第28話

「おまえ、信じてないな、俺の話」

 大樹は目を剥く。

「俺が黙って見ているだけの怪獣じゃないってわかってるよな?」


 迫ってきた大樹は、元太郎の肩に手を置いた。

「ど、どういうことだよ?」

「先手を打ってやろうと思ってる」


「先手?」

「そうだ。あいつらの本拠地を潰してやろうとってわけだ」

「ほ、本拠地って――どこにあるかわかってるのか?」

 嫌な予感がする。

 大樹は深く頷いた。


「どこ?」

「人間の町だよ」

 ぎょっとして、元太郎は息をのんだ。

「人間の町を襲うっていうのかよ」

「そうだ。これは戦争なんだ」


「せ、戦争?」

 ちょっと話が大きくなりすぎてないか?

 小さな商店街の問題だろ?


「商店街の乗っ取りは、事の始まりに過ぎないんだよ。俺たちが調べたところによるとな、ほかにも被害に遭ってる商店街があるんだ。ということはだぞ、ひたひたと水が染みてくみたいに商店街が人間によって浸食されてってるってことだ。ということはだぞ、やがて、怪獣の町全体が人間に乗っ取られるってことだ。これを阻止しないでどうする」

 ぎゆっと肩を掴まれて、元太郎は言葉が出て来ない。


「阻止するためにはな、元を潰す」

「元って――」

「だから、買い手たちを送り込んでる人間の町の本部をぶっ潰すんだよ」

「そんなこと」

「できないと思うか?」

 大樹の目が、輝く。


「おまえ、忘れてないか? 俺たちは怪獣なんだぞ。あんなちっぽけな人間たちなんか、ひと踏みすれば終わりだ」

 そうだろうか。

 それなら、なぜ、前の戦争のとき、怪獣は負けたのだ? 学校で習った。怪獣は人間と戦い酷い負け方をして、この小さな町に押し込められたと。


 人間は小さい。それは確かだ。だが、持っている兵器も戦略も到底かなわない。だから、あの戦争以来怪獣たちは二度と歯向かわないと誓い、いままでおとなしくこの町に暮らしてきたのだ。

 

 大体、そんな戦争を起こして、怪獣の町のお偉いさんたちが黙っているだろうか。


「特別なルートがあってな」

 大樹は元太郎の考えを見透かしたかのように、続けた。

「この町のトップの中に、俺たちの戦争を支持してくれるグループがあるんだよ」

「え?」

「名前は言えないけどな。段取りはそいつらがつけてくれる」

「だ、段取りって、ほんとに――」


「そこでな」

 大樹は頬を緩めた。

「おまえにも手伝って欲しい」

「ええぇ?」

「そんなに驚くことかよ」

「だって」

「おまえもこの商店街を守りたいだろ? 怪獣の町を守りたいだろ?」

 頷くしかない。それはそうなんだから。

「だろ? だろ? だったらさ、おまえもいっしょに戦おうぜ」


 元太郎はげんなりした。昔から喧嘩好きの大樹だ。人間の町を襲うことを、喧嘩の一つぐらいにしか考えていないのかもしれない。


 やだ、やだ。だから野蛮怪獣は嫌なんだよ。


「いまのところな、七体は集まってる」

 大樹は自慢気に顎を上げた。

「七体? たった七体なのかよ」

 ふざけるのもいい加減にして欲しい。人間たちの高性能な武器を前に、たった七体でどうやって戦うっていうんだ。

「七体もいれば十分。で、おまえが入って八体になる」


「お、俺は――」

「おい、元太郎! 俺が誘ってやってるんだぞ! 大体な、志願者はもっといたんだ。その中から俺が厳選して――」

 

 そのとき、道の先で、ドタバタと音をさせながら誰かがやって来た。

「よ、晃さん」

 大樹が手を振り、横顔で言った。

「晃さんも兵の一人だ」

 厳選したって言ったじゃないか。

 元太郎は逃げ出したくなった。


 


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