第29話 田舎王子と詩織の誤算
詩織の部屋にて・・・・
私は焦っていた、他の3人がこちらの想定より積極的に仕掛けてきてる。
調べた限り、凛は中学時分から家が飲食を生業としてる五十嵐家において料理に全く興味が無いのか家庭科の授業でも洗い物専門で自分で調理に関わろうとして無かった。
いや寧ろ避けていたとみるべきだった。
それが、私が長い時間かけて身につけた、みーくんの好物のオムライスの味を完全に再現して見せ今までの料理下手が嘘のようだ。
おそらく僅か1週間の間で五十嵐家の総力と凛の並々ならない執念とみーくんへの想いが、あの完コピのオムライスを作りあがたのだろう。
しかも、本人はあの初日の一件以降、凛として近づき難いイメージから一転、しおらしく恋する乙女の恥じらいを全面出してきている。
「みーくんに抱きしめてもらうとか・・・・・ありえないんだけど!」
みーくんが写ったお気に入りの写真の前で親指の爪を噛んでつぶやく。
恵美については正直、凛と同様にライバルとしては少し下にみていた。
確かに愛らしい容姿に他の許嫁には無い女性として主張する部分は目を引くが、自分も他の2人も人並み以上には有るし、決定的な差を生むものでは無いと思っていた。
みーくんには同年代の友人もまして女性も近くに居なかったのもあり、女性の外見の好みとかは二階の力でも把握出来てなかったが、
明るい人が好きとか、オムライスが好きとか、踊りが好きとか、あと強い女性が好きとか・・・容姿以外の好みは他の3人より把握してる自負がある。
しかしここにきて、恵美は三宗家の使える力を存分に利用し、みーくんとの関係を進めるべく動き出した。
「まさか、学校行事にかこつけて、みーくんを自分一人で独占しようとするとは・・・・」
恵美と凛の覚悟の大きさを少し見誤っていたが、自身も動くべく当面の一番のライバルとして見ている彩羽に対し手打つ事にした。
詩織は、配信用の部屋に入るとPCを起動しアイコンをクリックする。
5重のパスワードを入力すると数秒間のコールの後、画面の向こうに父親の姿が現れる。
「お父様、急にお呼びして申訳ございません」
画面の向こうの父は、表情を変える事無く黙って頷いた。
「状況は把握いただいてると思います」
画面の前で父は顎を手にのせて肯定するように右手で詩織の言葉を遮るようなしぐさで答える。
「3人はお前の想定しているより、想い人に積極的に動いたようだな」
父の指摘に詩織なりの見解を話す
「確かに、五十嵐、三宗の行動力には少し驚きましたが、そこまで大きな誤算にはならないと思います」
「ほぉう・・・・聞こうか」
父は姿勢を正し、テーブルに用意してあったコーヒーを口にした。
「はい、まず五十嵐の令嬢は手料理を振舞ってみーくんに喜んではもらってましたが、この間までそれは三宗の令嬢もしていた事で取り立てて特別な事だとは思っておりません」
コーヒーカップを皿に戻し
「だが、五十嵐は若様の思い出の味を再現したと聞いたぞ?お前も再現するまで数か月掛かったが、五十嵐の娘は僅か1週間でものにしたとか・・・それは今までと同じと言えるのか?」
父の指摘も最もだが詩織には考えが有った。
「はい、それについても私に考えがあります、後ほど別件と併せてお父様にお願い申し上げます」
その事に納得したのか、黙って頷いた。
「次に三宗の令嬢ですが、こちらは完全に盲点でした、恵美は真面目な性格で自分の家の力を、自己の欲の為使う事をためらっておりました」
首を軽く振り再び話し出す。
「しかし、先の五十嵐の令嬢の行動が五十嵐家の力による物だと察した、恵美は遠慮をしてる自分を改め、したたかに強い意志を持って三宗の力を使い先の状況を作りだしたのだと思います」
父は少し考えるそぶりをして
「ふむ・・五十嵐の娘も三宗の娘もそうとう若様に想い焦がれてると見える・・・」
詩織は頷き
「恋する気持ちは女性を変えます、凜は凛々しいイメージから、しおらしい乙女へ、恵美はか弱い守られる対象のイメージから、したたかな強い意志の女性に」
「それぞれ、今までの自分の殻を破って成長を遂げてます・・・・そして恐らく四葉の令嬢も・・・」
父は、画面越しに腕を組んで少し背もたれに体を預けて考えていた、私はわずかな時間だがその間に父に要求する内容を頭でまとめていた。
「それで、お前は今後どのように動くのだ?私に何かさせるつもりなのだろう?言ってみるといい」
画面越しに、詩織の答えろ待つ父は少し嬉しそうに感じた。
「それでは、お父様に・・・いえ、二階家の力でやっていただきたい事があります」
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