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今日は雲があるのに関わらず35度と暑かった。

 田上は、MacBookでフリマサイトとオークションサイトで掘り出し物を探していた。

 今日は出張査定の予定が無かったからだ。

 ネットで商品を探すことは極力避けているが、在庫が少なくなってきた。古物市場まであと4日。コネで商品が入ってくる予定もない。なので、時間つぶしと市場調査のため、ネットで商品を探していた。掘り出し物がある可能性がある。だが、それはとても稀なケースだ。特にブランドものは、まず無いと思った方がいい。利益が出ないほどの値段で売られているからだ。それに、安いと偽物の可能性もある。リスクが高いからだ。

 掘り出し物を探すのには水川も手伝った。彼女はiPadを使って商品を探していた。

「ねえ、すごい物を見つけたよ」と水川。

「なにが、見つけたんだい?」

「BTSのアメリカのツアー限定Tシャツ」

「いくらだい?」

「1万円」

「それは、安いのかい?」

「うん、市場価格で4万円するから」

 田上はiPadの画面を見る。中央にBTS、裏に、アメリカのツアーで回った場所の街が印字されていた。出品者を見ると、いろんな商品を扱っている。おそらく同業者だ。

「Tシャツか、ちょっと怪しいな」

「そうなの?」

「Tシャツは直ぐにコピーできるからな。それに、見た感じ出品者も同業者だ。価値を知らないはずがない」

「じゃあ、偽物ってこと?」

「可能性はあるね」と出品者が、他に出品している商品を見てみると、Tシャツが多かった。こういう場合、オフィシャルでなくても転売するのは、グレーゾーンだ。だが、BTSほど有名だと偽物を売るとファンは確実に怒るだろう。それだけは避けたい。

「そう。すっかり騙されそうになった」

「仕方ないよ。始めたばかりだから、僕も最初の方は、プレミアのついたTシャツを買って偽物だと気づいた事がよくあった。気にしなくて良いよ。今回は市場調査が目的だから」

「うん、わかった。違う物を探すわ」と、水川は再び視線をiPadに向けて、再び商品を探し始めた。

 すると、田上のiPhoneが鳴った。画面を確認すると広川からだった。

 田上が電話に出た。

「もしもし、広川どうした?」

「おい、ニュースを見ていないのか?犯人が見つかったぞ」

「マジか?それで、犯人は誰だった?通り魔か?」

「井上が犯人だよ」

「井上?」

 田上は井上と聞いて全く心当たりがつかなかった。

「井上だよ。覚えてないのか?」

「うん」

「俺たちの同期で最初に辞めた奴だよ」

 田上は急に思い出した。

 井上は田上と一緒に新卒採用で入った同期だった。背は高く体格はがっしりとしていて、眉毛が濃いのが印象的だった。同期の中で、一番優秀で頭の回転も早く、穏やかな性格で人望もあった。ミスして怒られた同期に優しい言葉をかけてくれた。同期の中では彼が出世するだろうと田上も含めて思っていた。だが、その事が杉浦の嫉妬心を刺激したのか、ある日から急に彼の事を虐めるようになっていた。他の同僚がミスをしても無理やり彼のせいにして怒鳴り、彼がミスをしたものなら激昂した。そんな、日が半年ほど続いたある日、急に来なくなった。そして、後に彼は辞めたと聞かされた。理由はノイローゼだったそうだ。

「それは本当か、あんなに優しかった井上が?」

「会社を辞めたあと、井上は、その日暮しの生活をしていたみたいだ。きっと、杉浦に強い恨みを持っていたに違いない」

「まさか、井上がね」

「こっちも驚いているよ。あんなに優しかったのに。とても、人を殺すようには思えない」

「そうだよな。彼には、杉浦から激怒された時に、帰りに居酒屋に連れて行ってもらって慰められたのを覚えているよ」

「俺も、彼には随分、慰められた。まさかあんな優しい奴が。信じられない」

「確かに、信じられない」

「じゃあ、そろそろ休憩が終わるから」と広川はいうと電話が切れた。

 田上はテレビを付けた。するとちょうどワイドショーで杉浦の事件のことが報道していた。犯人である井上が自宅から護送される映像が流れた。

 井上は、新卒で入った時の風貌とすっかり変わっていて、爽やかな雰囲気は消えていて、髪がボサボサ、やさぐれた印象で虚な目をしていた。

「ねえ、この人が、犯人だったの」と水川。

「そうみたいだ」

「親しかったの?」

「まあ、半年の間だけだけど」

「そうだったの」

「信じられない。井上がこんな事をするなんて」

 田上は、井上にこの10年以上、何があったのか色々と想像をした。

 広川は、その日暮しの生活をしていた、と言った。でも、そんな事で井上が、人を殺すだろうか?

 色々考えても仕方ない。井上は真面目だった。真面目だったが故に、杉浦のような奴が許せなくて殺したのかもしれない。

 それにしても、なんとも後味の悪い事件だ。まさか、自分の知り合いが犯人なんて。想像もつかなかった。

 井上と一緒にお昼休みを一緒に食べた事を思い出した。彼は、常に人を笑わせるのが好きで、頭も良く、好青年だった。杉浦のターゲットになった時も、まるで気にしていない素振りを見せていた。きっと、当時相当なストレスだったはずだ。あの時、もう少し優しい言葉や、労働局に相談する様に促していれば彼の人生は変わっていたかもしれないと思うとやりきれない気持ちになった。

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