①-4 自殺者の情報整理①
〜1人目Xさんの話〜
「最初は、Xという名の男の話をしようかな」
シェーマンさんは、声を少し小さくして話し始めた。
「彼は、町に野菜を売りにくる農家だったかな。死因は首吊り自殺。家族もいたが、悩みこそ訴えていたものの死んでしまう素振りはなかったそうだよ。だが、『人を幸せにする魔法』を受けた後、家族には“何でもできる気がする”と言っていたそうだ。かなり幸せな状態になっていて家族揃って喜んでいたらしい。」
「だけど...そのあとに死んでしまったんですか?」
私がそう尋ねると
「ああ、本当にその日の夜に死んだんだ。唐突に」
それを聞き、私はとある記憶がよぎった。いわゆる、うつ病の症状である。うつ病は、基本的には“自責“が症状として顕著に出る。そのあと、何の言葉にも反応しないような無反応に近い状態になるため、その状態になった人は基本的に自殺という活動性の高い行動はとらない。一方で、少しの活力がある場合は、注意が必要ということである。例えば、双極性障害の場合である。鬱と躁を行き来するため、躁状態という活発な状態の際に自殺をするのだ。この躁状態を魔法によって生み出されたのかもしれないと感じた。
この疑問を察したかの様にシェーマンさんは続けた。
「私はここで、自責病に一定数いる気持ちの昂りをもつタイプの人だと思って、少し調べたんだ。そしたら、家族や友人の情報からもその様な状態は全くなくいわゆるほぼ無反応に近いほどに重症な自責病だったよ」
自責病というのはシェーマンさんが暮らしている地域でいううつ病の別称である。
「無反応だったってことなんですね。それって魔法を受けた前後のどっちの話になるんですか?もし後の話ならその魔法は“気持ちの昂り”がなかったから、その状態を魔法が作ったっていえませんか?」
シェーマンさんは少し笑った。彼女は私が的を射た質問をするとかなり満足気な顔をする。正直、いつもクールビューティーな方が無邪気に笑うとドキッとする時がある。
「良い質問だね。流石と言った方が良いかな。」
「いえいえ、そんな...ただの素人の質問です」
「はは、まあ話を戻そうか。このケースだけを話すと確かに、魔法によって、受けた人を幸せにして活動性を増加させたことで自殺への活力を得たと言えるだろうが、次のYさんの話を聞いてからまた考えて見て欲しいかな」
そうシェーマンさんは、考察を言わず焦らすかのようにYさんの話を始めた。
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