第13話

 夜11時を過ぎて父親が帰ってきた。

 集まったみんなと食事をし、酒も飲んできたようだ。


「みんな、なんて言ってた?」

 今日の襲撃について、何か情報があるだろうか。

 酔った、酔ったと呟きながら顔を洗う父親の横に立って、元太郎は探りを入れた。


「なかなか難しいぞ」

 酒臭い息を吐きながら、水しぶきを撒き散らして何度も額に水をかける。

「ちょっとやそっとの相手じゃなかったみたいだ」

「えっ? 犯人のわかったの?」

「大体な」

「誰だったんだよ」

 洗面台から顔を上げた父親は、辺りをはばかるように、声をひそめた。

「誰っていうんじゃなくてな、組織だ」


「組織?」

 元太郎は、息を呑んだ。

「そうだ。デカい相手だぞ」

 すんなり納得できる話だった。香里奈を追ってきたのだから、組織というのは十分考えられる。香里奈が言っていたではないか。追ってきたのは皇の内の者だと。

 だが、どうして父親は、そんなことがわかったんだろう。


「なんでわかったの?」

「最近、急に入ったテナントと関係してるんだ」

「え、商店街の?」

「そうだ。いくつもの空き店舗に急にテナントが入っただろう? あれは、一つの業者がまとめて借りてんだ」

 タオルで顔を拭きながら、父親は言う。


「で?」

「おかしいだろ、一つの業者で何店舗も一斉に借りるってのは」

「そういうこともあるかもしれないけど」

「何言ってんだおまえは。だから、いろんなことに気づかないんだよ」

「いろんなことってなんだよ」

「どうやら乗っ取ろうとしてるみたいなんだ」

 いつものことだが、父親との会話では、質問が無視されがちだ。


「乗っ取る?」

「そうだ」

「乗っ取るって商店街をってこと?」

「ほかにどこがある」

「こんなとこ、乗っ取ってどうするんだよ」

「馬鹿!」

 タオルがポンと顔にかかった。

「なんだよ!」

 元太郎はタオルを受け取りながら、叫ぶ。


「だからおまえは駄目だっていうんだよ。この商店街を乗っ取られたらどうなると思う!」

「ちょっと待ってよ。誰がなんのために乗っ取るっていうんだよ」

「謎の組織だ」

「謎?」

 まだ酔ってるんじゃないか? 元太郎はしげしげと父親を見つめた。

「どんな組織なんだよ」

 すると、父親はいっそう声を低めた。


「妙なものを信じてる連中の組織のようなんだ」

「信じてる? 宗教団体ってこと?」

「それに近い。テナントのオーナーの宮脇さんがな」

 宮脇さんは、神経怪獣だが見た目はイグアナにそっくりだ。商店街のメインストリートでお茶屋さんをやっている。何代も続いた老舗で、商店街の中にほかにもいくつか店舗を持っている。

「賃貸契約の際に、妙なことに気づいたんだ。店舗として借りたいと言うわりには、何も運ばれてこないと」

「商品とかってこと?」

「そうだ。ドラッグストアにしたってコンビニにしたって、まず商品を並べる棚やケースの備品が運び込まれるだろう? それが一切なくてな、もちろん商品も」

「だからって宗教団体だとは限らないじゃない」

「奇妙な祭壇みたいなのは運ばれてきたらしい」

「祭壇?」

 たしかに、それなら宗教関係かもしれない。


「なんか、食べるもの、残ってないか?」

 洗面所を離れて父親はキッチンに向かった。

「話し合いが白熱したせいで、あんまり食べられなかった」

 言いながら、ふとテーブルの上に目をやる。

「誰か、来たのか?」

 元太郎はひやりとした。


 






 






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