第21話 最初の第一歩

「というわけで殿下、最後のピースがハマりましたよ」


 いつもの離宮の一室にて。

 私は自信に満ちた笑みを浮かべると、殿下の前に並べた騎士団制服姿の男女3人を順番に紹介する。


「まず一人目! 先ほどお伝えしたように実は魔王の息子でした、副官のレイ君!」

「……ど、どうも。あの、本当にお疲れ様です」


 色つき眼鏡を外して証拠の眼章アイライトを見せつつ、レイ君があいさつをする。


「続いて二人目! 政府から断罪された元勇者、切り込み役その1のアース君!」

「よろしく。んで、ご愁傷さまだな殿下」


 ボタンをきちっと留めている私やレイ君と違い、彼は前をだらしなく開けていた。

 騎士たるものと注意しようと思ったが、嘱託みたいなもんだしとのらりくらりとかわされてしまっている。


「そして最後に三人目! 教会から追放された元聖女、切り込み役その2のセルフィーナさん!」

「お初にお目にかかります、殿下。色々あってカナメちゃんのお世話になることになりました」


 恭しくお辞儀をする彼女だが、身動きの都合上、私とは違ってスカートをばっさりと短くしている。

 服のボタンも胸がキツいからという理由で開け放っており、正直なんというかこう、制服ってこんな淫靡な雰囲気出せるんだな……と逆に感心してしまった。


「そして隊長を務めさせていただきます、しがない一騎士ではありますが……私こと、切り込み役その3のカナメ!」


 これで殿下直属の部隊は揃った。



 隊長──騎士、カナメ。

 副隊長──魔王の息子、レイ。

 隊員その1──元勇者、アース。

 隊員その2──偽聖女、セルフィーナ。

 後見人──無能王子、テルミット。



「君はボクを殺す気かい?」


 殿下は見たことがないぐらいに顔色が悪くなっていた。

 あれ、こうならないように、レイ君の出自も含めて全部をきちんとお伝えしたはずなんだけどな。


「史上最悪と言っていいメンツだからな。隊長殿、後ろ指をさされる準備はできてんのか?」

「始まったばかりなのに悲しいこと言わないでください!」


 そ、そりゃあ一般的な部隊からはかけ離れたものになってしまったなあとは思っているけども!


「でも実績だけなら結構凄いんじゃない? ほら、一番は魔王討伐っていう人類最高クラスなわけだしさ」


 頭を抱えてがくりとうなだれる殿下はさておき、セルフィーナさんがアース君に水を向ける。

 人類唯一の魔王討伐実績者は無言で肩をすくめる。

 あ、聞こうと思ってたことがあるの忘れてた。


「そういえば私って結局魔王倒せそうでした? 正直どうです?」

「いや実際のところ、俺って結構色々なラッキーが重なって勝てた節があるからな。俺に勝てたからと言って魔王に勝てるかは分かんねーぞ」


 アース君は素知らぬ顔で告げた。

 あ、そういう感じなんだ。


「成程……でも二足歩行で腕が二本ならなんとか……」

「魔王の第二形態は下半身が蛇で、腕が八本に増えてたぜ」

「じゃあ無理ですね……」


 それは無理。

 どう動くのか一ミリも分からないのだ。

 アース君が勝ちを拾った相手に、魔剣が通用しない状態で有利を取れるとは流石に思わない。


「待ってくれ。僕の父さん、第二形態になると下半身が蛇で腕が八本になったの?」

「お前はお前で知らねーのかよ」

「じゃあ君は父親の第二形態知ってるのかよ」

「知るわけねえだろ!」


 なんかレイ君とアース君が揉めだした。しかもめちゃくちゃどうでもいいことで。


「カナメちゃんって幼馴染なんだよね? アースと」

「あ、はい」


 男子組を仲裁するべきか悩んでいると、えっちな服装のお姉さん……じゃなかったセルフィーナさんがすすすと近寄って来た。


「念のため聞いとくけどさ。二人とも普通に人間の両親から生まれてんだよね?」

「……?」


 質問の意味が分からず、首を傾げることしかできなかった。


「なんかほら、竜とのハーフだったり、小さいころに妖精のところで暮らしたことがあったりとかしない?」

「ええと……夏になったら二人で、村で一番釣りのうまいおじいちゃんの家に一泊して、ずーっと釣り手伝いながら一緒にやってましたね」

「そっかあ。いやね、二人とも尋常じゃなく強いから、血筋に何かあったりするのかなあって」


 めちゃくちゃ心外な疑惑を持たれていた。

 肉弾戦で魔族殺戮した人にだけは疑われたくないんだけど。


「ちなみにあたしも生まれ持っての変な体質とかはないから。せっかく味方だし、そういう隠し事はなしかなーって」

「なるほど、確かにそうですね。私も隠し事はなしで……というか、隠さなきゃいけないことをこれから作らなければいいんですよ」

「ふふ、そうね」


 セルフィーナさんは嬉しそうに笑った。

 今までは色々と隠さなきゃいけないことが多くて、気苦労が絶えなかったんだろうなあ。

 その辺のメンタルケアをやっていくのも、上司としての務めか。


「だから、そうじゃねえんだって。マジで蛇みたいになっててさあ」

「まさか父さん、別種の魔族の因子を取り込む研究が成功していたのか?」

「あ、そうだと思うぜ。聞いたら動けなくなる歌とかあったし」

「セイレーンの因子か。君、よく勝てたね……」


 さっきまではギャーギャー言い合っていた男子二人は、いつの間にか落ち着いた様子で歓談に興じている。

 前から思っていたが、二人は共通の話題が多いというか、上手く見つけている。

 放っておいても仲良くやってくれてそうなので何よりだ。


 あ、でもこれで友達とかになってたらめちゃくちゃムカつくな。

 私はあんなにもレイ君に友情を否定されたというのに。畜生……畜生……はらわたがかなり煮えくり返って来たぞ。


「それでカナメちゃん。せっかくお世話になるんだし、何か困ってることとかない? 治癒得意だし、お体を悪くしてる親族の人とかいたら……」

「手紙を読む限りではみんな元気そうですよ。ていうかその距離の詰め方怖いんで止めた方がいいです……」


 セルフィーナさんは、初手で相手に利益を与えることで自分との付き合いは有意義であるというアピールをしようとしていた。

 これ私も同じようなことやっちゃうから気持ちは分かるんだけど、やっぱり正しい人との付き合い方ではないと思うんだよなあ。


 って、今更気づいたけど、なんかこの部屋凄いことになってるな。

 立場がどうとかじゃなくて、冷静に考えるとみんな美男美女過ぎる。私が逆に浮いている。


 どうしよう……流石に人を率いる立場として、もっと見た目に気を遣った方がいいのかな。

 でも化粧のやり方とかあんまり分かってないし……セルフィーナさんなら知ってたりする……?


「……分かった、分かったよ、もう諦めるよ」


 その時、突然テルミット殿下が顔を上げた。

 彼は鉛のように重い息を吐いてから、新設部隊のメンバーの顔を順番に見ていく。


「うん、うん、うん……分かったよ。元聖女の立ち位置はボクがなんとかしてあげようじゃないか」

「流石ですね殿下!」


 言い出す前になんとかしてくれることになった。

 すかさず私は笑顔を浮かべるが、向こうの表情は一向に晴れない。


「じゃあ……カナメ、ちょっといいかい」

「?」


 そう言って殿下は、部屋のベランダを指し示すのだった。








◇◇◇

お読みくださりありがとうございます。

よかったら↓の☆ボタンなどで評価してくださると励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る