第33話

「ここぉ?」


 元太郎は思わず叫んでしまった。


 だって、ここ、ゴルフ場って書いてある。


「怪獣の町をねらっている宗教団体の幹部がよくプレイする場所だ」

 重々しい声で晃さんは続けたが、やっぱり、わからない。


「なんで? なんでゴルフ場なんです? 幹部を狙うなら、もっとふさわしい場所があるんじゃ」


 全く、これじゃ話が違う。

 香里奈を取り戻すために、暴力に訴えるのは仕方ないと思っていた。といって、恵比寿怪獣である自分一人じゃ心許こころもとなく、大樹の誘いに乗ってしまった。

 だが、だなどと言い、隊を組んで敵に向かって行くからには、ちょっとカッコイイものを想像していた。


 だというのに、ゴルフ場?


「バカ!」

 乙部さんの怒鳴り声が響いた。


「何がバカです。ゴルフ場なんかに乗り込んでくなんて、ちゃんちゃらおかしいですよ」

「だから、バカだってんだ、おまえは!」

 日頃は年配者に楯突くことのない元太郎だが、今日ばかりは引き下がれなかった。


 気持ちが沸騰してきて、一歩前に出る。

 

 と、晃さんに肩を掴まれた。

「なあ、元太郎。俺たちが人間の町の、たとえばオフィス街なんかを襲撃したらどうなる?」


「どうなるって……」


 そんなこと、火を見るより明らかだ。

 通りを歩く人間たちは恐怖におののいて逃げ回るだろう。踏み潰される者もいるかもしれない。

 建物は――人間たちの建てたビルなんか、ひと払いだ。あっという間に倒せるだろう。


「人間たちは大勢やられちゃうよな」

 仕方ない。

 だって、戦争なんだろ?


「そこでだ、元太郎。ゴルフ場にまず居そうにない人間って、どんなやつだ?」

「は?」

 何が言いたいんだ?


「子どもだよ、子ども。ゴルフ場にはまず子どもがいないんだ」

 言われてみれば、そうかもしれないが。


「人間とはいえ、子どもを巻き込みたくないと?」

 晃さんが、深く頷く。


「でも――」

 だって、戦争なんだろ?


 すると、希依斗きいと先生が声を上げた。


「我々は無辜むこの人々を巻き込むことを良しとしない!」

 さすがは、塾の先生だ。敵とはいえ、普段かわいがっている幼い怪獣たちを思い起こせば当然かもしれない。


「いいな? 元太郎」

 大樹が念を押した。

 そういえば、大樹には育ち盛りの子どもがいる。


「わ、わかったよ」

 元太郎だって、人間であれば誰でもやっつければいいと思ってるわけじゃない。


 いや、やっつけなくたっていいのだ。香里奈さえ戻ってくれれば。


「では、再度、この地図を見て欲しい」

 晃さんが、ゴルフ場の上に鱗で覆われた指を置いた。晃さんは、鯛が変形したような外見だ。


「怪獣の町からこのゴルフ場へ行くには、T16を通らなきゃならない」

「検問所がありますが」

と、大樹のところの従業員、玲王れおが言う。


「検問所は通れない」

 晃さんが、答えた。

 そりゃそうだ。

 怪獣が人間の町に入るには、特別な許可がいる。


「じゃ、どうするんです?」

 今度はかけるが訊いた。


「強硬突破?」

 そう言った大樹の目が輝いたのを、元太郎は見逃さなかった。

 さっき、無駄な戦いはしないって言ったばかりじゃないか。


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