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田上は、早朝の5時30分。月野国神社が始まった瞬間に電話をかけて、10時に予約を取った。
最寄り駅から遠いため、車で行くことにした。水川も来ることになった。彼女も、もしかすると呪われている可能性があるからだ。
箱を鞄に入れて、時間より30分早く着いた。
「ねえ、大丈夫かな?」と水川が弱々しく言った・
「多分大丈夫だよ」というと田上は水川の手を握った。
「もし、凛を呼ばなければ生きていたのに」
「そんなこと言うなよ。全部、僕のせいだ。あの箱を引き取ってはダメだったんだ。僕が欲にくらんだせいだよ」
「あなたは悪くないは。全部、箱のせいよ」
「うん、ありがとう」
10時20分になった。
「そろそろ、行こう」
「うん」と言って、車から出て駐車場か光野国神社へ向かった。
光野国神社は300年の歴史がある。
300年前にこの土地で飢饉が続き食害から守る象徴であった狼を祀った事が始まりであるらしい。狼には魔除けの力があり昔から、厄除けとして有名な神社だと、ホームページに載っていた。
ネット上のまとめサイトではお祓い、除霊をしてくれる神社として日本で3本の指に入ると書かれていた。
値段は相場より高い7万円。大金だがこれで呪いが収まるのであれば安い値段だ。
田上と水川が大きな赤い鳥居をくぐり境内に入り、参道を歩くと、外観は、立派な木造作りで大きい本殿が見えた。
「ねえ、このまま本殿に入るの?それともどこか受付所でもあるのかな?」
「わからない」
田上は回りを見渡した。すると、本殿の横に受付所のような小さな木造、一階建ての建物があった。おそらく受付所だろう。
田上は受付所と思われる建物に向かった。建物には大きな磨りガラスの窓が閉まっていて、窓の横にチャイムがあった。チャイムを押すと中からチャイムの音が聞こえた。
「はい」と女性の声が聞こえると、磨りガラスの窓が開き、40代のフレームが無いメガネをかけた女性が窓から顔を出した。
「すみません。10時30分に予約した田上という者ですが」
「はい、ちょっと、待ってくださいね」というと、女性はiPadを見てから「田上様ですね。神主が本殿でお待ちです。そのまま、本殿へ進みください」
「わかりました。ありがとうございます」と言って、田上は水川と共に本殿へ向かった。
本殿に着くと、入り口が真っ白な障子が貼った引き戸だったため、ノックするのをやめた。
「すみません。私、予約した田上という者です」
「入ってください」と中から声が聞こえた。
田上と水川が中に入った。
坊主頭で、頬が弛んで、目は奥二重の顔をしていて、白い袴を着た神主が立っていた。
笑顔だった神主だったが、田上と水川を見てからしばらくすると、引きつった表情に変わった。
「今日はお世話になります田上という者です」
「それ以上、こっちに来ないでください」と神主は言った。
田上と水川は、神主が呂律の回らない言葉でいうので何を言っているのか聞き取れなかった。
「あの、なにかありましたか?」
「私には無理だ。お引き取り願います」
「しかし」
「いいから、出ていけ!」と声を張り上げた。
呆然とする田上と水川。
「言っていることがわからないのか。お前は汚らわしい。その鞄に入った箱はもっと、汚らわしい。とにかく帰ってくれ」
「でも」
「でも、じゃない。俺が言っている言葉がわからないのか?今すぐに帰らないと、しょうちしないからな。とにかく出ていけ」というと、神主は田上を押し倒した。田上は頭を畳にぶつけた。軽く目眩がした。
「なんてことするのですか?酷すぎます」と水川が声を張り上げて言った。
「うるさい。黙れ。この不届き者が、神聖の場所に、そんなものを持ち込むな。いいから出ていけ」
「なんて酷い事を言っているのですか?」と水川。
「いいよ。もう、ここには頼まない」と田上。「なんて酷い神社だ。お前こそ恥をしれ」と田上が吐き捨てると、水川の手を取り、本殿を出た。
「なにアイツ。酷すぎる」
「まさか神主に突き飛ばされるとは」と後頭部を手で押さえる田上。
「ねえ、これからどうする?」
すると、田上は本殿の床下の柱が剥き出しになっていて、そこに空間があるのを見つけた。
田上は、ショルダーバッグから箱を取り出し、箱を床下に投げ入れた。箱は床下の奥まで転がり見えなくなった。
「ねえ、何をやっているの?」
「こっちは突き飛ばされた。これくらいの事をしても罰はあたらないだろう」
「でも」
「きっと、大丈夫さ。あとは、あの神主がどうにかしてくれる」
「本当に大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。ねえ、これから気分転換に何か食べに行こうよ。7万円も浮いたわけだし、焼肉でも食べよう。最近、元気がなくてお互いあまり食べられなかっただろ?」
「うん、でも」
「大丈夫だよ。どこかに捨てるより、神聖な場所に捨てた方が、きっと効き目がある」というと、田上は水川の手を取り駐車場へ向かった。
これで、きっと解決すると、根拠のない自信が田上の心の中で満たされていた。
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