第77話 田舎王子、凛の部屋に招かれる

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「・・・くん・・・ねぇ・・・くん、起きて・・・くん・・」

誰かに揺すられて、うっすらと意識が戻る目の前には先ほどまで見ていた女性とそっくりな美しい女性がいた


「ああ、ファイール俺寝ていたのか・・・」


俺の言葉に険しい表情をする凛


「ちょっと!雅くん!私と誰を間違えてるんですか!説明してください」


俺を揺らす力がさらに増す


「あ、え?り、凛?」


目の前には明らかに不満顔の凛が口を尖らせて睨んでいる


「私の質問に答えて下さい!ファイールで誰ですか!?女性ですか?雅くんとどんな関係ですか!」


矢次に質問されて、動揺する俺

「ちょっと待って!ファイールというのは今みていた夢で・・あれ?なんだっけ?」


さっきまで見ていた夢が霧散して思い出せなくなっていた


「す、すいません、夢の事今は全然思い出せなくて・・」

俺の困った様子に、諦めたのか俺の腕を取ると


「もう!変な夢見て、心配しちゃいました!」


ふと横を見ると、洋美祖母ちゃんの周りにメモを片手に沢山のお弟子さんたちが集まって何やら料理の事について質問をしているようだ

たまに洋美祖母ちゃんから叱責されて「あんたん所の料理は見た目ばかりで、味が付いてきてないよ!素材は値段じゃなくて自分の舌で決めな!」

「あんた、三ツ星とか言われて調子にのってるんじゃないかい?、この間の付け合わせのオマールワタヌキが甘いよ!一からやり直しな!」

ただ怒るだけでなく、褒める所は褒めていた

「こないだ店に行ったよ、お品書きも見やすくて凄く入りやすいよ良く工夫してるね」「あんたのところの鉄板焼き、メインプレートを受け持った娘さん、何も言わなくても小さい子供用に小さくカットしてて気遣い出来ていいね、きっといい料理人になるさね」


洋美祖母ちゃんに褒められたシェフはうっすら涙を浮かべて喜んでおり、怒られたシェフは謝りながらも必死にメモを走らせて改善につなげようと必死だった。



「ほら、雅くん、お祖母様とお弟子さん達の会合時間は限られているし邪魔になるから、夕飯まで私の部屋にいこう」

そういうと腕を絡めて厨房を後にした、踊り場から階段で2Fに上り一番手前の部屋が凜の部屋だそうだ


「さぁ入って、この部屋とも暫くお別れだし明日からお引越しの準備しなきゃね」

そういえば今週の土曜に一気に俺の住んでる寮に許嫁全員が引っ越してくるという事だ、空と静流も土曜の朝にはこちらに来ると聞いている


「土日の午前中は映画の撮影が入っているから、帰ったら引っ越し手伝うよ」


「うん、ありがと、さぁ入って待ってて」そういうと凜は俺を自分の部屋に招きいれた


部屋は壁が薄紫色に統一されており、壁には凜がバスケットの試合をしているときの写真がパネルになって飾られていた

他にも、高校に上がったばかりの時の写真なのか、恵美と凛の一緒に写った写真が飾られていた

(この時は、恵美の方が大人しそうで凜はなんか気が強そうな印象だけど・・いまじゃ正反対だもんな・・)


凜の部屋の間取りはやはり大きく、単純に俺の寮よりも広そうだった。


奥には大きめのベッドがありその横には勉強机が置かれ、凛らしくキチンと整頓されていた


「ん?これは・・・」


机とベッドに脇にはそれぞれ写真が置いて有り、いずれも俺の笑ってる写真だった


俺が写真を見てる事に気付くと、なにやら恥ずかしそうにモジモジして顔を赤くしている凛はやはり可愛かった

俺がベッド脇の写真を手に取り持ち上げると、写真の裏から何やら挟まっていたので引っ張って見ると


「あ!雅くん!?そ、それは!?」


見ると、下着姿の風呂上りぽい俺の写真だった


「え?り、凛?こ、これは!?」


真っ赤な顔で、俺から写真を奪うと、自分お後ろに隠して


「ち、ちがう!別にやましい事につかったりとか・・・して・・な・・い」


動揺しているのか、とんでもない事を言い出す凛を見て「フッフフ・・アハハハ」急に可笑しくなって笑い出す俺にキョトンとしている凛に


「ご、ゴメン、アハハ、いや凜の反応がなんか可愛くて」

そんな俺の様子に顔を真っ赤にして怒ってる凛は「もう!!」そのまま俺の方にとびかかってきた


【ドサッ】


そのまま凜を抱きかかえる形で、後ろのベッドに倒れ込む俺と凛

俺に覆いかぶさる形で凜の顔がすぐ目の前にある


数秒のあいだ見つめ合うと、凜はそっと目を閉じて口付けをしてきた。


暫く口付けをしていると、凜は顔を赤らめながら自分の着ていた上着をスルスルと脱ぎだした、薄着のシャツ姿になって俺から顔を離して恥ずかしそうに微笑むと

自分でシャツのボタンに手を掛ける



【ガタッ】ビクッ!!


入口のドアの方をみると僅かに開いてるのが見える、ふと凛を見上げると怒りに体を震わしていた



(いや、ちょっとまたですか?!お母さん!凛にバレますから!)(エレンお前こそ、今度も私が見えないじゃないか!はやくそこをお退き!)


【バン!】勢い良く自分の部屋のドアを開けると、そこにはスマホ・・では無く本格的なビデオカメラで撮影しているエレンさんと洋美祖母ちゃんが座っていた


「ちょっと~お祖母様にお母様は此処で又何をされているのですか~?」浴室の時以上に怒っています的なオーラを放つ凛

「い、いや凜の、初体験の記録をね~お母さん」「そ、そうだよ、初曾孫の出来る瞬間をね」

バタバタと撮影機材を片付け出す二人

「あ、あぁそうだそうだ二人を呼びに来たんだった~」「そ、そうだよ晩御飯出来たから呼びにね」



二人に対し般若の如く怒る凛の背中を見ながら、


(さっきは危なかった~あのままだったら・・・ふぅ・・俺は二人に助けてもらったな・・)


「ほ、ほら、凛も怒らないで、せっかく凛が作ってくれた夕飯俺凄く楽しみだな!」

そう宥めると、クルっと俺の方を向き直り嬉しそうに抱き着くと


「ええ、今日は腕によりをかけました!是非沢山お召し上がりください!!」

俺は笑顔でお礼を言うと、エレンさんと洋美祖母ちゃんの後ろをついて凛とダイニングに向かった


二人から少し距離を置いて、凜は小声で俺の方へ話かける










『今晩は私の事も、お召し上がりくださいね雅くん』


そう顔を赤らめて、恥ずかしそうに微笑む凛を見るとドキドキが止まらない心臓を落ち着かせるのに必死だった

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