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 水川は、iPadでシンレイ研究会のYouTubeチャンネルにアクセスした。2週間経つのに動画はアップされていない。霧島のTwitterもInstagramも更新がなかった。

 そういえば、霧島は箱に書かれた呪文を言語学者に見せると言っていた。呪文の正体は一体なのだったのだろうか?急に気になり始めた。

 そういえば、霧島は、金原という言語学者に呪文を解読してもらうと言っていた。

 水川は、霧島のTwitterのフォロワーから、言語学者を調べることにした。すると、1000人近くをフォローしていた。これは、探すのは大変そうだと、水川は思ったがしらみ潰しに探すことにした。

 すると、200人目に金原進というアカウントを見つけた。アカウントをクリックすると、プロフィール欄に「言語学者」と書かれていた。

 水原は言語学者に、メッセージを送った。これまでの経緯とシンレイ研究会の失踪についてだ。メッセージを送ると、数分後にTwitterの通知が来た。Twitterのメッセージを確認すると、「電話で話しませんか?」とメッセージが届いた。

 水川は一瞬迷った。いきなり電話なんて、少し怖かった。だが、勇気を振り絞って、電話番号をメッセージに打ち送った。

 すると、iPhoneに電話がかかって来た。

 水川は、電話をとった。

「もしもし。メッセージを送った水川です」

『どうも、金原です。突然、電話してすみません。何せ、メッセージで送ると長文になるもので』

「いいえ、こちらこそわざわざご連絡ありがとうございます」

『それで、霧島が失踪中だというのは本当ですか?』

「はい、刑事が訪ねて来て失踪届けが出ているみたいです」

『そうですか。それは大変だ」

「それで、なんですが、水川さんが送った呪文は解読できましたか?」

『それが、ですね。いくつかわかった事があります』

「本当ですか?」

『はい、この呪文、いや、文字はシュメール語に非常に近い事がわかりました』

「シュメール語?」

『はい、古代メソポタミア文明で使われていた文字のことです』

「それで、内容は?」

『それがなんですが、先ほども言った通り、シュメール語に近いだけで、あと複数の謎の文字が組み合わさっていて、完璧には解読できません』

「そうですか。それで、分かった部分だけでも良いので教えてもらえませんか?」

『はい、『不幸にして幸い』、『最高の幸せを得る事ができる』という部分だけわかりました』

「なんです?その意味は?」

『恐らく、これは、僕の推測ですが、周りが不幸にあう代わりに、自分が、つまり箱の所有者が幸せになると書かれているのだと思います』

「そうなんですか」

『はい、この手の呪文にはよくある文言です。恐らくは、そんな事が書かれているのではないかと、思われます』

「わかりました。どうもありがとうございました」

『いいえ、こちらこそ、貴重なサンプルを提供していただき感謝しています』というと電話が切れた。

 水川は、考えた。確かに、田上も佐藤も周りが不幸になってから、仕事がうまく行き始めた。

 だが、分からないのは「最高の幸せを得る事ができる」という文言だ。この法則が正しければ、佐藤が木本と自殺した意味が分からない。謎は深まるばかりだ。

 急に水川は冷静になった。呪いなんて最初から無かったのかもしれない。全部偶然だ。

 きっと、箱を捨てたのに戻ってきたのも、自分達が箱を捨てたと勘違いしていただけかもしれない。

 水川はベッドで横になった。そして、もう一度、霧島に送ったLINEを確かめた。イヤリングのことでメッセージが止まっていて既読がついていない。

 本当にシンレイ研究会の人たちは大丈夫だろうか?

 もしかして、箱のせいで、死んでいるのかもしれないと心配だった。

 すると、iPadから通知が来た。フリマアプリでエアジョーダン5の限定モデルが売れた。

 水川は、4・5畳の部屋へ行き、エアジョーダン5を探した。だが、どこにも見つからない。もしかすると、倉庫にあるかもしれないと思ったそのとき、茶色い紙袋に包まれた物を発見した。

 水川は、なんだろうと紙袋を開けた。すると、中には赤、青、黄色の装飾が施された5角形の箱が入っていた。

 思わず、水川は箱を床に落とした。

 なぜ、ここに箱が?と、困惑する水川。すると、水川は、キッチンで見つけた霧島のイヤリングのことを思い出した。

 もしかして、田上がシンレイ研究会の3人を殺したのではないかと頭によぎった。でも、そんなはずはない。

 もし、田上が周りの人間を殺したのであれば、森田の自殺の説明がつかない。だが、彼はシンレイ研究会に箱を渡したと言っていた。箱がこの前みたいに戻ったのだろうか?それに嘘をついていたことになる。

 水川は、訳が分からなくなった。これは、直接、田上に聞くしかない。

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