第12話 明るくいこうぜ?
「ここも変わんねえな」
「そうだね」
魔族たちの拠点を襲撃し、人質達を救出した後、俺達は少し休暇をとっている。
今日来ているのは、幼少期俺と勇者が過ごした孤児院の跡地だ。
今はもう壊れた建物しかなく、草だらけになってしまってはいるが、
それでも俺達にとっては大切な所だ。
「お久しぶりです、シスター。今、帰りました」
孤児院の隣に置かれた、小さな石に手を合わせる。
この下に眠るのは、俺と勇者を育ててくれた母親のような存在であるシスターだ。
当時は魔族との戦争が始まって、食べ物が無くなって、
すれられたりとか、両親が戦争で亡くなって、天涯孤独になった奴が大勢いた。
そんな厳しい状況の中、孤児院を作って恵まれない子ども達を救っていたのがシスターだった。
俺達が今こうして生きていられるのも、彼女のおかげなのだ。
「たいぶ姿が変わっちまいましたが、アルトです。分かります?」
「シスター、きっと驚いてるよ」
「だろうな。あんな生意気だった俺がこんな美少女になってんだ。
奇声を上げながら、目ん弾飛び出させてるだろうぜ」
勇者と笑いながら軽口をたたき合う。
なんでもかんでもリアクションの大きな人だった。
だからもし生きていて、俺がこんな姿で生き返ったことを知ったら、
きっと気絶するくらい驚いてくれていただろう。
「・・・・・・」
勇者はしばらく笑っていたが、少しづつ表情が硬くなっていく。
そして最後の方には顔を苦痛に歪め、目に涙を浮かべていた。
どうやら昔を思い出しているらしい。
「おい、勇者。落ち込むなよ?シスターの前なんだ。笑っていようぜ?」
「うん」
「あれはお前のせいじゃねえよ」
「・・・うん。ごめん」
勇者は力なく俺の言葉に返事をする。
真面目くんはこんな時も真面目らしい。
もうすごく前の事だというのに。
15年前、この孤児院は魔族に襲撃された。
魔族は、どうやら勇者の命を狙っていたらしい。
戦闘訓練を積んだ大人でも勝てない相手に、
非力な女性と子ども達では敵うはずもない。
シスターは俺達を逃がすために、囮になって、死んだ。
今でも、あのときのことは鮮明に思い出せる。
「アルト、勇者と一緒に逃げて。後ろを向いたらだめだよ?
この子を、絶対守ってあげて」
地面にうずくまり、動かない勇者の手を俺に握らせ、シスターは告げた。
そして自身は、魔族に向かって走っていくのだ。
「この子達を、やらせはしない!」
その後のことは良く覚えていない。何かが砕かれる音を聞きながら、
ただひたすら勇者の手を引き走った記憶しかない。
当時は、まだ俺は魔法なんて使えなくて、逃げることしかできなかった。
だから思ったんだ。大きくなって魔族どもをすべて殺してやると。
そしてこの泣き虫な真面目くんを守ってやらなければと。
で、そんなちびっ子二人がいつのまにか勇者パーティーとして魔王を倒したんだ。
世の中、何がおこるかわからんもんだね。
「・・・・・・」
勇者は再びうつむいてしまう。
コイツはいつもここにくるとそうなるのだ。
前回は魔王討伐まえだったからしかたねえかもしれねえけど、
今は、真面目くんのおかげで世界は平和になり、世界に笑顔が溢れているというのに。
どうして泣いているのやら。
「おい、勇者」
「・・・なに?ぎゃ!」
そんな泣き虫勇者の背中に、近くにいたカエルさんを投入する。
いひひひひ!焦ってる、焦ってる!
「な、なにをするんだ!」
「かかか!クズクズクズクズ泣いてんじゃねよお!
せっかく来たんだ!遊んでいくぞ!」
悪いが、湿っぽいには嫌いなんでね。
全力で茶化させてもらうぞ!
数時間後。
いっぱい勇者と遊んだ。
いい年してるくせにガキみたいに遊んだ。
まあ、勇者が笑っているからいいだろう。
シスター、あんたの代わりに、コイツのお守りは俺がするんで、
ゆっくり寝ていてくださいな。
「今日は、泣いてる暇がなかったよ」
帰り道、勇者がぼそりといった。
「君がいなくなってからは、泣いてばかりだったのに」
「そうかい。じゃあ感謝しろよな」
「うん」
勇者はしばらくこちらを見つめていた。
なんだよ。カエルのこと根にもってんのか?
ごめんて。
町に着く。
町に着くと多くの人が勇者に駆け寄ってくる。
するともう勇者の顔には笑顔が貼り付けられている。
こういう転換の速さはすごいんだ。
だが、コイツはいろいろ下手くそな奴だ。
いかにも平気ですって顔をしていいながら、
たくさん背負って、知らぬ間に潰れちまう。
おねしょしたときとかそうだったからな!
平気な顔して限界まで我慢したと思ったら、ビジャー!だ。
もう少し、他人を信用してもいいと思うぜ?
真面目な不真面目くんよお。
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