第41話 真夜中の恋文



 夕食を済ませると、俺はさっそく仕事にとりかかった。


 ……毎朝、涙で枕を濡らして目が覚めます。貴方のいらっしゃらない床は、凍えるほど寒く冷たい。


 ……お会いしたいのです。清浄な褥の上で、誰にも邪魔されることなく、二人きりで。


 ……私は、貴方にふさわしい衣装を身に付けますわ。それは透明で、目に見えない生地でできておりますの。


 ……抱き合って、恋を語りたい。せめて夢で出会いたい。いいえ、そんなのいや。本物の貴方がいい。


 ……熱いこの肌に触れたら、きっと私の想いの強さが伝わることでしょう。


 ……貴方がつけた火は、貴方が消さなくてはなりません。だって、他のお方にはどうすることもできないのですから。


 ……私が燃え尽きてしまう前に。どうか。


 ……お願いだから私を忘れないで。あなたの愛がなければ、私は生きていくことができません。


 ……あなたが好きです。大好きです、ヴァーツ、



 「うわっ!」


 俺は、手紙を引き裂いた。

 なんてことだ。最初から書き直しだ。



 手紙は、類似のものを何通かお渡しした。いずれも末尾に俺の署名入りだ。

 香を焚き閉めたり花を添えたり、紙やインクの質にもこだわった。

 我ながら畢生の出来だったと思う。



 「手紙はもう、要りません」


 何度かの訪問の後、おつきの少女が言った。夫さんとの関係修復、うまくいかなかったのだろうか。残念。いい稼ぎだったのにな。


「奥様からです」


 少女が手渡した手紙は、お茶会の招待状だった。

 指定されている場所は、王城の離宮。ここは一般公開されていて、一般人でも、会食や式典などに利用することができる。


「や、俺、お茶会とか苦手で」


 人前に出るのは嫌いだ。まして貴族のお茶会となると、気疲れするのは必至だ。

 少女は動じなかった。


「お断りになることは許されません」


 許されません? 許されないって……。

 驚いている俺に、彼女は言い渡した。


「必ずいらっしゃいますよう」


 そして、お茶会の日時と場所を告げた。

 お茶会は王城の離宮で行われるという。そういえばあそこは、一般公開もされている。







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