20

 田上と水川は同じベッドで寝ていた。

 iPhoneの着信が鳴った。目を覚ましたのは水川だった。彼女はiPhoneを確認すると自分宛ではないことが分かった。隣に置いてある田上のiPhoneの画面が光っている。

 水川は、気持ちよさそうに寝ている田上を起こそうか迷った。だが時間を見ると深夜2時。緊急の電話に間違いないと思った彼女は、田上の身体を揺さぶった。

「なに?どうした?」と田上が眠そうな声で言った。

「雅人に電話だよ」

「電話?誰だよ」と田上はiPhoneを手に取った。画面には武田と表示してある電話に出た。

「もしもし、武田くん。何時だと思っている」

「すみません。こんな遅くに。実は大変な事が起きまして」

「大変なこと?何?」

「菅が亡くなりました」

 急に目が冴えた田上。

「なんだって、本当かそれ?」

「はい、知り合いから電話がかかってきて、菅が駅のホームから飛び降りたみたいです」

「自殺か?」

「多分そうだと、知り合いが言っていました」

「そうか・・・」

「なんて言っていいのやら」

「まあ、とりあえず冷静になろう。きっと明日もっと詳しい事が分かるかもしれない」

「そうですね。菅の事は嫌いだったのに、なんだかショックです。」

「そうだな」

「じゃあ電話を切りますね。新しい事が分かり次第連絡します」

「分かった。おやすみ」というと電話が切れた。

 田上はため息をついた。

「ねえ、何かあったの?『自殺』って聞こえたけど」

「古物商仲間が自殺したらしい。

「え?そうなの?」

「駅のホームから飛び込んだらしい」

「親しい人だったの?」

「いや、むしろ逆だよ。仲が悪かった。だけど、ショックだ」

「そうなの、かわいそうに」というと水川は田上を抱きしめた。

 菅が自殺などするような人間には思えなかった。だが、人の考えていることなんて表面上ではわからない。

 そういえば、この前の古物市場で武田が菅の調子が悪いと言っていたのを思い出した。それが関係しているのかもしれない。

 田上は、菅との思い出が頭の中に流れ込んできた。どれも、ロクなものではない。むしろ憎んでいた。だが、死んだとなると話は別だ。

 確か、菅には家族がいたはずだ。娘がいるという話も聞いた事がある。そう思うと余計に悲しい気持ちになった。

 家族は一体何を思っているのだろうか。

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