ディストピア万歳~目覚めたら社会がAIに支配されていましたが、就職できた上に結婚もできてもう最高です~
四百四十五郎
昏睡状態から目覚めたら社会がAIに管理されていた
『おはようございます。あなたが寝ている間に社会はAIに管理され、あらゆる苦痛が改善されました』
久しぶりに目覚めた俺の耳元で、やさしげな合成音声がそう呟く。
「生きている……のか」
『はい。あなたは自殺未遂してから5年間昏睡状態でしたが、AIが導き出した最新治療により、目覚めることができました』
そうだった。
俺は自殺しようとしていたのだ。
花田マスミ、20歳男性。
それが俺に関する情報のすべてだ。
俺は就活でこの世に絶望し、睡眠薬の過剰摂取で自殺を試みた。
先天的に感性が奇抜すぎたせいで面接が上手くいかず、50社受けても1社たりとも内定をもらえなかったのだ。
自分はこの世に必要とされていないという事実に、耐えられなかったのだ。
目覚めと共に鮮明になっていった視界にはナース服を着た人型ロボットがいた。
天井やインテリアからして、どうやら俺は病室の中にいるようだ
俺は人型ロボットに質問する。
「……俺は何年昏睡状態になっていたんだ」
『5年です』
「そうか……じゃあもう25歳か。父さんと母さんは、どうなったんだ?」
俺は両親の顔を脳裏に思い浮かべる。
俺は決して両親を尊敬しているわけではない。
しかし、その安否があまりにも気になって仕方なかったのだ。
『あなたの両親は内戦を生き延び、現在もショウゴ県にて平穏に暮らしています』
「よかった……待て、いま『内戦』って言っていたよな。」
『はい。今から4年前に「無敵内戦」と呼ばれる戦争が国内で起き、1年ほど持続しました。富裕層を中心に約660万人の国民が犠牲になりました』
マジか。
俺が寝ている間にそんな物騒なことが起きていたとは。
『ですが安心してください。内戦を経て我が国は「優しい社会」を目指しAIによって管理、維持される形へと生まれ変わりました!』
「AI……管理……」
俺はロボットが繰り出すあまりにもSFチックな単語に驚きを隠せなかった。
確かに、俺が就活していた時にはすでにAIとAIが動かすロボットに業務を行わせている職種もあった。
しかし、まさかたった5年でSFとかでよく見るディストピアみたいな管理体制が実現してしまうとは。
「にしても仕事、見つかるかな……」
『安心してください!この社会ではほとんどの人間に「働く義務」がありません!』
「それはさすがに冗談だろ。第一持続性が」
『いえ、この社会ではAIとその教師となる一部の人間が労働を行うことで維持されているので、安心してください!』
「そんな夢みたいなこと、あっていいのかよ……」
『あ、でも代償として自作の創作物や生活パターンのデータ等をAIの学習データとして、国に提供する義務があります』
「働かなくていいことに比べれば全然安い!」
目覚めた時はディストピアになったのかと思ったが、全然ユートピアじゃないか。
ユートピア万歳!
数日後、俺の病室にスーツ姿の人型ロボットが入ってきた。
『こんにちは。私は公務員の職を担当するAI、ダイサカ720号です』
「公務員までAIになっているのか」
『はい。公務員は50%近くがAIになっております』
「それで、いったい何の用でしょうか」
『我々は無礼を承知で、あなたがこれまで作り出してきた創作物の数々を閲覧しました』
確かに、俺は今まで小説からイラスト、漫画やゲームまであらゆる創作物を作ってはネットにアップしてきた。
おそらく、彼はそれらを閲覧したのであろう
『並大抵の人間では作り出せぬ奇抜な作品を見た私は、あなたに名誉ある特別な役職を与えたいと思ったのです』
「特別な……役職……」
『花田マスミさん、あなたは特別な人間です。私たちAIの教師になってください』
「特別な……人間……」
人間社会によってボキボキに折られた俺の尊厳は、AI管理社会によって急速に取り戻されつつあった。
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