①-5 自殺者の情報整理②

〜2人目Yさんの話〜

「じゃあ、次はYさんのケースについて話していくよ」


「はい、ありがとうございます」

彼女は、また少し声を小さくして話し始めた。


「Yさんは、町で飲食店を経営しているシェフだったかな。野菜や肉を安く仕入れて料理を提供する事をずっとしていたらしい。この人の死因も首吊り自殺。家族はいなく、友人にはたくさん心配されていたらしい。段々と客足が遠のいて、経営が難しくなって、家に出られなくなるまで塞ぎ込んでしまったらしい。だけど、たまに夜中に奇声を上げたりしたと聞いている」


「そういう方なんですね。魔法の効果はあったんですか?」


「そうだね。彼に魔法をかけたら満面の笑みになり、何となく幸せな気分になったと言われたよ。」


「やっぱり、気持ちを昂らせてる効果がある様に思えますね。Xさんと同様な感じがします。違うんですか?」

そう、シェーマンさんに言うと面白がって話し続けた。


「魔法は、“ないものをあるかの様に生み出す”と言う定義は知っているかい?」

当たり前のことすぎて、少し馬鹿にされてる気分になった。相談役をずっとやっているので魔法の知識は一般人よりも多い。専門家といっても良いレベルと思っている。


「はい!シェーマンさん、馬鹿にしてますよね。そのぐらいは誰でも知っている魔法の“基本”ですよ」


「じゃあ、この人に気持ちの昂りの様な現象がないと言える根拠はあるかい?Yさんは、夜中に奇声を上げる様に、無反応とは違う行動をとっている。いわゆる、自責病の中でも気持ちの昂りがあるケースだよ。私は、そこで彼にこう聞いたんだ“夜は寝れるかい?”と。そうしたら彼は何て答えたと思う?」

私は、彼が言うセリフを知っている。躁状態の人は夜は寝れない傾向にあるが、特徴的な事を言う。


「“寝なくても大丈夫”ですか?」

シェーマンさんは、このセリフを聞いて笑顔となった。


「流石だよ。そう細かな言い回しは違えど、“寝なくてもめちゃくちゃ元気です”と答えた。嘘をついているそぶりもない。そう、Yさんは、気持ちの昂りがあるタイプだったんだ」

私は、さらに謎が深まったと思った。


「......Yさんの話をまとめると、自責病で気持ちの昂りがあった状態だったため、魔法によって“気持ちを昂らせる”と言う効果を生み出すということではないと言えるってことですよね?」


「ああ、そう言うことだね。ここで私は他に目をつけた。その魔法がどう効果をもたらすかと言うよりも、彼らの中で“なかったもの”は何かと考えた。何回も言うが魔法の基本は、“ないものをあるかの様に生み出す”だからね」

シェーマンさんはニヤニヤしながら、


「君なら彼らに何を聞いて“ないもの”を見つけるかい?」


「そうですね......自殺を最大の目標としてそれを引き起こす原因が“あるもの”として生み出されたと考えました。そう考えると.......」

シェーマンさんは、私が答えに難渋しているのをみて面白がっている。長い間時間が経って私はあることに疑問を持つ。


「その...正直なところわからないです。少し悔しいです。一つ質問しても良いですか?」

シェーマンさんは、

「ああ、何でも聞いてくれ」


「ありがとうございます。今のところ、自殺してしまった人の話ばかりですよね。1人でも良いんですが、幸せなまま自殺しないケースの話を聞いても良いですか?」

シェーマンは、目を見開いた。かなり面白がっている時の顔である。


「君は、実に面白いね。ああ、いいともいいとも。じゃあ、Hさんの話をしようか」

そう言ってHさんについての話が始まった。

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