①-3 専門家の話

「『人を幸せにする魔法』かー。あまり聞いたことない魔法だな」

独り言を言いつつ、魔法の専門家である国家術師をしているシューマンさんに相談を持ちかけた。



「……っていう相談なのですが、幸せにする魔法ってあるんですかね?」

シェーマンさんは、容姿端麗な女性である。この話を聞いた途端、綺麗な女性の顔の眉間に皺がよった。


「『人を幸せにする魔法』か…うーん、聞いたことがないというと嘘になるな。20年前にも同じような魔法が流行った時があったわ。確か、その時代には首吊り自殺も同時に流行していて暗黒時代のような感じだったと聞いたかな。」


「暗黒時代ですか。何かあった時代なんですかね?」


「簡単にいうと経済の破綻によって貧困率が上がって自殺者が急増した時代かな....」


「そうなんですね。不幸と感じる人が増えて『人を幸せにする魔法』が流行ったってことなんですね」

ここで、私は疑問に思った。『人を幸せにする魔法』が流行ったなら結果から見ると効果はなかったってことなのかと。

もし効果があるなら不幸な人は減るか横ばいになる可能性もある。でも話を聞く限り明らかに増えたという。


「話を聞く限り、結局『人を幸せにする魔法』は効果がなかったことなんですか?」


「........いや、実は効果があったんだよね」



私はシェーマンさんに素直に疑問をぶつけた。

「もし効果があって、不幸な人が幸せになるなら不幸な死をとげた人数含めて著しく増えることはないと思うのですが...?」


「そうだな、私の師がその時代に生きた術師であるが確実に効果があったようだよ」


「じゃあ、幸せをむしろ感じてさらに現実を見てしまい自殺するっていうパターンとかですかね?」


「そうでもないんだ、『人を幸せにする魔法』は実際多くの人間に対して施行された。それこそ流行り病を治す魔法を施行するように....全員幸せになったかというとそうでもないが効果が少しでも出た人間は全て幸せになって寿命や不慮の事故をのぞいて今も生きている人はほとんどなんだよね」


少しの沈黙の後、シェーマンさんはまた呟いた。

「この話は国家の中ではタブーとされているのだが、君は口は軽い方かな?」


私はシェーマンさんの雰囲気を感じ、かなりぶっ込んだ話が来ると身構えた。

「口はかたい方です。言うなと言われれば絶対に言わないです」


シェーマンさんは、少し笑いながら

「まあ私は君のことを信用しているから言うよ。君ならある程度は予測がついているのだろう?」


「ある程度は.......」


「多分君の思う通りだ。『人を幸せにする魔法』を施行した人間の中で多くの割合で自殺者が出たんだ」


私は予測はついていたものの息を飲んだ。少しの間、静寂が続いた。



「『人を幸せにする魔法』が逆に人を自殺に追いやったってことなんですかね?」


シェーマンさんは少し考えた後、

「ああ。20年前の自殺者の増加の原因は『人を幸せにする魔法』にあったんだ。だが、不思議なことに魔法をかけた人の全員が魔法を受けて幸せを感じたと述べたんだよ」


「そうなんですね…それはその…不思議ですね」

と相槌を打ちつつ、言われたことを整理していたがシェーマンさんはさらに事件について述べた。


「この事件をきっかけに国は、『人を幸せにする魔法』を禁忌魔法として使用についての一切の責任を追わないことにしたんだ。いわゆる世間ではいうと“怖い魔法”として知られるようになったんだ。」


私はそれを聞き、他にどんな魔法が“怖い魔法”なのか気になった。


「シェーマンさん、先ほどおっしゃられた“怖い魔法”というのは他に何があるんですか?何かそこから原因がわかるかもしれないと思って....」

と聞くとシェーマンさんは渋って顔をした。


「申し訳ない。全部いうことは国家から禁止されてるんだ。これ以上言うこともできない。ただ、“怖い魔法”としては、『英雄を殺す魔法』と『商売を繁盛させる魔法』があった気がしたよ。これは国家の定める禁忌魔法とは別なのだが、魔法の“定義”を考えるとなかなか曖昧な魔法であることがわかる」


「そう言う魔法も存在するんですね。確かに、ありふれたような水を生み出す魔法や炎を出す魔法みたいな無いものからあるものを生み出す魔法と比較するとかなり別物のように感じますね。その、あるものを生み出すのに程度が必要そうで.....」


「そうだね、曖昧だからこそ私みたいな研究者は興味が湧くんだけど」

シェーマンさんは笑いながら答えていた。彼女は、国家術師として世の中にある魔法の研究とその実用方法の解明を仕事としている。


「これは聞いていいのかわからないのですが、シェーマンさんはこの魔法についてはもう見解はあるんですか?」


シェーマンさんはまた少し黙った。彼女は毎回独特な沈黙を作る。その沈黙で何を考えているか未だわからないが、必ず沈黙の後には有益な情報やヒントをくれる。彼女の言葉を楽しみにしていたが、案の定彼女は少し微笑みながら、


「ああ。もうわかっている。だが、その答えはあくまで私の仮説だが....」


「お聞きしても........?」


「どうしようかな。話とは関係ないが、私は最近ワインにハマっていてな...」

シェーマンさんは意味ありげに私のワインコレクションに目を向けた。


「わかりました。この棚から好きなの持っていってください。はぁー」

そう聞くともう何が欲しいのか決めていたのか、シェーマンさんは笑顔になった。


「君もわかるようになったんじゃない」


「......早く話してください。」


「ふふ、ごめんね。話を戻すが、これらの事件を見るのにはもっとミクロに...それこそ自殺した市民についての情報を整理すると答えが見えてきたんだ」


「答えですか?何を整理したんですか?」


シェーマンさん続いて話し始めた。

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