ささくれで始まる恋愛なんてあるかい

卯野ましろ

ささくれで始まる恋愛なんてあるかい

「あっ、ささくれ」


 私は左手の薬指にできた、ささくれに触れてみる。


「……」


 そして私が、ささくれを摘まみながら見ていると……。


「ささくれ剥く派? カット派?」

「へ? 急に何?」

「ほら、どっち?」

「えーと……どちらかといえば、剥く派かなぁ」

「ふーん……」

「な、何?」

「おれは……その間を取って、ブチ抜く派なんだけどなー」

「……え? 間?」

「っつーことで……君は、おれと合わないみたいだね~」

「は、はぁ……」

「まあ違う人間だからこそ……おれは、君に惹かれたんだけどさ」

「っ! ふぇっ?」

「ハッハッ。やっぱおもしろいね~、君」


 飄々とした男子にイジられたと思ったら、まさかのドキドキ展開?

 それとも……。


「うわ! 手、荒れてんじゃん! 大丈夫?」

「えっ! 大丈夫だよ、そんな大したことじゃないって……」

「ダメだよ、そんなこと言っちゃ! はい、ハンドクリーム!」

「あ、ありがと……」

「ああっ、待って! まだ塗らないで! というか自分で塗らないで!」

「ど、どうしたの? 私、塗ることくらい自分で……って顔が赤いよ? そっちこそ大丈夫なの? 熱でもあるんじゃ……」

「ごめん、心配しないで! これは……そのっ……」

「うん、なあに?」

「えっと……その……ぼくが塗ってあげるなんて……ずるいよね? 好きな子に触れたいからってさ……。ぼくにとって大切な、君の気持ちも考えずに……」


 世話焼き男子が、ちゃっかり私に触れようとしたけど結局失敗して……その結果テレテレな告白をしちゃう?

 いや、待てよ……。


「は? ささくれ?」

「ん? そうだよ、ささくれ……」

「へー。おれんとこでは、さかむけってゆーんやけどなぁ」

「あっ、そうなんだ! 方言か~。色々あるんだね」

「へへっ。驚いた?」

「うん。教えてくれて、ありがとう」

「どういたしまして。でもオレが、ほんまに教えたいのはな……」

「え? ひゃっ!」

「ふふっ、かわええなぁ」

「……?」

「今から、ほんまに教えたいこと、教えたる」


 お調子者な方言男子からの、AGOKUIですとっ? じっと見つめられ、甘い言葉を……。そして私たちは「あだだだだだだだだっ!」


 夢中になって妄想してしまった私は、ついささくれをぐいーっと剥いてしまっていた。


「はい、絆創膏!」

「あっ、ありがとう!」

「僕が付けるよ!」

「えっ? じゃ……じゃあ、お願い……」

「僕が本当に、この指に付けたいのは……指輪なんだけどね」


 いやん、まさかのプロポーズ「いや、そんな恋愛あるかい!」


 心の中でもセルフツッコミをしながら、自前の絆創膏をポーチから取り出した私。


「へー。君、絆創膏を持っているんだ」

「えっ! う、うん……そうだけど……」

「良いなぁ、そういうの」

「は、はいっ……ありがと……」


 いきなり褒められた……。

 予想外の出来事。 

 お礼を言った私を見ると、彼はニコッと笑って背を向け、その場から去ってしまった。

 あ、これは現実。

 

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