第37話

 待ち合わせ場所に指定されたのは、ホームセンター、トインズの駐車場だった。


 駐車された車の向こう、ガーデン用品のレンガがが雨ざらしになって積まれている先に、数体の怪獣たちが見えた。

 大樹たちだ。


「遅いぞー!」

 威勢のいい大樹の声に、元太郎は走った。なんだか少しだけ、気分が上がる。中学の頃、初めて部活の合宿に行ったときみたいだ。


「全員揃ったな」

 大樹がいかめしく、言う。

「点呼!」

 叫んだのは、晃さんだった。 


「1!、2!」

 順に番号を叫び、隊列を組む。


「8!」

 元太郎も叫んで、列の最後につく。

「始め!」

 晃さんの掛け声で、全員が動き出した。


「な、なんだ?」

 事前に知らされていなかったのは、元太郎だけらしい。

 みんなが向かったのは、雨ざらしレンガの横だった。

 板状の長い鉄骨が数本積まれている。よく見ると、鉄骨の長さにはばらつきがある。


 そうか。あれが橋になるのか。


「おい、これがお前の分だ」

 大樹が鉄骨を三本寄越した。抱えられないことはない。怪獣平均身長の二倍くらいの長さだ。

 それぞれ、鉄骨を担いだ。十数本になる。


 ただ、雄太だけが、

「俺はこれっすね」

と、元太郎分の鉄骨の脇にある袋を持ち上げた。


 なんだよ、デカいんだから、長いのを持てよ。


 口に出したわけじゃないのに、雄太ににらまれた。

「持ってみ」

と言う。

 持ち上げて、腰を抜かしそうになった。

 山でも入ってんのか?


「何が入ってんだよ!」

 ドスッと袋を下ろし叫んだ。

「ボルト」

 納得した。鉄骨と鉄骨。ボルトでつながなきゃ橋の体をなさないだろう。


「やっ」

 雄太が袋を持ち上げたと同時に、

「しゅっぱーつ!」

と、大樹が叫んだ。

 皆が動き出した。

 ドス、ドス、ドス。

 怪獣の隊列は、なかなか迫力がある。


 真っすぐに伸びるT16を、検問所に向けて行進した。


 道々、様々な声がかかった。

「あれ? 乙部さんじゃないか」

 トインズを出て数分で、トインズの常連客らしきじいさん怪獣が、乙部さんを呼ぶ。

「配達か?」

 ホームセンターの従業員が鉄骨を運んでいたら、誰だってそう思う。

「ご苦労さん」

 じいさんが手を振り、乙部さんは誇らしげに頷いた。


「おーい、大樹!」

 これも仕事からみの知り合いのようだ。

「そんなもん持って、どこ行くんだよぉ」

 大樹は営業用って感じの笑顔を返し、

「またよろしくお願いします」

と笑顔で応えた。


 ほかにも、学習塾キメラの生徒たちが、希衣斗先生に向けてわいわい騒いだり、八百屋の客たちがかけるに声をかけたり。


 そのたび行進は若干遅くなった。


 いつになったら検問所に着くことやら。


 そう思ったとき、前方に検問所にはためく旗が見えてきた。

 


 

 


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