15
今日もアルタ前で待ち合わせた。時間は10時だった。
田上はテーム・インパラのTシャツにブラックジーンズの出立ちでコンバースのジャックパーセルのスニーカーを履いていた。タイメックスの時計を見る。10分遅刻している。映画の上映開始時間は10時30分だ。LINEを確認したが連絡はない。もしかしてすっぽかされたのではないかと思った。
田上が立っていると遠くから水川が走ってきた。
「すみません。遅刻してしまって」と水川はBTSのTシャツと青いロングスカートと赤いコンバースのオールスターのハイカットのスニーカーを履いていた。
「大丈夫ですよ。それに上映時間まで時間があるし、席は予約しているので安心してください」というと田上は安心した。もし、このまま来なければどうしようかと不安でしかたなかったからである。
「さあ、映画館に行きましょう」
アルタ前から歩いて、5分。映画館のバルト9についた。
エレベーターで最上階に行き、チケット販売機にiPhoneをかかげて、チケットが発券された。
「ポップコーンは要りますか?」
「はい」
「味はどうしますか?普通が好きですか?それともキャラメルがいいですか?」
「どちらも好きなのでおまかせします」と言われたので田上はキャラメル味を選んだ。
入り口で券を見せてから映画館に入る。そして席に座った。席は真ん中で、客は朝イチの初日だったためガラガラだった。映画の予告編が始まるまで軽い雑談をした。
映画が始まると二人とも黙って映画に集中した。
今回の「ブレイド」はリブート作品である。田上は昔、20年前にウェズリー・スナイプスが出ていたヴァージョンの大ファンだった。ゴア描写が満載で子供の時に見たため良いトラウマを植え付けられた。だからあまり期待していなかった。
だが、映画が始まると、思いのほかよかった。マハーシャル・アリの佇まいはカッコよく、マーベル・シネマティック・ユニバースにしてはゴアシーンも適度に入っていて観ていて十分楽しめた。映画を観ている間チラチラと見たが水川も楽しんでいる様子だった。
映画が終わり、田上が昨日ネットで調べた新大久保にある「ポッチャ」という韓国料理店へ行った。店はチーズタッカルビが有名な店らしい。
田上と水川は席に座り、チーズタッカルビを注文した。
「なんだか、太っちゃいそう」と水川。
「大丈夫ですよ。これくらい。毎日食べるわけでもないのだから」
「そうですね。今日はカロリーを気にしないで食べます」
「映画のほうはどうでしたか?」
「面白かったです」
「意外ですね。ホラーは結構好きなのですか?」
「はい、ホラーだと『イット・フォローズ』と『ヘレデタリー』が好きです」
「そうなのですね。意外です」
「田上さんはホラーが好きそうですね。何が好きなのですか?」
「色々あって選べないな。『エクソシスト』と『悪魔のいけにえ』と『ヘルレイザー』。最近のホラーだと『X』が好きです。もちろん、『ヘレデタリー』も『イット・フォローズ』も好きですよ」
「ホラーマニアなのですね」
「まあ、ホラーとSFが好きです」
「なんだか想像通りです」
「そうですか?」
すると、チーズタッカルビを店員が運んできた。
「さあ、食べましょう」
田上はチーズタッカルビを食べるのが初めてだった。口に入れた瞬間、これは流行る訳だと思った。
「これは美味しいですね。まさかこんなに美味しいとは思ってもみなかったです」
「私も最初食べた時に、美味しくて感動しました」
田上は喋ることを忘れて黙々と食べていた。
「相当ハマっているみたいですね」
「いや、これは本当に美味しい。こんな美味しい食べ物を食べてこなかったことを後悔していますよ」
「それはよかった」
チーズタッカルビを食べ終わると店を出た。
前に水川が言っていた韓国式のスイーツ、トゥンカロンが売っている店に行った。正直お腹いっぱいで、食べ切れるか自信がなかったが、デザートは別腹とはこのことだ。トゥンカロンは水色やピンクとポップな色合いをしていて、中にキャラメルクリームが入っていた。甘すぎないちょうどいい味がした。
「これも美味しいですね。水川さんはセンスがありますね」
「そんなことないですよ。どれも流行り物でしたから、流行りに乗っただけです」
「それにしても美味しい」
田上は、追加でもう一つトゥンカロンを注文したくらいだった。
新大久保で食べ終わると、時間が15時になっていた。帰るのにはまだ早すぎる。だが、これ以上することもない、と田上が思った。
「そうだ、これからお酒を飲みに行きません?近くに韓国式の居酒屋があるんですよ」
「いいですね。行きましょう」
水川に連れられて田上は韓国式の居酒屋に入った。
店内はモダンな感じがした。そこで韓国のTERRAという知らない韓国のビールを注文して飲んだ。味は日本のビールに似ていてしっかりとした味をしていてとても美味しかった。二人はフライドポテトをつまみに酒を飲んだ。途中、酒をビールからマッコリに変えて飲んだ久しぶりだった。甘酒のような味がクセになる。
水川を見ると頬が赤く変色していた。おそらく酔っているのだろう。だが、頭はしっかりしているらしく受け答えも、お酒を飲む前と変わりがなかった。
田上がタイメックスの時計を見ると18時を過ぎていた。少し早いがお開きの時間だと思った。
「じゃあ、今日はたくさん食べてお酒も飲んだから、お開きってことにしましょう」
すると、水川はうつむいて口を開いた。「そういえば田上さん。好きな人はいますか?」
「恋愛の話かい?」
「そうです」
田上は迷った。水川のことが完璧に好きになっていたからだ。それにマッチングアプリで出会ったのだから恋愛が目的だ。ここで嘘をついても仕方ない。
「いますよ」
「それって、私のことですか?」
「はい」
しばらく沈黙が続いた。告白するのには早過ぎた気がした。もう少しオブラートに包んで、言えばよかったと思った。
うつむいていた水川が顔上げてにっこりと笑顔になった。「そうなのですね。よかった。実は、田上さんに実際に会ってから、田上さんのことしか考えられなくなっていたんです」
「え、じゃあ、両思いってこと?」
「そうみたいですね」彼女は微笑みながら言った。
「じゃあ、もしよろしければ、僕と付き合ってくれますか?」
「もちろん。是非」
「ありがとう」
「そうだ。お互いに敬語はやめましょう」
「そうですね。いや、そうだね」
「田上さん。なんて呼ばれたい?」
「下の名前で」
「じゃあ、雅人って呼ぶね」
「じゃあ、俺は由香って呼ぶことにするよ」
「雅人」
「由香」
田上は天に登るかのように幸せな気分になった。
まさか、成功するとは。しかも両思いで。
「これからどうする?」と水川。
「そうだね。家に来る?汚いけど」
「うん、是非行ってみたい」
「分かった。じゃあ行こう」
店を後にして、駅へと向かった。途中で水川の方から手をつないできた。
田上はまるで15歳の少年のようにドキドキしていた。こんなに嬉しいことが起きたのは何年振りだろうか?もう、100年以上前の気がする。だが、心のどこかでまだ疑っていた。これは美人局かもしれないと。
でも、それでも良かった。水川と手をつないでいるだけで身体中に電気が走っているかのような刺激があった。
こんな体験いつ振りだろう?初恋以来だろうか?いや、初恋の時よりもワクワクしている。田上は35歳でこんな感覚を体験できるなんて自分は幸せだと思った。
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