第11話 魔王軍、動きだすみたいですよ?

「アルト、どうだ?」



「情報の通りだ。あのトカゲも役に立つみたいだな」



今日、俺達勇者パーティーは、魔王軍の残党が籠もる拠点の近くまで来ていた。

洞窟からたくさんの魔物達が出入りをしている。



森に隠された秘密拠点のようだ。



なんでそんな秘密拠点の位置がわかったかといえば、あのファフニールの野郎のおかげだった。



俺にあった対価として、幾つか拠点の場所を提供してきたらしい。

で、その真意を確かめるべく訪れてみたら本当にあったというわけだ。



やだやだ。これで本当にあのトカゲ野郎を殺せなくなっちまったよ。



「でもなんで素直に教えてくれたのですかね?」



聖女が首を傾げながら言った。



「自分の有用性を示して、殺されないためにだろうさ。

幾つかの拠点を犠牲にしても、自分が生き残るほうが得って考えたんだろ。

味方ではねえから、油断はしないようにしねえとな」



ファフニールの奴は、ふざけてはいるが強い。

特にあの分裂はとんでもない脅威になる。



しかも魔王を殺したのが勇者ではないということも知ったのだ。

絶対に生きて帰って、仲間に情報を伝えたいのだろう。



決して、俺達の味方になったわけではないから、その点は要注意だ。



「なるほど!危うくだまされるところでしたわ!」



聖女は笑顔で納得していた。

コイツ純粋すぎて詐欺に引っかからないか心配なんだけど。



気をつけろよ?



「で、どうする?すぐに仕掛けるか?」



「いや、少し待とう。まだこちらは気づかれてないから、情報を集めて一気に仕留める」



戦士の質問に、勇者がゆっくりと答えた。



それから俺達はこっそり移動しながら、拠点の出入り口の数や、魔族の数を調べていく。



そして所どころに罠を仕掛けた。

ばれないように、慎重に。



夜、あまり盛大にはできないので小さな穴を掘って、

ぎゅうぎゅう詰めで時間を過ごす。



「せ、せめえ!」



「が、我慢だ!数日間だけだから」



「ふふふ!懐かしいですわねえ!」



「そうだな。よくこうやってみんなで寝たモノだ」




戦士の言う通りだった。

昔は俺達も弱くて、魔族と正面から戦えないときがあった。



そんな時はいつもこうやって隠れてやり過ごしていたものだ。

前は俺が小さくなってなかったから、もっと狭かったモノだ。



それに比べりゃ、今は少し快適なのかもな。



「ああ、アルトが暖かいですわ。子どもだからかしら?」



「ぎゃ!やめろ!どこ触ってんだ!」



聖女がいきなり抱きついてくる。



外は冷え込んできていて、穴にも冷たいか風が入ってきている。

けれど魔法を使うとばれてしまうので、我慢するしかない。



でもだからって俺を湯たんぽ代わりにするんじゃねえ!

ジタバタするが、されるがままだ。



ち、ちくしょお。



「戦士、僕たちは男同士でくっつこうか」



「そうだな」



勇者と戦士は、暴れる俺を救いもせずに、勝手に抱きつき合っている。

おい!うらやましそうな目で見ている暇があるなら助けろや!

聖女をなんとかしろお!俺もそっちがいい!そっちがいい!



結局、聖女に捕まったまま一夜を過ごす羽目になった。

覚えてろよ、聖女オオオ!



朝、魔族の拠点を確認すると、連れ去られた人間達が連行されていっていた。

どうやら王国以外の所から捕獲して、この拠点に集めているようだ。



勇者の言うと通りにすぐに攻めなくて正解だった。



「直接拠点を攻撃するのはなしだな。外で暴れて、魔族の

奴らが出てくるのを待った方がようさそうだ」



「その間に別働隊が救出ってわけか」



作戦を練り直す。

人質がいる以上でけえ魔法で一撃というわけにはいかないから、

陽動班と、救出班に分かれることにした。



最優先も魔族の殲滅ではなくて、人質の救出だ。

もう少し観察をして情報を集めたら、作戦開始だ。




さて、盛大に暴れるとしますか!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



魔王軍残党。

場所:??????



「第6拠点が何者かに襲撃されたらしい。

部隊は全滅、人間共もすべて奪われたとか」



「馬鹿な、隠してあったはずだ。なぜばれたのだ。

それに精鋭もいたんだぞ。とんでもない損失ではないか」



「原因はファフニールでしょう。死んだと思っていましたが、捕まっているのでしょうね。

奴から漏れたとすれば、辻褄が合う」



「どうするのです。これでは計画に大幅な遅延がおこりますぞ」



「構わん。どうせ遅れていたのだ。今更急ぐほどでもないだろう。

それより、ファフニールを助け出してやらねばな」



「見つけられますかな?きっと厳重に隔離されていますよ?」



「問題無い。すでに同胞達が潜り込んでいる。

ある程度、場所の目星はついているさ」



「それに、実行犯も気になります。ファフニールを捕獲した奴もいる。

情報を集めさせた方がいいでしょう」



「そうだな。こちら側からも動くとしよう。

魔王様復活のためにも、障害は排除しておくべきだ」



「了解しました。協力者達にも伝えます。我々が直接動くと」



「しくじるなよ。すべては魔王様復活のために」



「「「復活のために」」」

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