第30話
果里奈を助けるために人間の町に繰り出すなら、一人よりも仲間がいたほうがいいのかもしれない。
そんな計算が働いていなかったと言えば噓になる。
大樹や晃さんが、怪獣の町の商店街を乗っ取ろうとしている本部をぶっ潰すといったって、そう、戦争だなんていったって、言葉通りのわけがない。
と、高をくくっていた。
翌日の十一時、父親に店をまかせて、元太郎はホームセンター・トインズに向かった。
父親には友人の親が亡くなったから葬式に行ってくると言って出てきた。まるで学校をサボる高校生みたいな言い訳だが、そうとでも言わなくては細かい詮索をしてくるのが、あの父親だ。
「そりゃ、行ってやれ」
神妙な顔つきで言われたときは、ちょっと良心が咎めたが、
「葬式に行くなら喪服を着ていけ」
と言われて、喪服なんか持っていなかったから、父親の喪服を着せられたときは、葬式と嘘をついたことをほんとうに後悔した。
トインズに着くと、大きな駐車場には車がほんの数台しかなかった。
おかしいな。
いつもは駐車スペースを探さなくてはならないほど盛況なのに。
そう思ったとき、店の入口に、
「本日定休日」
と看板が出ているのに気付いた。
そっか。
定休日だから倉庫を借りられるのか。
ちょっと、安心した。
葬式に行っているはずがホームセンターにいたと誰かに見られたら、父親にくどくど説教されてしまう。小さな町なのだ。
倉庫は、当然ながら店の裏側にある。ガーデン用品の隣だ。
車を止めてぐるりと回ると、売り物のオリーブの木の向こうから、
「整列!」
と、大きな声が響いてきた。
嫌な予感がする。
「お、元太郎、来たか!」
振り返って、声を上げたのは大樹だ。
倉庫の入口は開け放たれていて、ビルみたいに積み上げられた在庫の棚が見えた。そんな棚がずらりと並んでいる。
近づいていくと、通路の一つに、数体の怪獣がいた。
怪獣たちは、なぜか、こちらに背を向けて並んでいる。
「ども」
と頭を下げたものの、メンバーを見た瞬間に、回れ右をしたくなった。
晃さん、乙部さん以外、野蛮怪獣ばかりじゃないか。
「なんだよ、おまえ、そのカッコは」
大樹に呆れられる。
「事情があってさ」
どの怪獣も迷彩服を着ている。
「何、やってんの?」
元太郎は訊いた。
「訓練だよ」
そして、大樹は、
「いや、訓練じゃない。こんなのを訓練だと思われちゃ困る。規律が大切だって話をしていたところだ」
と、胸を張る。
はあ、とも、ふう、とも言えないで、元太郎は立ちすくんだ。と、大樹に、
「おまえはいちばん後ろ」
さらりと、怪獣たちの列に並ばされてしまった。
「右向けー、右!」
大樹の号令に、いっせいに怪獣たちは体の向きを変えた。
な、なんなんだよ。
そう思いながらも、元太郎の身体も従ってしまう。
「それでは、全員揃ったところで、隊員を紹介する」
大樹がそう言ったとき、隣の怪獣が、両手を後ろで組んでいるのに気づき、元太郎も反射的に腕を回した。まるで、小学校のときの体育の授業みたいだと思う。
ピーッ。
突然笛が鳴らされて、元太郎は飛び上がるほど驚いた。
な、なんだ?
その合図とともに、全員が動いて円陣を組んだ。
「隊員1!」
大樹が叫ぶと、
「はい!」
と、元太郎のちょうど真向いにいた怪獣が返事をした。
「蕎麦屋、モスラの芝原雄太、野蛮怪獣」
蕎麦屋モスラの一人息子だった。
こいつ、こんなにデカくなったのか。
雄太はたしか、高校のとき、大樹と同じサッカー部だった。運動神経はいいが、小柄で線の細いタイプだったのに、しばらく見ないうちに貫録ある体型になっている。
蕎麦屋を継ぐのを嫌がって、別の仕事に就いたと噂で聞いた憶えがあるが、やっぱり家業を継いだのだろうか。
あそこのおばさん、雄太を猫かわいがりしてたっけな。
――ああいうのを過干渉っていうのよ。
母親がよく言っていたっけ。
「隊員2!」
大樹の叫び声に、元太郎は思い出から現実に引き戻された。
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