器を具現化する力か。主に銃器関係を具現化って事で間違いは無さそうだが……でも使い方を間違ってねぇか?」
「………今までの旅人はコレを見れば逃げ出すか金目のモノを置いていくのに、どうやらお前らは違うみたいだな」
「そりゃ~俺等からしてみれば珍しい事じゃねぇもん」
「だったら……お前等も具現化してみろよ!!」
―――そう叫ぶと、彼はクリーム目掛けて数発発砲したけれど、反対に驚く事になったのは彼の方だった。
「あっぶない……ちょっと止めてよね」
「なっ」
「トモカサ~……別に何もしなくていいのに」
「何だよコレ……植物……?」
彼が驚くのも無理はない。
発砲する瞬間に街で拾った鋼の破片を鞭にして、彼の放った弾を瞬時に叩き落としたからだ。
「ごめんね、驚かせるつもりは無かったんだけど――結果的にこうなった?」
そう言いながらも、生き物の様にうねる鋼で出来た鞭に驚きを隠せないでいる彼に、僕は苦笑いするしか無かった。
「街中ではこんな事出来ないしね。人気のない場所で良かったよ」
「お前も俺と同じ様な力が使えるのか……?」
「うん、僕だけじゃないけどね」
そう言うと僕は隣で両腕を組んで不機嫌そうなクリームを見上げた。
「お前と同じ様な力が使えるんだよ。俺とトモカサはな」
「………」
「ただ、誰彼に見せて良い力でもないし、一般人には受け入れられない力さね。 見られたら最後、一般の人間に何されるか分かったもんじゃねぇしさ。 だから街中で使う時は緊急時のみって決めてんだよ」
「そうなんだよね~……」
そう言って苦笑いすると、彼は銃を下ろし僕達の元へと歩み寄った。
でもその表情は複雑そうな顔で、僕とクリームを交互に見つめると溜息を吐いた。
「……ま、お前等みたいに見た目が普通の人間なら……俺だって苦労はしなかったさ」
「見た目が気になるの?」
「当たり前だろ!!」
そう問いかけた瞬間、彼は爆発する様に大きな声で怒鳴りつけた。
「見ろよ俺の肌……褐色の肌だぜ? こんなの……こんなの地底界の奴らの色だぜ!?」
「まぁ……確かに。でも旅をしてる間に色々な奴ら見て来たけど、色が黒い奴なんて沢山居たけどな」
「それでも普通一般の人間ってのは肌の色は肌色だろ? こんな……こんな地底界の奴らの色なんてしてないんだよ!!」
そう言って自分の身体を抱きしめて顔を伏せる彼に、僕とクリームは彼がこんなにも気にする理由は何となく分かっていた。
肌の色が褐色である事は、確かに地底界の者の色である事には変わりない。その所為で彼は街で生きる事が出来ずに、こんな森の中で一人で生活していたんだろうと言うのは安易に想像出来た。
「こんな肌の所為で……お袋は死んでからも罵倒されて……親父なんて俺を息子だとも認めずに死にやがった!!」
「おい、ちょっと落ち着けよ」
「―――触るな!!!」
そうクリームが手を掛けた瞬間、彼の手はクリームの頭に巻かれていたターバンに引っ掛かり、ターバンが外れてしまった。
――それと同時に出て来たのは……人間の耳では無い長い耳。
「なっ!?」
「この馬鹿!!! ターバン返せよ!!」
「何だよお前……その耳………お前、精霊族か!?」
「ターバン返してくれなきゃ話さない!!」
「あっ……あぁ」
そうクリームが不機嫌に口にすると、彼はクリームにターバンを返した。
ブツブツ文句を言いながらも耳をきちっと隠しターバンを巻き終えると、彼を見つめて両腕を組む。
「……そう、俺は精霊族。耳を隠してなきゃ人間には溶け込めないのさ。まぁ目の方は隠しようがないからそのままにしてっけどさ」
「待てよ、精霊界の者が人間の住む地上界に居るなんて可笑しいじゃないか!!」
「良いんだよ、俺は物心ついた時には地上界の森の中で生活してた。 細かい事気にすんなよな」
「………じゃあ、そこのチッコイのは」
「ん、『チッコイ』を修正して貰わないとこの鞭でビシバシ叩くけど?」
そうにこやかな笑顔で鞭をブンブン振り回すと、彼はちゃんと修正して僕に問い掛けてきた。
その様子にちょっと笑っちゃったけど、やっぱり僕が思った通り、悪い人では無いのは確かな様だ。
「僕はトモカサ。多分人間だと思う」
「多分人間だと思う?」
「僕、両親の記憶がないんだ。気づいたらクリームが住んでた森にある川に流れついてた」
「……」
「名前だけは覚えてたけど、他は全然ダメ」
そう言うと僕はクルリと回り彼に笑顔を見せた。
そんな様子が彼にどう見えたかは分からいけれど、彼は苦笑いしながら「そっか」と答えた。
「でも不自由はしなかったよ。クリームも居てくれたし」
「やだもうトモくんったら……愛の告白な、」
「待ってて、今コイツ殺すから」
「待て待て」
そう言って森に逃げようとするクリームを鞭で捕らえると、彼が後ろで声を上げて笑った。
「やめろトモカサ!! 主夫は必要だろ!? イタタタタッ!! 締め上げすぎ!!」
「主夫は必要だけど、その邪な考えは要らないよね?」
「マジ勘弁!! コラ!! 包丁握れなくなるじゃないの!!」
「お前等、良くそんなんで旅なんて続けてられるな~」
そう言って笑った顔は、僕達をどこか羨ましそうに見ているように見えた。
「旅人……か。 俺もこんな肌じゃ無けりゃ旅人にでもなって……こんな……ところ……」
「君は、旅に出たいの?」
そう問い掛けると、彼は目を閉じて小さく頷いた。
「……自由になりたいんだ」
「自由?」
「肌の色を気にせず外の世界で生きたい、自由になりたいんだ。この街じゃ俺に自由なんて無かった……お前等も見ただろ? 俺が居るだけで街の奴らは逃げ散らかして……」
「まぁ、確かにあの街の住人の様子は可笑しかったよね」
「あんな街で生きようとすれば正に生き地獄って奴だな。 ったく……しょうがねぇな~……どうするトモカサ」
「ん? 拉致ってOK?」
「決めるのはお前で良いぜ」
そうクリームが不機嫌そうな顔で答えたけれど、クリームも僕と同じ思いである事には変わりないのを悟った僕は、クリームを捕まえていた鞭をただの小さな鋼に変えると彼の元へと歩み寄る。
月明かりが一際差し込んだ時、僕は彼に手を伸ばす。
「?」
「良かったら、僕達と一緒に旅をしない?」
「えっ!?」
「肌の色が云々とか気にしないよ。気にしてたらクリームなんて旅人出来ないよ?」
「悪かったな、精霊族で~」
「あと付け加えて言うならクリームは露出狂で変態だ。何時自警団に捕まるか分かったもんじゃない」
「トモくん酷い!! 露出のどこが悪いの!?」
「うん、ちょっと頭冷やそうよ」
そう言うと話が進まないと思いクリームの背中を思い切り蹴り飛ばすと、クリームは泉に落ちた。
「ね!! 一緒に旅をしようよ!!」
「仲間を強烈な回し蹴りで泉に突き落としておいて清々しい笑顔で良く言えるな」
「やだな~w 清く正しく腹黒くだよ?」
そう笑顔で告げた瞬間、彼の顔が引き攣ったのは見なかったことにしようと思う。
「ね! 一緒に旅しよう!! 世界ってすっごく広いんだよ!!」
「旅をしようったって……俺なんか居たら邪魔になるだけだろ……?」
「敷いて邪魔だと思うとしたら、クリームの変態な部分が邪魔?」
「待てトモカサ!!」
そう言うとクリームが泉から這い上がり、僕の両肩を背後から掴んだ。
「何クリーム、話の邪魔しないでよ」
「待てってば! 一緒に旅するにしてもコイツの服装をもうちょっとマシにせんとならん!!」
「俺の服装?」
「それって……クリームお得意の露出激しい服にするって事?」
「ちが――う!! トモカサの露出はそのままでいい、いや、出来ればもう少し露出アップを希望!! だがコイツ!! コイツは露出を今より抑えた服装に変えないとダメ!!」
「何で? 可笑しな服装じゃないじゃない」
「あのな? 話聞いてただろ? コイツは肌の色を気にしてるんだぜ? だったら、両肩から露出してる腕を隠したりした方がコイツの為だろ?」
「あっ そっか」
「待てよ、俺も……いや、俺なんかを仲間にして旅をしてくれる……のか?」
「しょうがないだろ、トモカサが連れてくって言うんだから俺がアレコレ口出し出来ないって事くらいさっきの様子見て分かっただろ」
そう言いながらターバンを取り水を絞り出すクリームに、彼は「確かに」と溜息交じりに答えた。
「って事だから、君は必ず旅に連れてく! 決定事項だし肯定しか受け付けないから良い?」
「凄い満面の笑みでサラリと言いおったぞコイツ」
「そこがトモくんの可愛いところだ」
「お前の頭も相当ヤバイな、ついでに鼻血も止めたらどうだ」
「良し! 決まり!! 旅は道ずれ世は情け! 良い仲間が出来たな~!!」
そう言ってクルクルッと回って満面の笑みで二人を見つめると、クリームは鼻血出しながら微笑んでるけれど、彼は照れくさそうな顔をした。
けれど――。
「あ、死ぬ時も道連れだから覚悟しといてね」
……この言葉に、彼の表情が一瞬にして凍りついたのは言うまでもない。
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