第41話 真夜中の恋文
夕食を済ませると、俺はさっそく仕事にとりかかった。
……毎朝、涙で枕を濡らして目が覚めます。貴方のいらっしゃらない床は、凍えるほど寒く冷たい。
……お会いしたいのです。清浄な褥の上で、誰にも邪魔されることなく、二人きりで。
……私は、貴方にふさわしい衣装を身に付けますわ。それは透明で、目に見えない生地でできておりますの。
……抱き合って、恋を語りたい。せめて夢で出会いたい。いいえ、そんなのいや。本物の貴方がいい。
……熱いこの肌に触れたら、きっと私の想いの強さが伝わることでしょう。
……貴方がつけた火は、貴方が消さなくてはなりません。だって、他のお方にはどうすることもできないのですから。
……私が燃え尽きてしまう前に。どうか。
……お願いだから私を忘れないで。あなたの愛がなければ、私は生きていくことができません。
……あなたが好きです。大好きです、ヴァーツ、
「うわっ!」
俺は、手紙を引き裂いた。
なんてことだ。最初から書き直しだ。
◇
手紙は、類似のものを何通かお渡しした。いずれも末尾に俺の署名入りだ。
香を焚き閉めたり花を添えたり、紙やインクの質にもこだわった。
我ながら畢生の出来だったと思う。
◇
「手紙はもう、要りません」
何度かの訪問の後、おつきの少女が言った。夫さんとの関係修復、うまくいかなかったのだろうか。残念。いい稼ぎだったのにな。
「奥様からです」
少女が手渡した手紙は、お茶会の招待状だった。
指定されている場所は、王城の離宮。ここは一般公開されていて、一般人でも、会食や式典などに利用することができる。
「や、俺、お茶会とか苦手で」
人前に出るのは嫌いだ。まして貴族のお茶会となると、気疲れするのは必至だ。
少女は動じなかった。
「お断りになることは許されません」
許されません? 許されないって……。
驚いている俺に、彼女は言い渡した。
「必ずいらっしゃいますよう」
そして、お茶会の日時と場所を告げた。
お茶会は王城の離宮で行われるという。そういえばあそこは、一般公開もされている。
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