12

 古物市場の日だ。

 不眠症はすっかり、治り頭が冴えていた。

 田上は、絶好調だった。最新型のパナソニックのスマート家電の冷蔵庫に、ルンバ、フレイムの年代物の中古市場で10万円のランプが4万円で手に入った。

「今日はすごく調子がいいですね」と武田が話しかけてきた。

「まあね。運が良かっただけさ」

「それにしてもいいですね。かなり儲かって」

「ああ、でも売れるかどうかは分からないからね。油断はできないよ」

「今日は調子がいいじゃないか」と後ろから菅が話しかけてきた。

「たまたまですよ」

「そうだろうな。たまたまだろうな」と菅。正直、今日は買い取りにうまくいったし、ミズとも密に連絡を取っているので気分がよかったので、いつものようにイライラしなかった。

「菅さんはどうだったのですか?」

「今日は運が悪い。手に入ったのはクズばかりだ」

「そうですか。そういう時もありますよ」と田上がいうと、明らかに怒った顔になった。

「田上、今日は運がいいだけだからな」と菅はその場を立ち去った。

「相変わらず嫌なオヤジですね」と武田。

「まあいいさ。今日の菅はボロボロだからな。いい気味だ」

「それにしても、あんなにボロボロに負けている菅を見たのを初めて見ましたよ」

「そうだな。きっと彼がいうように運が悪かっただろう」

「いい気味ですね」

「ああ、いい気味だ」と田上がいうと武田も一緒に笑った。

 するとiPhoneが鳴った。ミズからだ。

 ミズとはメッセージを送り合って1週間経っていた。何度か勇気を出して『会いませんか?』と送ってみようと思ったが、会うのには早すぎる気がした。もしかすると、ミズは業者かもしれないと田上は半分疑っていた。

 メッセージの内容は『そろそろ会いませんか?』だった。

 田上はビックリした。まさか、相手から会おうと言われるなんて思ってもみなかったからだ。

「なにニヤニヤしているのですか?田上さん。もしかして彼女ですか?」

「違うよ」

「じゃあ、どうしたのですか?」

「最近、マッチングアプリで知り合った子とメッセージのやり取りをしている」

「え、田上さん。マッチングアプリなんてやっていのですか?」

「悪いか?」

「いや、ただ驚いただけです」

「武田くんはマッチングアプリはやってないのか?」

「やってますよ」

「それで、どうだった?」

「何度か会いましたよ。でも、地雷が多くて」

「地雷とは?」

「プロフィール写真と全然違うんですよ。それに、可愛い子とマッチングして食事に行ってもそれっきりです。なんの御無沙汰なしですよ」

「そうなのか」

「だから、あまり期待しない方が良いですよ」

「そうだな」

 武田の言う通りだ。今の田上はミズに期待しすぎている。

 もし、写真が違っていたら?もし、出会って相手をガッカリさせてしまったら?そう思うと急に不安になってきた。

 田上はメッセージの返信を返した。「是非とも会いましょう」と。どうせ何もない。何を期待しているのだ。ただ、女性と食事をできると思えば良いだけだ。それで十分だと自分に言い聞かせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る