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深夜1時。画面上で見る田上は寝ていた。
「よくこの状態で寝られるな」と藤本が言った。
「仕方ないは。彼には自覚症状がないのだから」と霧島。
「まあ、ゆっくり待つしかない」と竹内。
霧島は、この3日間で全く進展がないことに内心イライラしていた。
いくら除霊しても、田上の後ろに憑いているものは祓えず、箱も相変わらず同じ負のオーラを漂わせていた。
箱にヒントがあるに違いないのは明らかだが、言語学者の金原に写真を送ったが、呪文は、今の所どの言語とも共通点がないと言われたが、しいていえば古代メソポタミア文明の言語に似ているらしい。
それか、誰かが勝手に作った言語か、出鱈目なものか、あるいは暗号かも知れないと言われた。
全く進展がないので、予定が思っていた以上に伸びて明日もやることとなった。これで、3日目の夜になる。
「それにしても、撮れ高もないし、この動画大丈夫か?」と藤本。
「大丈夫よ。こんなに強いのは初めてだから。解決したら、再生数がきっとのびるはず」
シンレイ研究会を結成したのが3年前のことだった。
元々、竹内はテレビの制作会社のプロデューサーだった。藤本は、そこのADだった。竹内と藤本は、ある日のこと制作会社が倒産して無職になった。路頭に迷った二人は、その時にYouTube番組を制作する事に決めた。再就職するにしてもテレビ業界という特殊な環境で仕事していた為に、一般社会の会社に入れるか疑問だった。それに手っ取り早いからだ。
どんな、番組を制作しようかと悩んでいた二人は当時、流行していた心霊系の番組を作ることにした。
二人は、制作会社に勤めていた時に知り合った霊能力者の紹介で、霧島と出会った。
霧島は当時、霊能力者の業界内で一目置かれる存在だった。除霊の能力は高く、彼女に任せれば大抵の霊障はどうにかなると言われていた。
竹内と藤本は、彼女に直接会い、頼み込んだ。「一緒に番組を作らせてください」と、すると霧島は二つ返事でOKした。そして、「シンレイ研究会」がスタートした。
それまでの他の心霊系のYouTubeチャンネルは、怪談や心霊スポット巡りがメインだった。
しかし、シンレイ研究会は、怪談や心霊スポット巡りに加えて、霧島の除霊することによって、他のチャンネルと一線を画した。
チャンネルを開設すると、登録者と視聴回数が倍々に増えていき登録者が10万人になった。月に100万円の利益が出た。
だが、最近は広告収入自体が減り、飽きられたのか再生回数も減ってチャンネル存続の危機にさらされている。
竹内と藤本はとても焦っていた。もし、チャンネルがなくなれば、路頭に迷うことになる。
そんな時にビッグチャンスが3人の元にやってきた。
「なあ、霧島。田上についているのは、そんなに強いのか?」と竹内。
「ええ、かなり強いわよ」
「本当のところ、何が憑いているのですか?幽霊?悪霊?悪魔?」
「それが、なんだかわかったら苦労しないわよ」
霧島は、未だに田上に憑いているモノがなんなのか謎だった。とても邪悪で、光を吸い込んでしまいそうなブラックホールのような真っ黒いもの。そして、あの箱。負のオーラを放ちつつも時々、光り輝いき明るいオーラを放つときもあった。こんな呪物を見たのは初めてだった。
「なあ、このまま何も起きなかったらどうするのですか?」と藤本。
「それは、どうにかするしかないだろう」と竹内。
「もしかして、また、やる気ですか?」と霧島は呆れた。
過去に、何も起きなかったことが何度かあった。その時に、小道具を使ってヤラセをした。
「そんな事をしたら信頼を失います」
「だって仕方ないじゃないか。YouTubeだから映ってなんぼだ。映らなければ意味がない」
「そんな事をしたら信頼を失いますよ。見る人が見たら、ちゃんとわかるのですからね」と霧島は怒った口調で言った。
「霧島さん。一般視聴者はそんな事はわかりませんよ」と藤本。
藤本と竹内は幽霊に対して懐疑的だった。何度も、霊障を経験していが、毎回収録が終わると、「何かの勘違いさ」と言って小馬鹿にしていた。
霧島は、気にしなかった。そんなことには慣れているからだ。
霧島は物心ついた時から幽霊が見えた。それは、彼女の家族が先祖代々見える一族だったのも関係している。なので、家族は気にする事なく霧島を育てた。
他の家庭と変わった事といえば小さな時から幽霊の除霊など英才教育を受けた事だ。
あらゆる宗教の知識と除霊の知識を叩き込まれて、修行もした。滝行から始まり、一人で山籠りを、幼い頃からやっていた。そして、沖縄のユタの元でも修行した。あらゆる修行を叩き込まれた。
そんな霧島を見て、同級生や先生たちから奇妙な目で見られた。よくからかってきた。時にはイジメにまで発展したこともあっが、霧島は気にしなかった。
最初は、イジメにあう度に泣いていたが、これも修行の一部だと思い、霧島は我慢した。本当は辛かったが、そのうちに不思議なモノで慣れてきた。それに、イジメを受けないコツも掴んだ。幽霊を見えないフリをした。すると、イジメもからかわれる事もなくなった。
それに比べれば藤本と竹内はマシな方だ。
霧島は一人で霊能力者として稼げるだけの力を持っていた。しかし、知り合いの頼みで軽い気持ちで参加したYouTubeに出ることに快感を覚えた。
普段なら霊能力者は日陰で儀式をする。しかし、スポットライトを浴びることがこんなに楽しいなんて、思ってもみなかった。
それに普段なら会うことのできない芸能人とコラボして、ファンもできてまるで有名人になったかのような感覚になった。
だが、中には批判的な人たちもいた。家族や周りの霊能力者も例外ではなく、あまりいい顔をしなかった。「目立ちすぎ」だと。しかし、霧島は気にしなかった。今までイジメの対象にあって慣れたせいもあるかもしれない。
それに、彼女はこのYouTubeチャンネルに誇りを持っていた。一般人を除霊して、普段ならあり得ない数の一般人をお祓い、除霊ができた。そして、彼らが除霊された事によって幸せになっていることが、嬉しかった。
なので、霧島はこの番組をどうにか存続させたかった。それは、自分のためでもあり、竹内と藤本のためでもあった。
「おい、箱のカメラを見てくれ」と急に竹内が言った。
霧島と藤村が箱を写し出された画面を見る。すると、箱が、赤、青、黄色と光り輝いていた。リビングの引き戸のガラスからもその光が漏れていた。
「これは、いったいなんだ?」と藤本。
「わからない」
霧島はそれを見て、不思議な気持ちになった。そして、隣の部屋から負のオーラと明るいオーラが混在したオーラを感じた。力はどんどんと強くなっていき霧島は頭が痛くなった。
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