第26話

「だいじょうぶ⁈」

 元太郎は父親の怒りを無視して叫んだ。


「う、うん」

「よかった、よかったよ」

 生きていた。果里奈は生きていたんだ。その喜びが胸に溢れた。なんだっていい。ともかくこうして再び声が聞けた。


「どこにいるの?」

「人間の町よ」

 果里奈は小声だ。どこかに囚われているんじゃないか。

「そうだろうと思った。連れ戻されたんだろ?」

 果里奈は沈黙。

「人間の町のどこ?」

 なんとなく果里奈の声の様子から、場所を言いたくない気持ちが伝わってきたが、訊かないわけにはいかない。

「元いたところよ」

「皇の内だね」

 果里奈から返事はなかったが、誰かに聞かれるのを怖がっているのかもしれない。


「出られるの?」

「無理」

「なんで」

「部屋に鍵がされてるの。逃げられないように」

「――そんな」

 元太郎はガバと立ち上がった。

「わ、くっついちまってるぞ!」

 父親が怒鳴ったが、無視する。


「鍵がされてるって、監禁されてるってこと?」

「仕方ないわ。自分が悪いの」

「どういうこと?」

 するとまた、果里奈は黙ってしまった。


「――どうしたらいいかな」

「どうって?」

「だから、そこから出るには」

「そんなの無理。ずっと見張られてるもの」

「だけど、なんか方法があるはずだよ。誰かに頼むとか……」

 なんで俺はこんなことを言ってるんだろう。元太郎は歯がゆかった。ほんとに言いたいのは、こうだ。


――助けに行くよ!

 

 だが、そんな自信はないし、そもそも方法がわからない。


 怪獣が人間の町、しかも皇の内に行ったら、大騒ぎになるだろう。知り合いの女の子を助けに来ただけだなどと言って信じてもらえるはずがない。即座に攻撃を受けるはずだ。もちろん、人間の銃でちょぅとばかし撃たれたって、この身体――。

 元太郎はスマホを握りしめたまま、自分の身体を眺めた。


 この身体はちょっとやそっとのことではやられない。

 だけど、もし、人間が束になってかかってきたら。いや、人間たちのことだ。何か新しい武器を開発しているかもしれない。怪獣なんか吹っ飛ばすほどの武器を。


 でも――このままでいいのか?


「おい! 元太郎!」

 父親の手が伸びてきて、スマホを取り上げられてしまった。

「何すんだよ!」

「それはこっちのセリフだ。おまえのせいで、クロスを見てみろ!」

 そして父親は、スマホに向けて、言い放った。

「悪いが、今、取り込んでるんだ。またかけ直してくれ」

 父親は通話を切ってしまった。


「な、ななな、何すんだよ!」

 だが、もう遅かった。通話は切れてしまった。

「ああ、どうしたらいいんだよう……」

 せっかく果里奈からの連絡が来たというのに。まだ詳しい状況を訊き出せていないのに。


「どうしようもない。もう一回剥がすぞ」

 父親はしゃがみこんだ。

「手伝え」

「知るか!」

 元太郎はスマホを掴んで表へ飛び出した。


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