第二十話:魔王様とユーリィ
「がはっ!?」
「うぉおおおおおおぉぉぉぉ、魔王っ!!」
勇者の剣が魔王の胸を貫いた。
そして勇者はそのまま魔王の胸に更にその聖剣を深く突き刺す。
すぼっ!
その剣先は魔王の背中を貫き、完全に魔王の胸を貫通させる。
「ロラ……ゼム……?」
シーラはまるで抱き合うかのように魔王の胸に飛び込んで聖剣を突き刺すロラゼムを見上げる。
しかし魔王の視線は勇者ではなくシーラに向けられていた。
「ぐふぅっ! なんで、てめぇがここに居るんだ……」
「ユ、ユーリィを、ユーリィを返して!!」
「はぁ? あいつは俺の小姓だ、あいつと契約して、てめぇを逃がし、魔族はてめぇに一切手出しをさせねぇってユーリィと約束したんだ…… ぐふっ!」
ごぼっ!
ぶはっ!!
魔王はシーラにそう言いながら口から血を吐く。
勇者ロラゼムは聖剣を魔王の胸から引き抜くと、魔王は膝から地面に落ちる。
「ちっ、まさか……てえぇがこんな所にいる……とはな…… あいつとの約束だ、てめぇは殺さねぇ。しかし俺様もドジを踏んじまったな……」
ばたっ!
そう言って魔王はその場で仰向けに倒れる。
「くそう、ここまでか…… おい勇者……お前の勝ち……だ…… 俺様の……首を……獲れ……」
「……何故シーラを殺さなかったんだ?」
「くっくっくっくっ、あいつと……ユーリィと……約束したからな…… 魔族は約束をたがえねぇ……だからそこのメスは……俺様がぜってぇ殺させねぇ…… ぐふっ!」
勇者の質問にそう答える魔王だったが、聖剣の傷は魔族には直せない。
魔族にとって聖剣の傷はいくら膨大な魔力をもってしても、治癒できなくなるのだ。
上位の魔族が下位の魔族を復活させることは出来るが、魔族の頂点たる魔王を復活させるにも癒すにも、それには他の魔王の魔力を明け渡すしか手が無い。
勇者ロラゼムは聖剣を魔王に向ける。
そして大きく振りかぶってその聖剣を振り下ろそうとした時だった
「ザルバード!!」
「くっ!!」
勇者ロラゼムは振り上げた聖剣で飛んで来た魔光弾を切り裂く。
そして魔光弾の飛んできた方向を見ると、少年のような魔族が立っていた。
「くそぅっ! 貴様、よくも僕のザルバードを!! 死ねぇっ!!」
それは南の魔王アファネスだった。
アファネスは魔力を放出して大きな魔光弾を作り上げる。
それは彼の最大出力の魔光弾。
人が数人すっぽりと入るほど大きなそれをアファネスは放つ。
「まずい! シーラっ!!」
勇者ロラゼムはシーラを抱えてその場から飛び退こうとしたが、それよりも先にシーラの周りに防御結界が張られる。
「なんだとっ!? くわぁっ!!」
その防御結界によりロラゼムはシーラに手が届かずアファネスが放った渾身の魔光弾を受ける。
聖剣で魔光弾を切りつけるが、流石に魔王の渾身の一撃、切り裂く事も出来ずに聖剣で魔光弾を押さえるのが精いっぱいだった。
そしてそのまま勇者は押しやられて向こうの城壁まで吹き飛ばされる。
どっが~んっ!
「ザルバード!! なんでそんな人間のメスなんかかばうんだ! くそっ!!」
アファネスはザルバードの元へ飛んで来て、彼を抱えて逃げ出す。
そんなザルバードをシーラは見ていたが、ザルバードが去り際にシーラにぎりぎり聞こえる声で言う。
「約束は……守った。ユーリィは……俺のだ…… 誰にも……渡さねぇ……」
「なっ!?」
それを聞いたシーラは飛び去る魔王たちを睨みつける。
しかしアファネスに抱えられたザルバードたちは直ぐにその姿が見えなくなるほど遠くへと消え去ってゆくのだった。
* * *
「魔王様!!」
東の魔王の陣営に戻ったアファネスとザルバードだったが、どんなに治癒魔法をかけようが、傷口を押さえようが流れ出る血は止められない。
四天王もセバスジャンも可能な限りの手を尽くすも、ザルバードの顔色はどんどん悪くなってゆく。
「ちくしょう! 勇者めっ!!」
アファネスもその場にいたが、アファネスの魔法でも同じ魔王である限りザルバードを復活させることは出来ない。
上位魔族同士では復活させる事は出来ないからだ。
アファネスはザルバードの耳元に行き叫ぶように言う。
「ザルバード、僕と子供を作れ! 始祖レナ・ドの血筋と魔力をここで終わりにすることは出来ない!! ザルバードの代わりに新たな魔王を、東の魔王を僕と生み出すんだ!!」
それはアファネスとしては自国領に新たな強い魔王を生み出す事を断念する事ではあった。
しかし、もしここでザルバードが死んで東の魔王としての魔力が消え去ればそれは魔王全体の損失になる。
だから自分の魔力を分け与えてでも今ここでザルバードと交わり、新たな魔王を誕生させる必要がある。
「くっくっくっくっ、冗談じゃ…… ねぇ…… 誰がお前となんか…… まじ……わるかよ……がはっ!」
「魔王様っ!!」
更に吐血するザルバードに四天王含む周りの者も慌てる。
しかしザルバードはそれでもアファネスを拒絶する。
アファネスはそれを聞いて絶句するが、慌てて声を荒げる。
「僕の領地でなくていいんだぞ! ザルバードの領地の魔王にしてくれていいんだ!! ザルバード、お前はもう助からない。でも次代の魔王の為には僕とお前の魔力で更なる強い魔王を生み出さなければ勇者は倒せないんだ!!」
そのアファネスの言葉にそれでもザルバードは口元をニヤリとして言う。
「お断りだ…… 俺は誰の…… モノでもねぇ…… 俺は俺だ……」
「ザルバードっ!!」
アファネスがそう叫ぶもザルバードは一向に同意をする様子が無い。
「魔王様……」
そんなザルバードを涙を流しながら見守っているカイト。
そしてその隣には同じくユーリィもいた。
「カイトと……ユーリィか…… へへへ、ドジ踏ん……じまった…… だが、ユー……リィとの……約束……は守った…… あのメスは……元気だ……ったぜ……」
「1?」
それを聞いたユーリィは思わず魔王を見る。
その瞳には驚きの色と同時に光るものが流れ出していた。
「シ、シーラがいたんだね……」
「ああ……」
ユーリィは魔王のもとまで行く。
すると魔王は苦笑しながら言う。
「へへへへ、約束は…… 守った…… だから…… お前は俺の……モノだ……」
しかしそれを聞いたアファネスが叫ぶように言う。
「バカじゃないか!? こんな人間一人の為にザルバードが死ぬなんて! あんなメスを守った為に、君が犠牲になるなんてっ!!」
怒りのままユーリィの胸ぐらを掴む。
「お前がいなければ! お前なんかにザルバードを取られなければ!! ザルバードが死ぬことも無かったんだぞ!!」
アファネスは涙を流すユーリィを睨みながら掴んだ胸ぐらを離す。
「ザルバードは!!」
「やめろ、アファネス…… そいつは……俺のモンだ……」
しかしザルバードのそれにアファネスはそれ以上何も言わずに黙り込む。
ユーリィは胸ぐらを離されよろよろとするが、魔王のその言葉に顔を向ける。
そしてユーリィはもう視線の定まらなくなったザルバードの唇に自らの唇を重ねるのだった。
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