第38話

 検問所の門は、怪獣の侵入を防ぐためか大きく高かった。

 門扉の先端は、いちばん背の高い乙部さんが飛び上がっても届かないほどだ。


 門の横には小さな―怪獣に言わせれば小人の家のような建物があり、そこに検問する職員がいるらしかった。


「じゃ、行ってくる」

 大樹が前へ出た。

「けいれーい!」

 晃さんが号令を出し、みんな一斉に姿勢を正す。


 ドスドスと、大樹は検問所に向かって行った。すでに、検問所からは注意喚起の警報が鳴り始めている。


 ファン、ファン、ファン。

 警報は徐々に大きくなった。小さな建物の中が騒然とし始めたのが、ここからでもわかる。


「大丈夫ですかね」

 雄太が不安げにかけるに声をかけた。

 むーと唸った翔も緊張している。


 けたたましく鳴る警報の中、一人の人間が建物から出てきた。

 武装しているが、銃は構えていない。


 大樹が話し始めた。

 声がはっきり聞こえるわけではないが、おだやかな様子だ。

 建物の中から、別の人間たちも数人集まってきた。

 何やら、ワイワイ言っている。


 大樹が振り返って、仲間を示した。

 乙部さんが、決めてあったのか、鉄骨を掲げる。


「いいぞー!」

 大樹の叫び声に、みんなで動き出した。

 

 ギィーッと音を立てて、検問所の門扉が開いた。

 晃さんを先頭に通り抜ける。

 ドキドキした。

 ほんとうの目的が頭をかすめる。


 顔に出ないように、無理矢理笑顔を作った。みんなも同じ考えなのか、一体残らず笑っている。

 牙が出ているから笑っているのだが、人間たちにはどう見えるだろう。


 検問所を通り抜けると、広場に誘導された。どうやら、何か検査を受けるようだ。


 広場は建物の横にある林の裏だった。人間なら、サッカーでもできそうな広さだ。


「順番に並んでくれと言ってる」

 先に広場に入った大樹が伝えてきた。

「並んで、何すんだ?」

と、乙部さん。

「血を取るらしい」


「えー? き、聞いてないよ!」

 思わず元太郎は叫んでしまった。

 血を取るということは、注射をするってことだ。

 元太郎、何が苦手って、注射が大嫌いなのだ。


「なんだよ、それぐらいのことで。おまえ、ガキか?」

 翔が笑った。

 笑われても仕方ない。元太郎の顔色は、いっぺんに青くなってしまった。

 そのとき、広場の端のほうから、医療関係と思われる白い車が、チョロチョロと走ってきた。


 車は、怪獣たちの並ぶ列の脇に急停車した。と思うと、中から白衣を着た人間が数人、緊迫した雰囲気で降りてきた。 何やら箱らしきものを下げている。


 白衣の人間たちは、先頭にいた大樹の前で店を広げた。箱から、医療関係の道具を出し、全員一斉にマスクをつける。


「前の方から順に始めます」

 白衣の一人、医師らしき男が叫んだ。

 看護師だろう。かわいらしい女性たちが、医師のまわりで甲斐甲斐しく動く。

 

 人間たちの道具は、なんだって高性能だ。

 特別に痛い注射だったらどうしよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る