第76話 田舎王子、凛と洋美祖母ちゃんの料理を見学する
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それから、凛に用意しうてもらった服に着替えリビングに向かう
「エレンさん、お風呂お先に頂きました」
そう軽く頭を下げて
「それと、これ大した物ではありませんが良ければ使ってください」
そういい、自分の好みにブレンドしたコーヒーのを土産用の手提げ袋毎エレンさんに手渡す
「あら、雅君これって義母の好きなブレンドじゃない、流石ね」
流石はエレンさんだろう、袋に記載されてる豆の名前と配合比率をみただけで一瞬で分かったようだった
「今、洋一さんは書斎ですこし仕事の残りを片付けていて、凛を義母さんはキッチンで晩御飯を作ってるのよ」
洋一さんのお仕事は手伝えないので、せめて凛と洋美祖母ちゃんの手伝いをさせて欲しいとエレンさんにお願いしたが
「ええ、いやいや、雅君はお客さまだよ?手伝いなんかさせられないし、それに・・・」
なにか言いにくそうに眼が泳ぐエレンさん
「どうしたんですか?エレンさん?何か言いにくい事でも?」
そいうと、エレンさんは少し困った顔をしたあと俺を手招きで近くに呼び寄せ俺の耳元で答えた
「あのー聞いた話だと、雅君て、料理、踊り、絵描き、全然出来ないらしいじゃん・・・」
「!?」
俺の驚く顔を見て、エレンさんは苦笑いする
「ああ、その様子だと自覚なしか・・・」
俺の書いた絵も、手料理も、田舎の爺ちゃんも祖母ちゃんも喜んでくれてたけど・・あれはお世辞だったのか・・
「でも、ほら男の子に多少ダメな所ないと相手の子は疲れちゃうから、雅君は今のままでいいんだよ!」
取って付けたようなフォローをしてもらったが、なんか凹む、落ち込む俺を見てなんかオロオロしてるエレンさんの後ろから
「雅君、エレンが何か失礼な事を言ってないかな?」
トンデモ無い!とエレンさんと二人で手を振って否定しておく
「エレン、せっかく雅君の御土産だ是非入れてきてくれないか?」
洋一さんの言葉を聞いて逃げる口実が出来たと笑顔になり、俺のお土産を抱えてキッチンの方に駆けてった
「ふむ、騒がしい妻で申訳ない、お土産のコーヒーが出てくるまで少し男同士で話をしないか?」
そういうと、俺の真正面のソファーに座り俺に目の前の席を進めてくれた
「昨日は、三宗の御大ご夫婦とお孫さんと一緒に食事をしたそうだね」
昨日の事を思い出し、懐かしさに目を細めて顔が綻ぶ
「雅君にはいい気分転換になったようで何よりだ」
そう優しく微笑んだあと、急に眼が鋭くなる
「ところで、恵様の晩御飯は大層美味しかったと言ってたみたいだが?」
何やら洋一さんから嫉妬にも似た雰囲気を感じたが、嘘を付くのは違うと思い正直に話した
「はい、本当に小学校低学年の時から高校1年、ほぼ毎日の様に食べた思い出の味なので何だか懐かしくて、もう育ち盛りでもないのにカレーを何回もお代わりしちゃいました!」
嬉しそうに話す俺の顔をずっと見つめながら真剣な表情で見つめる洋一さんは、一通り俺の話しを聞くと
「そうか、雅君をここまで成長させてくれた味付けだ、それはきっと思い出も沢山詰まっているだろう」
洋一さんは少し考えるそぶりで目を瞑ると、ゆっくり目を開けて俺を見つめ直す
「雅君、うちの凛は土曜から君の住む寮に同居する、是非食事の世話をさせてやってほしい、そして君の好きな味付けを是非遠慮なく伝えてやってくれ、それが凛の・・彼女にとっての目標になるとおもう」
そう言うと、軽いく頭をさげたので俺も慌てて同じ様に頭をさげた
「あはは、勿論食事以外のお世話も凜に任せてくれても問題ないがな!あれは良くできたとてもいい子だ是非末永く可愛がってやってくれ」
本気とも冗談ともとれない笑顔で洋一さんが話してくれた
「あ、あの、俺・・
【ガチャ】「はーいお待たせーーお土産のコーヒー入りました!!」
リビングにカートを押しながら入ってきたエレンさん、俺は自分が何を洋一さんに伝えるつもりだったのか動揺していて今は思い出せない
「男同士で何の話ですか?」
そういうと、エレンさんはコーヒーを俺達の前に並べて、クッキーの盛り付けた皿を中央に置くと自分のカップを持って洋一さんの横に座る
「男同士の話しだしな、雅君」そう言うと軽くウインクして微笑んだ
「そ、そうですね、アハハ・・ハハ」洋一さんに併せて愛想笑いで誤魔化した
しかしエレンさんは察しているのか、クスクスと口元に手をおいて笑うと、俺と洋一さんはお互いに顔を見合わせて肩を竦ませる
「ほう、母さんの好きなブレンドだな・・」
流石、洋一さんは香りだけで判ってしまうようだ
「気遣い有難う雅君、早速くいただくよ」そう言うとコーヒーを口にする
ゆっくりとカップに戻すと、軽く息を吐き満足そうに頷いた洋一さんを見て俺とエレンさんもコーヒーを飲む
それは、どこか懐かしいあの洋美祖母ちゃんの淹れてくれたコーヒーと同じ香りと味だった
懐かしさに、カップから漂う香りと湯気に瞳が潤む、井の中村でのゆったりとした穏やかな思い出が頭を駆け巡る
「・・・エレンさん・・とても美味しいです・・有難う御座います」
軽く頭を下げると、エレンさんは洋一さんと顔を見合わせて微笑んでくれた
コーヒーとお菓子を堪能した俺は、邪魔をしないという話をして、凛と洋美祖母ちゃんの料理してる所を見たいとエレンさんに伝えて、厨房に案内してもらった
屋敷の奥扉を開けると、流石に食に強いこだわりのある五十嵐の家だけあって学校の教室2部屋分も有りそうな大きな厨房だった
しかし驚くのはそこでは無く、今この厨房には所狭しと大勢の料理人と思われる人であふれていた、その全員が一言も喋る事もなく厨房の奥をチラチラ見ながらしきりにメモを取っているようだ
「あ、あのーエレンさん?あの方達は・・・」
エレン差は苦笑いしながら
「ああ、あの人達はみんな義母さんのお弟子さん達なのよねー」そう聞いて再び見渡すと、外国の人もいるようで
服に刺繍されてる店名には【ジョエル・〇ブション】【ホテルニュー〇谷】【〇フェール】【銀座〇兵衛】【四川〇店】和洋中様々なジャンルの料理人がいる様だ
俺は人込みを避けて凛と洋美祖母ちゃんの料理しているブースに向かった
「ああ、なんだい雅、ここでは出る幕無いよアンタの胃袋は凜がしっかり面倒みるからね」
そう悪戯っぽく笑う洋美祖母ちゃんの横で真剣な表情で料理に打ち込む凛の姿があった、俺の事も気付いてないようだ
「凛!塩を振る時は、この位置から細かく動かして均等に掛かるように!」そう言いながら塩をつまんで魚に振っている凛の腕を適切な高さに誘導する
「はい!お祖母様!」
「次トマトを切るときは、中を崩さない様に包丁の刃先を滑らすように・・」洋美祖母ちゃんの切ったトマトは包丁を入れたのが分からない状態で切られても尚そのままの形を維持していた。
【トン】洋美祖母ちゃんが包丁の柄でまな板を軽く叩くとドミノみたいに均等に切られたトマトが綺麗に倒れてそれを包丁の側面ですくうと、サラダの上にスッと下す
井の中村でも洋美祖母ちゃんは何回もご飯を作ってくれたけど、こうして料理してる姿をじっくり見た事は無かった、その手際には何処か芸術的な美しさがあった。
凜も、必死に指導内容を体で覚え込ますように祖母ちゃんの手際を見て自分も真似して頑張っているのがその難しさは額に浮かんだ汗の玉で良く分かる
俺は横にいるエレンさんに軽く声を掛けると、部屋の隅に移動し見学に来ているシェフ達や真剣な凛の邪魔にならないようにおとなしく様子を見守る事にした。
隅の壁に寄りかかり、人ごみの向こうで洋美祖母ちゃんに熱い指導をしてもらい料理を頑張っている凛をボーっとしながら眺めていた
『ファイール、俺も何か手伝おう』
黒い長い髪の女性の肩に手を置いて頭越しにそう語りかけると、その黒髪の女性は顔だけこちらを振り返りその黒と青の瞳を細めて微笑む
『あら、・・・様は、お料理してダメと、ニーカや他の・・・達に言われてませんでしたか?』
どう意地悪な言い方をする女性の顎そ指先でそっと持ち上げると
『でも、何時までも言われっぱなしは流石に嫌じゃないか・・そうだ!ファイールこの・・・に料理を教えてくれないか?』
少し驚いた様子の女性は、直ぐに頬を赤らめて嬉しそうに頷くと
『では、まず此方の果物の皮を剥いていただけますか?・・・様』
強く胸をドンと叩き、女性から渡されたナイフを手に取り目の前のカゴに入っている果物をひとつ掴むと、ナイフを横にして皮を剥こうと果物を動かす
『つっ!』
俺は果物をキッチンに落としてしまった
『だ、大丈夫ですか!?・・・様!』
直ぐに俺の手を取り、ナイフで切ってしまった箇所を、不安そうな表情で見つめる黒髪の女性
『ああ、大丈夫だファイール、この程度すぐに治る』
しかし、俺の切れた傷口を見て黒髪の女性は自分の口に俺の指をくわえると傷口を舐め始めた
『ファイール大丈夫だ、それに・・・・してないのに・・・・の血を・・・』
顔を赤らめて、そっと俺の指先から自分の口を離し優しく微笑む女性、すでに指先のキズは塞がっていて当然痛みも消えていた。
『では・・・様、この私ににお情けを・・』
そういうと、女性は瞳を閉じて俺の方を向いた
『ああ、ファイール』
おれはその潤んだ唇にそっと口付けをする
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