第27話
夜の公園に一人、いや、一体……。
様にならないな。
元太郎は呟いて、ブランコをキーコと揺らした。
家を飛び出してあてもなく歩き、結局近所の公園で悶々としている。
手の中の小さなスマホを見つめた。画面に触れると果里奈の着信番号が浮かび上がる。
だが、何の役にも立たなかった。かけることはできたが、呼び出し音のすぐあとに、現在使われておりませんという機械的な声が響くばかりだ。
「どうすりゃいいんだよ」
思わず声が出てしまった。真っ暗なこんな時間の公園には誰もいない。
と思い込んでいたのが間違いだった。
ブランコの横のこんもりした茂みの中から、怪獣が顔を覗かせたのだ。
「おぼっちゃん、お悩みの最中ですか」
ふざけた声音がしたと思うと、そいつは立ち上がった。
「た、大樹」
バーバー・ゴジラから二軒にある不動産屋の大樹だった。
「何してんだよ、こんな時間に」
独り言を聞かれた恥ずかしさで、意味もなく怒鳴る。
「何って、犬の散歩だよ」
と、手から伸びるリールを引っ張った。小さいが獰猛そうな犬がワンワンと吠えながら近づいてきた。
人間の町でな大きいほうの部類だろうが、ここではかわいらしいもんだ。
「おまえこそ何やってんだよ」
言いながら、大樹はニヤニヤしている。
「親父と喧嘩でもして家を飛び出してきたか? それとも、あれか?」
「なんだよ」
「恋の病」
かッと肌の突起という突起が赤く染まったが、幸いなことに大樹には見えなかっただろう。ブランコにいちばん近い街灯が壊れている。
「ほっとけ!」
呟いて立ち上がると、大樹が目の前に来た。
「まあ、待て」
「なんだよ」
「ちょうど、おまえに話があったんだ」
「話?」
大樹は思いの外、真剣な声音だ。
「おまえ、商店街の空き店舗をいっせいに借りたやつのこと知ってるか?」
「いや、数件借りたってことぐらいしか知らないよ」
父親の話によれば、借りたのは胡散臭い宗教団体らしいが、口にしなかった。根拠のない噂話なんかしたって仕方がない。今はそれどころじゃないんだから。
「どう思う?」
大樹はそう言うと、犬のリールをブランコの柵に結んだ。
な、なんだよ、話し込むつもりか?
「どう思うって、いいんじゃないの? 借り手がつかなくて困ってたんだしさ」
「おまえ、それでも――」
頭突きをするときみたいに、大樹は顔を寄せてきた。
やだやだ、これだからいやだよ、野蛮怪獣は。
「それでも商店街の一員か?」
「なんなんだよ」
「あのな、あいつらが商店街を乗っ取ろうとしてるということがはっきりしてきたんだ」
父親が言っていたアレだ。謎の組織率いる宗教団体が、商店街を乗っ取るって話。
いい加減にしてほしい。
父親のような、小さな店の中のことしかわからない怪獣が、こういう話を真に受けてしまうのはわかる。だが、大樹はまだ若い。扱ってる不動産だって、この商店街のほかにいくつもあって、バーバー・ゴジラに比べたら大きな仕事をしているだろう。
だから、世の中についてよくわかっているはずだ、少なくとも父親よりは。
そんな大樹が、あんな噂話を信じてるのか?
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