32

 田上のiPhoneのアラームが鳴った。

 田上は手探りでローテーブルに置いてあるiPhoneを探しアラームを切ると、起き上がった。

 窓からは朝の優しい日差しが入り込んでいた。

 田上はとても良い寝起きだった。これもきっと箱に解放されたからに違いない。

 いつものように、コーヒーを飲もうとダイニングルームに向かう時のことだった。視界に赤、青、黄色の光るものが入った。視線を光る方へ向けた。すると、昨日、捨てたはずの箱が、いつもの棚に置いてあった。

 田上は驚いた。これは夢ではないかと?田上は箱を持ってみた。確かに箱の感触が伝わってきた。しかも、昨日、川に捨てたというのに全く濡れていない。

 田上は、箱を棚に戻した。そして、こんなはずはないと何度も頭の中でつぶやいた。

 いや、自分の勘違いかもしれないと思って、田上は寝ている水川を起こした。

「おはよう。どうしたの?」と眠そうにいう水川。

「由香、あの棚にある箱が見えるかい?」

「何言っているの?昨日捨てたでしょ」と水川は棚の方角を見た。「え、なんで?なんで、箱がここにあるの?」

「やっぱり、僕の勘違いじゃなかった。やっぱり呪われている」

「ねえ、落ち着いて。きっと何かの勘違いよ」

「でも、昨日、君も僕が箱を捨てるところを見ただろ?」

「うん。確かに見た」

「多摩川に捨てた。それが、戻ってきた。きっと呪われているに違いない」

 水川も驚いた様子で箱を眺めていた。

「ねえ、もう一度捨てましょう。きっと、戻ってきたのも何かの勘違いよ」

「じゃあ、二人とも夢を見ていたってことかい?」

「そんな事を言っている訳じゃないけど・・・」

「これで、ハッキリした。あれは呪いの箱だ。俺たちではどうすることもできない。こういう時は、どうしたらいい?誰か霊能力者でもいればな」と田上が独り言のように言った。

 田上はとても怯えた様子で言った。水川も怯えていた。確かに、捨てたのに。もしかして、田上が夢遊病か何かで箱を取りに戻ったのではないかと疑ったが、あんな暗闇の中、水深の深い川の真ん中まで泳いで箱を取りに行くなんて不可能だ。これは、本当に呪いかもしれないと水川は思った。何か、違う理由を探した。そうだ集団ヒステリーの可能性も捨てきれない。田上は本当に箱を捨てていなくて、自分も箱が川に落ちるのを見た気になっていたのかもしれないと。だが、集団ヒステリーだとしたら、それは、それで問題だ。どちらにせよ、この事を放ったらかしにしていく訳には行かない。そこで急に水川はある事を思い付いた。

「ねえ、私の大学の友達に幽霊が見える子がいるの。しかも除霊もできるみたい。もしよかったら会ってみる?」と水川はいった。

「それは本当かい?」

「うん、本当に霊能力者なのかはわからないけど」

「直ぐに連絡を取ってあえるかい?」

「うん、たぶん会えると思うけど」

「そうか、じゃあ、箱を見せてみよう。なにか、解決の糸口になるかもしれない」

「きっと、これで解決するはずよ」

「うん、そうだね。これで解決する。助かった」

 水川は安心した表情になった田上を見て少し気分が落ち着いた。もしかすると、これで、呪いだか集団ヒステリーが治るかもしれない。

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