第12話
私のアルバイト先は、通学路の途中にあるカフェ
Cielとはフランス語で ”空” を意味する。私と同じ ”そら” という名前なので、ここで働いてみたいと思った。ほぼ近所の人しか立ち寄らない、静かな隠れ家みたいなカフェ。私の大学生活を支えてくれた大事な存在だ。
まるで、言われるのが分かっていたみたいに「頑張って」と了承してくれる。
私がインターンシップなどの活動を行っていなかったことから、退職するのではないかと薄々感じ取っていたようだ。
「テンちゃんは来年で卒業か……」
感慨深げに店内を見渡しながら、「いいタイミングかな……」と呟いた。
その意図が分からず返事に困っていたが、澄玲さんは「私も頑張らないと」とにっこり微笑む。
「ん……。あれ、寝てた?」
おでこに赤い跡を付けたハル君が辺りを見回す。
週の終わりで気が緩んだのだろう。来店して5分もしないうちに、うとうとし始めていた。
「珍しいね。疲れちゃった?」
「何時?」
「7時……10分かな」
「やばっ。閉店時間すぎちゃった。帰らないと」
「慌てなくていいよ。少しくらい大丈夫だから」
「うん……」
支払いを済ませたハル君が私を見る。
「じゃあ、また明日」
「うん。明日ね」
ハル君を送り出し、私はテーブルを片付けに戻る。彼が使ったカップをトレーに乗せる。少し残っていた薄茶色の液体が静かに揺れた。テーブルを拭いて、イスを定位置に戻す。
動かしたイスの下にノートが落ちていた。表紙に手書きの絵が描かれている。
この絵は……ペンギン?
ハル君の忘れ物だ。
「行っちゃったかな?」
ノートを手に外へ出た。暗がりで目が慣れず、しばらく辺りを見回してみる。
地上の街明かりが街路樹を影絵のように映し出し、その合間に自転車で坂を上って行くハル君の姿が見えた。
「ハル君!」
呼びかけたが、その姿は小さくなって行く。
明日でもいいか……。
しばらく後姿を見送り、店に戻ろうとした時、急ブレーキの音が聞こえた。振り向くと1台の車が止まっている。
車のヘッドライトに照らされ、路肩に倒れている人影が見えた。
「六ッ川君!?」
<終わり>
イースター・エッグ(おまけ)
*――*――*――*――*――* ٩(ˊᗜˋ*)و
こんにちは。
この物語は、ミステリの一種である
タイトルのインビジブル・スレッドとは、手品で使う ”見えない糸” を意味します。
前半の
同一人物だと思っていた
これは叙述トリックの一手法で、読者を
あれ、じゃあハル君って誰だよ? ってなりますよね?
カフェ
そんな細かく書いてあった?って怒られそう……。はい。書いてないです。あまり詳細な描写をしてしまうと、バレバレなお話になってしまうので、あくまでも匂わせだけ。あとは読者の想像にお任せするというのが、文字数の少ない短編小説の
でもちゃんと違いは書かれていますよ。陽翔君は「俺」、ハル君は「僕」と言ってます。Cielで飲んでいるのはなんでしたっけ? 陽翔君はコーヒー。ハル君はカフェオレが好き。過去を見がちな陽翔君。未来志向のハル君。違いは色々ありました。
テンちゃんとハル君のその後を想像するのも面白いかもしれないですね。最後の二人のシーン。ここにも匂わせが入ってます。よーく考えてみてね。
ということで、ここで本当に終わりです。最後まで読んでくれてありがとうございました。じゃあ、バイバイ!
インビジブル・スレッド 中里朔 @nakazato339
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