第73話 田舎王子 手土産を買いに行く
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その日の学校で俺のクラスは大勢の生徒で賑わっていた、どこから来たのか3クラス分は集まっていたかもしれない
[ねぇ詩織さん、映画のヒロインなんて凄いね!アタシ絶対見に行くし詩織さん応援しちゃう!]
[彩羽さん、原作ではメインヒロインだったから断然勝ちヒロインだよ!私、彩羽さんがメインヒロインで良いと思う!]
[雅君!二人と許嫁って本当なの!?噂だけど他にも許嫁が居るって聞いたよ!?]
[あ、アタシも聞いた!なんかその残りの許嫁って三宗さんと五十嵐さんって噂だけど、本当なの!?]
[てか、このクラスに映画の主演キャスト全員が居るって凄くない!?俺親戚に自慢しちゃったよ!]
3ヵ所に人だかりが集中している、たまに見かける詩織も彩羽もさすがというか嫌な顔せずに応対してる
一方俺はというと、愛想笑いが精一杯でうまい事質問をかわす事も出来ない
しかし、昼時になると俺達5人のいつもの食堂でのひと時を邪魔する生徒は居ないが、今日はいつにも増して俺達の会話への聞き耳が多いように感じた
「で、どういう事なのかな?詩織さん彩羽さん?抜け駆けにしても度が過ぎてると思うんだけど」
「そういえば、この間から二人とも恵美にも私にも何か余裕な感じがしてたけど、この事だったのか」
詩織も彩羽も素知らぬ顔でパスタと定食ランチを口に運んでる、二人から答えを聞けないと判断した恵美は隣に座る俺の方を向くと
「ていうか、雅君は当然しってんでしょ?なんで教えてくれなかったのかな?かな?」
今日は恵美からの圧が強い、心なしか恵美の作ってくれたお弁当もいつものウィンナーがチョリソーだったり、生姜焼きが豚キムチだったりピリ辛の物が多い気がする、美味しいけど・・
「申訳ないです・・僕も、キャスティングを知ったのは最近で・・事務所からオッケーが出ない内に周りに話すのはどうかと思いまして・・」
俺の説明で納得はしてないが、理解はしてくれた様で一応は落ち着いた
「まぁこの件は又後日という事で、恵美がご祖父母様方と雅くんの部屋に行って一緒に夕食を食べたと聞いたんだけど何を話ししたの?」
俺の脳裏にあの晩に恵美からの叱責と熱い口付けが頭に浮かんだが、等の恵美は真剣な表情で凜の質問に答える
「まず昨日、生徒会室でお爺様から言われた事の続きなのだけど、静流さんがあの公園で雅君を助ける為に自分の【生気】をずいぶんと強引な方法で送り込み、自身の命を削って雅君を救ったって話を聞いたの」
4人は恵美の話しに黙ったまま聞いていたが続きを恵美が話すのは違うと思い口を挟んだ
「うん、それを聞いて俺が自暴自棄な事を発言してしまって、そんな俺を恵美が真剣に諫めてくれたんです、皆さんに対しても本当に申し訳ありませんでした」
そう言うと4人に向かって頭を下げた
「そうだよね、そんな話聞いたら自分を責めたくなるよね・・でも恵美よく雅くんを諫めてくれたね、本当に以前の恵美とは別人の様に強く逞しくなって私もビックリだよ」
そんな凛の複雑な笑顔に、少し驚いた恵美だったがその瞳は自信に満ちており凛を見つめ返し
「そうね、昨晩に静流さんの話しを聞いて、その覚悟の凄さと雅君への想いの大きさに素直に尊敬したわ」
「詩織さんの配信を見て、その影響力とカリスマ性に驚いたし、なにより雅君への想いを大勢の前でさらけ出せる気持ちの強さに、私は怯んでしまった」
恵美は全員を見渡し力強く答える
「でも!それでも!私は負けたくない!譲りたくない!静流さんにも詩織さんにも他の人達にも、勿論、凛ちゃん貴方にも!」
恵美の覚悟に満ちたリスペクトに3人は強く頷き
「へぇw恵美さん、これは私も油断できないですねw」
「面白いじゃない、アタシも負けないわよ」
「恵美、貴方は尊敬する親友だけど、この勝負だけは私も譲れない」
(俺はこんな素晴らしい女性達に想いを寄せてもらえる価値のある男になれるだろうか・・)
(いやそれは昨日、恵美に怒られた事の繰り返しだ彼女らは彼女らの心に従って前に進んでる)
(彼女らが、では無く自分がどうなりたいのか、どうしたいのか其れを見つけ行動する事が結果として彼女らに報いる事に繋がるのかもしれない)
(それが、師匠の言っていた相手の気持ちに寄り添うという事なのだろうか?)
今の俺には未だ、その答えが見つからないが目の前にいる許嫁達そしてこの場には居ないもう2人の許嫁達を想うと何故かその答えが見つかる気がする
俺は彼女らに感謝して黙って頭を下げる
「ん?みーくん何?どしたの?」
「雅くん?」
「なんだ?雅急に頭を下げて」
「雅君?何かあったの?」
「いえ、皆さんに感謝したくなったのでつい・・さぁ残りのお昼休み時間も短いので食べちゃいましょう!、わぁ恵美のお弁当美味しそうだなー、いただきます!」
彼女らは、キョトンとしたが其れでも俺の感謝の気持ちを受け取ってくれたのか軽く微笑み頷くと各々食事を再開した。
・・・放課後の第一生徒会室
「恵美さん、では今日もお疲れ様です」
「雅君もお疲れ様です、私は少し生徒会に顔を出してから帰りますので、ここで失礼します」
恵美は昨日の夜の事を気にして無いのか、普段通りの話し方だ
(俺の方ばっかり意識していて今日の打ち合わせの時もドキドキしっぱなしだった・・)
第一生徒会室と同じ並びの部屋で建物の一番奥にある部屋の前で扉にノックして何やら声掛けしてる恵美は、その姿を見ているこちらに気付き笑顔で手を振るとそのまま中に入っていった。
(さて、今日は凛の家に御呼ばれしてるからな、何か手土産でも買ってからお邪魔するか・・)
おれは学校の最寄り駅に併設している、商業施設に来ていた
(初めて来たな・・何か手土産に良さそうな・・・ん?)
何やら人だかりが出来ていて、大きな声が聞こえてきた
【あぁん?コイツが先にぶつかってきたんだろーが!】
【おいおい、何いってるんだ、お前らがこの方に先にぶつかったのを俺らは見てるんだ、先に謝るのは当たり前だろ】
何やら複数人の男性が揉めてるようだった、人だかりの隙間から覗くと何処かで見た事ある金銀銅の髪色の3人と見るからに鍛えてそうな2人が言い争っていた
2人の傍にはバツの悪そうな顔のお年寄りの女性が何やら「もう大丈夫だから」と双方を宥めていた、近くの親子連れの女性に話かける
「あの~何かあったんですか?」
「え?ああ、いえねどうやら、あの金髪の男の達の誰かがお婆さんとぶつかった拍子にお婆さんの手提げが落ちてね、その手提げを後ろを歩いていた2人が踏んずけたようでって・・・あれ?」
お母さんの方が俺の方をみると、目を輝かせて手を握ってきた
「も、もしかして、一堂 雅様ですか!!あ、あの私大ファンなんです!!あ、あの映画楽しみにしてます!!」
急に手を握られて驚いたが、一緒にきていた女の子が「ね~ね~ママこのお兄さんだれ?」とつまらなそうにしていたので
俺は腰をかがめて、女の子の頭を撫でると
「あーごめんなさい、お嬢さん僕は一堂 雅と言います、せっかくママとお買い物来たのに邪魔して御免ね、ちょっとまっててね」
そう優しく微笑むと、女の子は満面の笑顔で「うん!!」と答えてくれた、俺は母親に軽く頭を下げると、揉めてる5人とお年寄りの方へ近づいた
【ああぁん、手提げを踏んだのはお前らだろ?お前らが謝れよ!】
【分からない連中だな!先にぶつかった貴様らが謝れと言っている!】
「お婆さん、お怪我は有りませんか?」
俺はお婆さんの方へ駆け寄り腰を落として、様子を伺った
「ああ、いえいえ私は大丈夫なんですが、孫に渡すはずのこれが・・」
お婆さんが手提げから取り出したのは、ベちゃんこに潰れたアニメの主役が登場しそうなロボット絵のオマケ付きの結構大きいお菓子だった
「孫が楽しみにしてて、朝から並んでようやく買えたんだけど・・これじゃ・・」
どうやら、子供に大人気のアニメみたいで店に並んでも直ぐに売り切れてしまうようだ・・ここは・・
俺は凜に電話で事情を伝えて、何とかならないかと聞いてみた
『うん、私に任せて!』
電話を終えて、お婆さんに「なんとか、しますから」と声を掛け、目の前でいがみ合う5人の方へ向かった
【はぁ?俺らのせいじゃねぇって言ってんだろうが!】
【お前らがぶつからなきゃお婆さんは手提げを落さなかったんだ!まずはお前らが詫びろ】
【てぇめぇー!くらえぇ!】【ふん、せいぃ!】
【バシッ!】
おれは双方の拳をそれぞれ左右の人差し指で受け止め5人を睨む
「なぁ、どっちが先とか関係ないだろ?」
【げぇぇあ、あなたは・・・】【い、一堂・・・雅・・様】
5人は顔を青くして、その場で土下座を始めた
【【大変申し訳御座いませんでした!!】】
どうやら、以前凛と恵美に絡んでいた男達と、例の鬼道館の門下生だったようだ
「いや、謝るの僕にじゃないよね?」
5人は土下座の姿勢のままお婆さんの所に這っていき同じように謝罪をした、お婆さんは慌てて「いいよ、いいよ」といっていたが
「申訳御座いませんお客様、先ほどこちらのお菓子をご購入いただいた方で宜しかったでしょうか?」
奥から店員と思われる男性が、お婆さんの買ったのと同じ箱のオマケ付きのお菓子を手に話しかけた
「はぁ、そうですが・・なにかありましたか?」
店員は丁寧にお辞儀すると
「はい、この度店内の騒動にてせっかくご購入いただいた商品を壊されたとお聞きして、宜しければ此方の新品とお取替えをさせて頂きたくお声掛けさせて頂きました」
お婆さんは最初は驚いていたが、店員の丁寧な接客におおいに喜んで、何回も頭を下げてお礼を言いながら新品のお菓子と交換してもらい出口の方へむかい返っていった
店員は膝をついたまま頭を下げてる男達を警備員に指示し連れ出すと、俺の元に来て深々と頭を下げた
「若旦那様、この度は当店に起こしいただき誠に有難う御座います」
「わ、若旦那!?え、いや、ああ、凛にお願いしたのでそれでなんですね」
店員(実は店長だった)は笑顔で頷き俺に何をがしてるのか尋ねたので【コーヒー豆を見たい】というと案内を申し出てくれた
「わーお兄ちゃんカッコいいーーーー!」
「おおー兄ちゃん、いいぞ!いいぞ!」
「ね、あれマジで雅様なん?!、写真取り損ねた!!!!」
「イヤイヤ、今のSNSで既にUPされてるよ?」
「マジ?どれ・・・うわーイイネが30秒で50000件て!」
俺は店長に誘導されるなかで、集まったギャラリーの中に居る先ほどの親子連れの女の子に向かって笑顔で軽く手を振った
「「「「キャアァァァァーーーー」」」
フロア中に響く声援に俺も驚き慌てて店長の後ろに隠れる、店長は悪戯っぽく笑っていたが何も言わずにコーヒー豆専門店に案内してくれた
俺は店内を見て回り、ブラジル、コロンビア、エチオピアの豆をブレンドしてもらい購入した
「いえ、これは僕がお土産で購入するので、お金はお支払いさせて頂かないと困ります!」
頑なにお金を受け取らない店員に対し強めに詰め寄り、無理やりお金を支払うと後ろで店長は苦笑いしながら頷いていた
目的の物を購入できたので、店長に頭を下げてお礼を言うと帰りは裏口を案内された、どうやら店の各入口にSNSで店の場所を特定した人が大量に押し寄せ混乱してるようだった
裏口にには既に黒いリムジンが待機しており、運転手の方が待っていてくれた
「では若旦那様、またのご来店お待ちしております」
店長は俺に深々と頭を下げて見送ってく、一方俺のほうは五十嵐の家へ向かうのでった
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