田上が目を覚ましたのは5時の事だった。今日は久しぶりに熟睡した。とても気持ちがよかった。

 外は少し肌寒さを感じた。汗でぐっしょりと濡れた衣服が気持ち悪く肌にまとわりついていた。

 田上はTシャツとジーンズを洗濯機に入れた。

 それからシャワーを浴びた。昨日の1日分の汗を洗い流してからユニットバスをでてから、部屋着がわりに使っているボロボロのウータン・クランのTシャツとトランクスに着替えた。

 ダイニングルームへ行き、トーストをオーブントースターに入れて3分。カリカリのトーストが出来上がった。イチゴジャムを塗りインスタントコーヒーを淹れて、皿とマグカップをリビングのローテブルに置いた。

 田上はテレビをつけた。名前も知らない俳優が大麻で捕まったとの事だった。事件は大々的に報じていたが、特に興味もなく画面を眺めながらトーストを食べて、コーヒーを飲んだ。

 田上は昨日に見た夢のことを考えた。きっと疲れていたのだろう。二人はとても幸せそうだった。そして、「そのうちに君にもわかる」と言われたことが心に引っかかった。なぜ引っかかったのかは謎だが、どうしても頭から離れなかった。

 食事を済ませると、テレビの端子にファミコンの変換ケーブルを差し込んで動作確認をした。

 昨日の仕事の続きだ。何せ、ゲームソフトは150本以上あった。それをいちいちゲームをクリアするまで全て確認するのは不可能なため、ソフトが起動するかを確認してから安く売ることにした。

 もちろん、プレミアが付いているものは動作確認が出来次第にプレミア価格で売ることにした。

 ゲームソフトの確認は大変だった。ゲーム機にソフトを入れて、起動するかを確認し、コントローラーで動くかを確認してから、次のゲームへと移っていく。かなり根気のいる作業だ。昼間を過ぎたあたりで気温が35度を超えた。あまりの暑さに扇風機では無理と感じて電気代をケチっていたが冷房を入れることにした。冷房は古く効きは決して良いものとはいえなかったが、少なくても熱中症で倒れることは防げた。

 お昼過ぎになっても、まだ20本しか動作確認ができていなかった。この分だといつ終わるか想像もつかない。

 若干うんざりしながら、ゲームの動作確認を進めていた。すると、喉が渇いて麦茶を飲もうとしたところ麦茶が切れていることに気づいた。

 コップを持ってダイニングに行き冷蔵庫から麦茶を出して、コップに注ぐ。そして、リビングに戻ってくる時に本棚に光るものが視界に入った。

 何かと思って近づくとそれは、昨日倉庫で発見した赤、青、黄色のガラスが埋め込まれた中東風のモザイク柄の箱だった。感触は表面のガラスによりツルツルしていた。

 なぜこんな場所にあるのだろう。確か、倉庫の段ボール箱に入れっぱなしだったはずだ。なぜ、しかも、本棚に置いてあるのか不気味に田上は感じた。

 おそらく、間違えてゲームソフトの入った段ボール箱に紛れ込んでいて、寝ぼけて箱を出して、本棚に置いたのだと考えた。

 田上は箱を手に取った。この箱の中に何が入っているのか気になった。試しに箱を振ってみたが中から音はしなかった。次に彼は、道具入れから針金を探し当て、針金の先端を鍵穴に突っ込んで、回してみた。何度もしつこいぐらいに回すが一向に開く気配がなかった。諦めかけたその時に、箱から「ガチャ」という音が聞こえた。すると箱が開いた。

 田上はこの中身をみた。すると中に何もなかった。そして、箱の内部に謎の象形文字のような絵柄なのか文字なのかわからないモノが細かくびっしりと掘られていた。

思わず田上は背筋にゾッとするものを感じた。

「この箱は一体、何だ?」と独り言った。

 だが、なぜだか田上はこの箱に興味が湧いてきた。なぜなのか分からない。とても魅力的に感じた。

 この、ガラスが埋め込まれた箱が美しいと感じたのかもしれない。

 少なくても商品としては、こんな謎の呪文が掘り込まれた箱など出品できない。それに、価値がわからない。

 もしかすると、お宝物の可能性も捨てきれない。だが、出品するのをやめる事にした。佐藤と木本の形見として取っておく事にした。


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