第11話

 ホームセンターはほんとうに便利だ。

 子ども用のおもちゃだって売っている。

 

 ぐるぐると店内を探し回り、おもちゃコーナーにたどり着いたとき、元太郎は歓喜した。あった。果里奈にぴったりな布団があったのだ。おもちゃの人形用にしては、まあ、よくできている。ふかふかしてそうだし、花柄の模様も悪くない。

 

 おもちゃコーナーに置かれている品を、元太郎は興味深く眺めた。そこにあるのは、素朴な玩具ばかりだった。ホームセンターだからかもしれない。いまどき、小学生の低学年にもなれば、遊びといえばゲームしかしないだろう。元太郎自身、そうだった。だから、このコーナーは、もっと小さい子どもを対象にしているのだ。人形だけでなく風船や手押し車、ママゴト用品。

 

 すぐさま布団を購入して、それから元太郎は果里奈の食事を買いにいった。これも、ホームセンターで事足りる。オープンエリアに総菜店が軒を連ねているからだ。

 

 何がいいのかわからなかったが、とりあえず、弁当を三種類買った。このうち気に入ったものを食べてもらえばいい。いや、怪獣の弁当は果里奈にとって巨大だから、少しずつ分けたほうがいい。

 

 楽しかった。誰かのために何かをするのは、こんなにも楽しいのか。

 ウキウキした気分で車に戻ったとき、はたと思いついた。

 

 皿はどうしよう。

 

 自分たちが使っている皿では大きすぎる。

 おもちゃ売り場を思い返した。頭の中に、小さなママゴト用の皿が点滅する。

 

 弁当を入れたビニール袋を下げたまま、元太郎はおもちゃ売り場に慌てて戻った。あのママゴト用の皿なら、果里奈にちょうどいい。

 競争相手がいるわけでもないのに、手にしたときは安心した。それを持って、レジに向かう。

 レジで支払いをしながら、元太郎は、

「姪っ子が来ててさあ。こんなんで喜ぶかなあ」

などと、わざと店員に話しかけた。カブトムシに似た姿の怪獣の店員は、興味もなさそうに、

「いいんじゃないですかね」

と言っただけだった。

 乙部さんがいなくてよかった。元太郎は思った。こんなものを買っているのを見られたら、何を勘繰られるかわかったもんじゃない。

 


 幸いなことに、家に戻ったとき、まだ父親は帰っていなかった。三種類もの弁当を下げているのを見られたら、責められるに決まっている。

 

 大急ぎでママゴト用の小さな皿を洗い、弁当の中身を吟味しながらよそった。何が好物かわからないから、いろんな種類をよそってみる。

 ところがどれも大きすぎた。皿に入りきらないばかりか、とても果里奈の小さな口に入りそうにない。

 

 まな板を出して、その上で総菜を細かくした。唐揚げもシャケも卵焼きも、みじん切りだ。

 ママゴト用の皿に載せると、まるで妖精が食べる食事のようになった。

 

 すごい。

 

 何がすごいのかよくわからなかったが、ともかく感動した。

 

 果里奈に分けた残りは、そのまま冷蔵庫にぶちこんだ。母親がいなくなって以来、うちではほとんど食事を作っていない。父親は冷蔵庫に出来合いの総菜が入っていることに慣れている。

 小さな食事を運ぼうとして、元太郎は、

「おっと」

と思わず呟き、冷蔵庫の前へ戻った。果里奈は喉が渇いていると言っていたではないか。飲み物を用意しなくては。

 

 冷蔵庫からペットボトルを取り出し、コップに注ごうとして、またしても自分の愚かさに呆れた。こんなデカいコップで飲めるはずがない。

 どうしよう。

 元太郎は焦った。ママゴト用のコップは買ってないのだ。

 そのとき、母親が使っていた薬用の瓶が目に止まった。直径一センチほど蓋がついている。

 あの蓋を使おう。

 元太郎は頷きながら、蓋を洗い、それから脇にペットボトルの水を抱えると階段を上った。トツトツと、なるべく足音を響かせないように気をつけた。普段の調子で階段を上ったら、きっと果里奈が怯えてしまう。母親がよく言っていたものだ。


「そんなにドスドス歩いたら家が壊れるよ!」

 何度言われても注意したことはなかった。

 母親の怒鳴り声を思い出してフッと笑いが込み上げ、そしてちょっと悲しくなった。

 


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