第10話 首だけトカゲとのやり取り
「ふふふ!来たか、魔術師アルト!」
今日は尋問されている首だけのファフニールに会いに来ている。
奴が捕まっているのは王国の最重要機密を保管する施設だ。
移動は勇者パーティーの面々であっても、目隠しと、耳栓をつけて行われる。
だからこの施設がどこにあるのかは全く分からない。
厳重なのはいいことだ。
再びこいつに脱走されてもこまるのでね。
「で?なんで俺が呼ばれたの?」
「それが、ファフニールがあなたと話したいと。
会わせてくれれば情報を提供するとのことだったのでアルト様にはご協力をお願いしました」
王国の尋問官が淡々と告げた。
どうやら尋問自体は難航しているみたいだね。
うまくいっているならファフニールの奴がこんなに元気な訳がないし、
奴の要求のために俺に協力を要請する必要もない。
まったく、口が軽いのか、堅いのか、はっきりして貰いたいものだ。
勇者とのときはあんなにペラペラしゃべっていたのによお!
「気をつけろよ、アルト」
「おうよ。行ってくる」
心配する勇者に軽く返答をし、俺はファフニールの前に立った。
「貴様に提案がある。ここにいる者どもを皆殺し、私を解放しろ。
さすれば貴様を魔王軍の幹部としてやろう」
「は!論外だね。誰がお前らの下につくかよ」
「そうか?少なくとも、足手まとい達といるよりは
心地よい生活がまってると思うがな?」
ファフニールは、あおりではなく本当に理解出来ない
という声色で告げた。
魔王とその配下達にとって、強さはすべてだ。
強い奴が上につき、弱い奴はその奴隷。
それが魔王軍の絶対原則。
だから俺が俺よりも弱い奴らに従っているのが、理解出来ないのだろう。
「嫌だね。言いたいことはそれだけか?トカゲ野郎?」
「トカ!トカゲ!?またトカゲと言ったか貴様!?私の名はファフニール!誇り高き竜であるぞ!断じてトカゲ野郎ではない!」
「いいやトカゲだね!斬られたらまた生えてくるところとかそっくりだ!」
「貴様!言わせておけば!貴様こそメスのくせにオスらしい言動をしおって!キャラづけでもしておるのか!」
「キャラづけ!?キャラづけじゃねえよ!俺は正真正銘の男だ!」
「はあ?おぬしがか?冗談も休み休み言うことだな!」
「なんだとテメエ!」
「おおん!」
「ああん!」
コンニャロ~。
言いたい放題いいやがって!
「「ふん!」」
「あの、仲良くしないでくださいね?」
「「しとらんわ!」」
おいトカゲ!
声をそろえるんじゃねえ!
本当に仲いいと思われるだろうが!
「それはこちらの台詞だ!」
となんやかんや言い争ったその後、ファフニールが俺に会わせてくれた対価として
何かしゃべり始めたので、尋問官さんと交代をする。
まったく最悪な気分だぜ!
あのトカゲ野郎!後で覚えてろよ!
「それにしては、楽しそうだったけど?」
はあ?どこをどう見たら楽しそうに見えたんだよ!勇者!
どう見てもお互いのプライドをかけた舌戦だっただろうが!
怒りながら秘密施設を後にした。
「さて、やつはどんな情報を吐いてくれるのかね?」
「どうだろう?でも律儀ではありそうだったね」
尿意を催したのでトイレに向かう。
勇者と連れションしながら、ファフニールについて話した。
彼の言うと通り、ファフニールの奴は律儀のようだ。
俺に会わせてくれたら情報をやると宣言して、会えたら本当に話してくれていた。
交渉ができない奴ではないらしい。
なかなか使い道はありそうだ。
「・・・ところでなんだけどさ」
「うん?なに?」
勇者が会話を中断し、気まずそうに聞いてきた。
どうした?なにか困ったことでもあったのか?
やけに顔を赤くしてるが、今度はなんだい?
「なんで、男子トイレ?」
「は?」
勇者が目を背けながら言った。
今俺は男子トイレの、あの立ってする用のトイレで
お花を積んでいる。
勇者はそれが気に入らないらしい。
思わず変な声が出てしまった。
「なんでって、こうする以外ねえだろ?
息子が無くてちと発射しにくいが、安心しろ、外さねえよ」
「そうじゃないよ!女の子が男子トイレにいるのが問題なんだよ!」
「ああ?中身は俺なんだぞ?今更女子トイレなんかに入れるかよ。
それにいちいち座ってたらめんどくせえだろ?」
「落ち着かないんだよ!頼むから!頼むから~!」
勇者の絶叫が男子トイレに響いた。
なんだコイツ。
別にお前と二人だけなんだからいいじゃねえか。
細かいねえ、真面目くんは。まったく、困っちゃうよ。
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