第31話

 隊員2と呼ばれて、返事をしたのは、雄太の隣にいた、まんまイグアナの怪獣だった。


「八百屋、富吉、富吉翔とみよしかける、野蛮怪獣」


 あれ? こいつ、確か。


 一学年上だったから、詳しいことは知らないが、家出騒ぎを起こしたやつじゃないか?


 そう。確か中学校のときだ。

 同じクラスの女の子と家出したんだ。

 二人して行方がわからなくなって、学校中が大騒ぎになった。


 結局、三日後に、どこかの島へ渡ろうとしてフェリーに乗り込もうとしているところを補導されたんじゃ。


 女の子はおとなしい子だった。男のほうが騙して連れ出したと言われていたけど。


 ほんとはどうだったのかな。


 家出騒ぎが起きたあと、かけるは親戚の家に預けられ、女の子はそのまま、この町の高校へ行ったけど。


 一度、元太郎は、女の子のほうを、明らかにいかがわしい店から出てくるのを見た憶えがある。大人の、やさぐれた野蛮怪獣と一緒だった。

 ま、女の子のほうも野蛮怪獣だったけど。


「隊員3!」


 そう言った大樹の声は、いままでとちょっと色合いが違った。


 なんというか。襟を正したみたいな。


「学習塾キメラ、所長、藤原李衣斗ふじわらきいと。神経怪獣」


 わ、やば。


 反射的に、元太郎は顔を伏せた。

 学習塾キメラに、高校生の三年間通っていたのだ。

 といっても、サボってばかりだった。あの頃、もっと真面目にやっていれば、その後の人生が変わったかもしれないと、いまでもちょっと後悔している。


 特に、数学。


 藤原季衣斗は、当時大学生で、アルバイトで講師をしていた。

 元太郎も、何度も授業を受けた。静かな口調の、大学生にしては老成したような講師だったが、指導は熱心だった。


 そうか。

 所長になったのか。


 隊員4は、初めて見る顔だった。

 大樹がやっている不動産屋の従業員で、二十四歳という最年少の、小杉玲王こすぎれお。名前に王がついてるわりには、おどおどしているように見える。

 5は、晃さん。6は、乙部さん。

 そして、7が元太郎というわけらしい。


 元太郎の番になったとき、大樹が余計なことを言い出した。


「抱負を述べろよ」

「え、なんで俺だけ?」

「おまえだけ初顔合わせだからだよ」 

「抱負なんて――」

「ないのか?」

「だって……」


 ツツッと大樹が寄ってきて、耳元でささやいた。


「なんか言えよ、威勢のいいことをさ」

「何を言えばいいんだよ」

「どういう得意技があるとか」

「そんなもん、ないよ」

「なんか――あるだろ! 兵士なんだからさ!」


 勝手に兵士にしたくせに。


 文句を言いたいところだが、こちらとしても目的がある。


 だが、得意技なんてない。何せ恵比寿怪獣なんだし。


 と、大樹がパンと手を叩いた。


「思い出したよ、おまえの得意技」


 そして大樹は、みんなに向き直った。


「こいつはこんなんですが、凄まじい体験をしているんだ」

 はあ?と、元太郎は大樹を見た。

「みんなも忘れてはいない、この間の銃撃事件。あれを戦い抜いたのが、こいつ。人間の放った弾をこいつはうまく避けられるんだ」


 ま、待て。

 戦い抜いたてなんかいない。


「あのときの経験をちょっとしゃべってくれよ」


 ふたたび大樹にささやかれ、元太郎は呆然としたが、ふと、思いついた。






 



 



 

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