第34話

「T16は、怪獣の町ではこう呼ばれているが、人間の町に入ると名前が変わる」

 晃さんの説明に、全員が聞き入る。


「ファイアー通りだ」

 

 そして晃さんは、胸のポケットからスマホを取り出し、画面を開いた。

「ファイアー通りと呼ばれている理由は、これ」

 示された画面には、消防署がある。

「消防署があるからファイアー通りってわけだな」

 乙部さんが付け加えた。


「検問所からはどれぐらいの距離なんだろう」

 希衣斗きいと先生が訊く。

「ほぼ百メートル」

「すぐだ」

 だから何だっていうんだろう。

 すると、希衣斗先生が、胸の前で腕を組み、うーんと唸った。


「何か問題でもあるんですか」

 大樹が不思議がった。

「大ありだよ」

と、晃さん。


「検問所からすぐのところに消防署があるってことは、俺たちが検問所を壊して火でも出た日には、すぐさま消防車がやって来るってことだ。ね、そうでしょ、希衣斗先生」

「ああ。人間の検問所なんか潰すのは簡単だが、建物を壊したら火の手が上がるのは必須だ。そうなると、消防署からやって来た消防車が鎮火しようと努める。そのとき、火事が怪獣の仕業とわかれば、消防隊員たちは武器を持ち出してくるだろう」


「武器? 消防署に武器なんか用意してますかね」

 大樹が首を傾げた。

「警察ならいざ知らず、人間の町では消防署にも武器が備えられてるんですか?」


「おそらく」

 希衣斗先生が、重々しく続けた。


「表立って装備しているということはないが、以前、ひと通りの武器は置いてあるという噂を聞いた憶えがある。たしか、怪獣の町との境に近い署だけだったが」


「ということは――、検問所を強行突破すると、消防署との戦いになってしまう」

 かけるが呟き、みんなで顔を見合わせた。


「消防署が備えている武器といっても馬鹿にできない。おそらく最新の兵器を使ってくるはずだ。もちろん、銃弾を浴びたくらいではなんともないが、弾を避けようとして暴れまわると無辜むこの者たちを犠牲にすることになる」

 鎮痛な表情で言った希衣斗先生に、全員が同意し、そして頭を抱えた。


「じゃあ、どうすれば」

 翔がみんなの顔を順に見、怜王れおが、

「この際、仕方ないんじゃないですか。多少の犠牲は」

と、目を剥いた。

 おとなしそうな外見のくせに、一旦思い込むと無茶をするタイプかもしれない。


「そうだよなあ」

 大樹が怜王に賛成した。

「怪獣がすんなりと検問所を通れるはずがないからなあ。それなりの理由があって、人間たちを納得させないと、とても八体が町に入れるとは思えないよ」

 

 思わず元太郎は、声を上げた。

「だからって、消防署の署員たちとやり合って、たくさんの犠牲を出して、それでゴルフ場を目指すっていうの? 俺は、反対」

「だって仕方ないじゃないか」

 にらみ返してきた大樹は、

「おまえ、腰が引けてるぞ」

と、口元に笑いを浮かべる。

 

 ムッときた。

 いくら争い事が苦手な恵比寿怪獣とはいえ、侮辱されては黙っていられない。

 

 言い返そうとしたとき、晃さんが、

「まあまあ」

と、二人の間に入った。


「ちょっと案があってさ」

「案?」

 大樹がわずかに下がる。


「ああ。みんなの意見を聞きたいんだが」

 そして晃さんは、乙部さんに顔を向けた。

「いいかな?」

 すると、乙部さんが頷く。

 何やら二体の間で計画をしているようだ。

 

 


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