①-8 『人を幸せにする魔法』の正体

私は、シェーマンさんに自分の考えを話していった。


「幸せがあるかないかの定義をつけるのを難しいと考えると、魔法の効力は幸せという概念を単純に生み出すというわけではないってことですよね。つまりは、その人にとっての幸せを最大限を新たに生み出す魔法と捉える事ができれば、“ない”と答えた人でも死亡する例はあると考えられます。すみません、聞くの忘れてたんですが、自殺しなかった例で、“ない”と答えた人はいたんですか?」


「そうだね、もう答えみたいなものだ。もちろん、君の考察通りだ。そして、自殺しなかった人でも“ない”と答えた人はいたさ」


「...つまりは、『人を幸せにする魔法』というのはその人自身の生活や状態を考慮された上で、幸せが最大限生じる様に新たに幸せを生み出したってことですね。だから、死にたいと言った人がその幸せを叶えるために働いたと考えられ、”ない“と答えた人もその生活状況や状態を考慮した上で”死んだ方がこの先幸せ“と判断され魔法が適応されたってことですね」

シェーマンさんは、私の話を面白く聞いていた。大笑いしながら、


「ははは、正解だよ。君は流石だな。この魔法は、君の言うとおり単純に『人を幸せにする魔法』ではなく、『人を最大限幸せにする魔法』ってことだね。幸せがあるかないかではなく、幸せになると言う方法を現状をないものとしてみて、新たに最大限生み出すものになるんだ」

シェーマンさんが言うと、次の言葉が私の言葉と重なった。



「「実に曖昧な魔法だ」」


「ふふ、セリフが被ってしまったね。こう言う曖昧な魔法は、使い方を間違えると毒になるんだよ。”人を幸せにする魔法“...素晴らしい魔法じゃないか、だがそれは望んだ形ではなく全ての状況を考慮された上で、言わば勝手に決められる魔法だ」


「なんとも残酷ですね....」

シェーマンさんは、その言葉を聞くと不思議そうに尋ねてきた。


「残酷か。君はそう捉えるのか。私は、学者だからね。ものごとを事象として捉えてしまう。幸せを最大限考慮されたなら別にいいんじゃないか?彼らは全員幸せを感じているんだから」


「そんな...死ぬことは悲しいと思わないんですか?」


「君の感情的な意見はいまだによくわからない時があるな。幸せっていうものは人からとやかく言われるものではないんだよ。そう言ってしまうのは実に傲慢なことだ。死ぬ事が幸せと思ったならそれに何も言わずに、その様に選択したことをしっかり受け止める事こそが私は大切だと思うな」

シェーマンさんは、こう言う方である。冷たいと言えばそうだが、論理は通してくる。

私は、自分の発言が間違っているとは思ってはいないが、自殺をする人に対して悲しいなと同情する人が浅はかであると言う事を考えさせられた。


「そうですね、死ぬことが悲しいみたいな死生観はあくまで”自分の考え“であって、相手の考えではないですもんね...難しいです」


「君は、相手の言った事を否定しないできちんと理解して自身の考えを膨らませられると言うところが素晴らしいな」

シェーマンさんに褒められると素直に嬉しい。そう思っているとシェーマンさんは少し不安げに尋ねてきた。


「君は、なぜ『人を幸せにする魔法』について聞いたんだい?」

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