第10話

 ホームセンターは町の郊外にある。怪獣の町にあるホームセンターだ。巨大だ。

 車を駐車場に止めて、足取りも軽く、元太郎は店内に向かった。

 

 端材売り場へ直行する。元々DIYは嫌いじゃない。ホームセンターにもよく来るから、どこに何があるかわかっているし、売り場の店員とも顔馴染みだ。

「よ、元太郎」

 材木売り場に行くと、店員の天然怪獣、乙部さんが声をかけてきた。乙部さんは初老の怪獣だ。木の枝に似た体を持っている。樹木の枝に似た怪獣が材木売り場にいるのだからうってつけだ。


「こんちは」

 軽く挨拶を返して、端材の置き場へ向かう。

 乙部さんもついてきた。

 端材はまとめて大きな木箱に投げ込んである。店としては、売れればそれでよし。売れなければ捨ててしまう商品だ。だから、値段もべらぼうに安い。

「う~ん、でかすぎるなあ」

 元太郎は呟いた。怪獣の町では、端材といっても一メートルはある。

「何を作るんだ?」

 乙部さんが元太郎の手元を見ながら言う。

「ちょっとね」

 思わずほころんでしまった顔を、元太郎は慌てて引き締める。


「なんだ、秘密か?」

「まあね」

「どれぐらいの長さの角材が欲しいんだ?」

「三十センチもあればじゅうぶんだな」

「そりゃ短いな」

 そう言いながらも、乙部さんは木箱に顔を突っ込んで見合った端材を見つけてくれた。

「これなんかどうだ?」

「いいね。ちょうどいいよ」

 三十センチに満たないほどの長さの角材を二本、元太郎は購入すると決めた。それでも、二百円もしない。


「釘はあったっけなあ」

 家にある釘は、この端材には大きすぎるかもしれない。

「こんなんだったら、接着剤でいいじゃないか」

 乙部さんが端材をビニールでまとめながら、言う。

「だめだよ、釘じゃなきゃ。丈夫じゃないとまずいんだ」

「プラモデルだろ?」

「違うよ」

「何、作るんだ?」

 思わず元太郎は乙部さんを見返した。

「な、なんだ? そんな真剣な目をして」

「い、いや」

 端材をカートに載せて、ペンキ売り場へ向かった。きれいに塗装してやりたい。色は何色がいいだろうか。赤やピンク色の缶を手に取ったが、どぎつすぎる気がした。


 そうだ。すみれ色がいい。


 元太郎は棚から青と紫色のペンキ缶を取り出し、混ぜて色を作ろうと決めた。

 すみれ色のベッドやテーブルが、自分の部屋にあると想像すると、それだけで気持ちが弾んでくる。

 布団も用意しなきゃな。

 だが、小さな布団など、どうしたら作れるのかわからなかった。買うにしても、とても売っているとは思えない。


「な、乙部さん」

 元太郎は端材売り場に戻って、乙部さんに訊いた。

「小さな布団って、どうやったら作れるかな」

「布団?」

「ああ」

「人形にでも被せるのか?」

 そうか。人形売り場に行けば見つかるかもしれない。

「人形というより、人間だな。人間が使うぐらいの大きさってことだろ?」

 どきん、とした。

「い、いやそうじゃない」

 元太郎は慌ててレジへ向かった。


 金を払っていると、

「おい、元太郎!」

 乙部さんが追っかけてきた。

「おまえんとこの店、人間に襲撃されたってほんとなのか?」

 こんなところにまで噂が広がっているのか。

 暗澹とした気持ちになった。

「大したことないから」

「その修理か?」

 曖昧に返事をして、元太郎は出口へ向かった。

 乙部さんが妙な勘繰りをしないといいけど。人間に襲撃された怪獣が、人間の大きさに見合う布団を探している。つながらないといいが。


 




 


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