第3話


「ふぅむ……。やり過ぎたか……?」


 窓ガラスに映り込んだ自分を観察して呟く。


 残りカスとも言えるリソースを全消費して、魔改造した自分の項目はいくつかある。

 まずは容姿。


 掘りの深い顔のつくりや髪色はそのままだが、普段黒いはずの瞳だけは俺の意思でうっすらと青く輝く。

 また、背中にはこれまた瞳と同じようにうっすらと青く輝く光の翼。

 自分の意思である程度自由に動くが、触ることはできない。

 これら二つとも、ただのエフェクトである。


 さらには前世の部屋着姿で転生したラフな格好が、スキルの魔改造によって乙女ゲームのメインキャラが着用していそうなオシャレな貴族服に様変わり。

 ベースの色は紺色で、ところどころに金色の刺繍が施されている。

 ちなみに自己修復付きだから、服が全焼しても謎パワーで一晩経てば元通り。

 防御力はゼロだが、どんなに雑に扱っても汚れることもない。


 こんなのが廃教会につったってるんだから、他人から見れば完全に超常のカリスマを放つ天使様だろう。

 下手にカッコよさに磨きをかけたものだから、存在感がヤバすぎる。

 実に痛々しい。


「……完全に中二病だな。まあ、それが狙いなんだけど」


 というか、この世界でも神様や天使のイメージって地球と似たり寄ったりなんだね。

 だってこの姿の参考になったのは、ほとんど教会に飾られている神聖な絵画の天使っぽいナニカからだし。


 青く輝く翼と瞳と、超かっこいい自動修復する不滅の服。

 う~む、やり過ぎた。


 ただこうして見た目に拘ったのにも理由があって、それは信仰心を集めるためだ。

 現在判明しているチートスキル、英雄ツクールの対象となる一つの条件は、【想い】。


 その想いはなんでもいいが、それは俺への友好度であったり、信仰心であったり、愛情、感謝などが大きな力となるだろう。

 もちろん憎まれてもいいのだが、俺と相性の悪い存在はたぶんスキルに弾かれてしまう。


 であるならば、少しでも周囲の人間たちから好意的に受け入れてもらえるような演出が必要であると考えた結果、こうなった。


 ぶっちゃけ中二病が再発したみたいで心が痛いが、案外悪くない案だと思う。

 なにせ多くの人間は第一印象から入るのだから。


「で、次は能力だが……」


 自分自身に付与した能力は五つ。


 一つは不老長寿。

 この世界で神様からの依頼を遂行するために、どれだけの時間がかかるのかもわからない。

 また最終的に世界のバランスを取り戻したとして、それが再び破滅へと向かわないようにしなければならない。


 そういったことを考えると、やはり時間というのは無限に必要になってしまう。

 たかが百年未満しか生きられない寿命では、到底依頼を達成することはできないだろう。

 故に不老。

 ただし、不死ではない。


 不死でありたかったのだが、さすがに無敵でいるためにはリソースが足りなかった。

 さもありなん。

 だって俺に残されたリソースは、あくまでも残りカスだからね。


 そして二つ目の能力は、再生。

 どうにかしてしぶとく生きようと考えた結果、リソースとの兼ね合いで不死は無理だと分かり、再生力を選択。

 死ななければ腕が吹っ飛ぼうが心臓マヒになろうが十分で全回復する。

 骨折くらいなら三十秒くらいかな。

 効率は落ちるけど、俺の血を与えれば他人も再生するよ。

 一時的な回復だし、不死にはならないけどね。


 これはこの世界の法則である魔法を習得し、治癒魔法として才能を習得したほうがリソースは軽減できた。

 ただ、治癒魔法を覚えるには魔力が必要だし、練習も必要だ。

 たとえば肝心な時に手元が狂ってしまったり、魔力が足りなくて回復が追い付かないなんてなったら、俺は後悔してもしきれない。


 そんなので死にたくないからね。


 というわけで、魔法ではなく体質として再生できる、という形に落とし込んだのだ。

 これなら意識がなくとも勝手に体が再生するので、生存率は大きく上がるだろう。

 リソースの消費は激しいけどね。


 で、三つ目の能力は、空間制御・重力制御。

 これも例によって魔法ではない、体質とか異能とかそういうやつである。

 英雄ツクールで魔改造する内容を適用していく過程でわかったが、魔力を消費する技能はとにかく手順が面倒で、時間がかかる。

 魔法を使うためには魔力を練らなければならないし、極めれば無詠唱も可能だろうが、適切な詠唱が基本的に必要らしい。

 最初は空間魔法と重力魔法でお茶を濁す気満々だった俺も、適用しようとイメージしたところで手順の面倒くささを理解しキャンセルしたくらいである。


 魔法は魔力と適性があればだれでも使える分リソースは軽いが、あまり強力な能力ではないのだ。

 もちろん俺も練習すれば魔法を使えるし、転生したこの体はけっこう優秀なので魔力も大きい。


 だが、リソースを消費してまで手に入れる能力ではない、ただそれだけである。

 覚えたければどこかで努力しようと思う、時間はたっぷりあるからね。


 空間制御は文字通り瞬間移動とか、結界とか、空間に関わる能力全般。

 重力制御はいわずもがな、重たくしたり軽くしたり、空を飛んだりだ。


 ただし存在そのものが強力な異能なだけあって、残りのリソース的に出力は低く設定せざるを得なかった。

 重力制御で飛行できる速度はせいぜい原付バイクの倍くらいだし、高速で動く飛行型の魔物や魔族相手に空中戦闘はできない。

 空間制御は目に見えるところまでしか転移できず、結界も脆い。

 たぶん結界は現代兵器に例えると戦車の砲弾一発くらいまでなら安全に防げると思う。


 食らったことはないが、ドラゴンのブレスとかでもたぶん長時間は持たないね。

 戦士が持つ魔剣や聖剣でも、正面から切られたりしたら、二~三回くらいで砕け散る自信がある。


 まあ、また貼りなおせばいいんだけどね。

 魔法じゃないから魔力とかいらないし。


 そんな感じ。


 四つ目の能力について。

 あらゆる行動の基本にして純粋な基礎。

 つまりは身体能力だ。

 力が強い、足が速い、動体視力がいい、反射神経がいい、それだけ。

 それだけだが、ここまでで余ったリソースをほぼ使いきってしまっていたため、比較的軽い条件であるにも関わらず、強化前の五倍くらいで落ち着いてしまった。


 転生直後の俺が五十キログラムの荷物を無理なく持ち上げられるとして、その五倍、二百五十キログラム。

 短距離走を時速二十五キロメートル前後で走れるとして、およそ五倍の百二十五キロメートル。

 

 その辺の人間に比べて十分に超人だが、魔王やドラゴンを倒せるかといわれると、無理だなと言わざるを得ない。

 だってドラゴンだぞ……。

 ゾウですら何トンもあるのに、ドラゴンなんていう超重量モンスターから尻尾のビンタをくらったら受け止めることすらできないだろうね。


 空間制御がなければ複雑骨折だし、当たり所が悪ければ即死。

 頑張って身体強化魔法とかを覚えれば戦えるかもしれない、っていう程度の強化だ。

 異世界コワイ。


 その辺はこれから生み出す英雄達に期待したいところだ。


 そして最後にして肝心の五つ目。

 俺がもっとも求めている能力。

 その名も【英雄ウイルス】。


 相手の才能や善性、悪性、感情や魂の容量を看破するための能力だ。

 心の声を聴けるほどにリソースは回せなかったが、ある程度その人物の全容が分かる。

 この能力で感染した人間に対して、嘘をついているかとか、悪意を持っているとか、その程度ならなら分かるようになるのだ。


 それだけではなく、英雄ウイルスに感染した人間は運命の分岐点に立つことになる。

 例えばもの凄い幸運に恵まれたり、悲劇に見舞われたり、大きな決断を迫られるトラブルに巻き込まれたりだ。


 そういった、英雄足り得る試練、を与えてくれるのがこの英雄ウイルスの存在。

 でもって、英雄ウイルスに感染してもなお、幸運な出来事におぼれて腐らない、悲劇に屈しない、トラブルから逃げない。

 などの本来の英雄が持つ資格を備えた者にだけ、俺はチート能力を与えようと思ったのだ。


 いわゆる、神様の目的と相性のいい人間の最終試験。

 そんな感じ。


 英雄を量産するにあたって、必須とも言える能力だ。

 凡人をどれだけ強化できるとあっても、力を手にする資格のないものがチートスキルを振り回したところで、人類が救われるとは思わない。


 やっぱり、それなりに人間の格、器が必要なのだ。


 以上が俺のなけなしのリソースを使って得た強化だが、近接戦闘能力が赤点である以外は、まあまあではなかろうか。

 修行すれば剣術や格闘術だって身に尽くし、魔法を覚えることだってできるので、初期ステータスだと思えばそう捨てたものでもないと思う。

 ……たぶんね。


 そうこうして日も暮れて、そろそろ夜に差し掛かろうという時間帯で、ようやく人の気配がした。


 どうやら、この廃教会で生活する何者かが帰ってきたらしい。

 この世界最初のコンタクトだ。

 言語能力はデフォルトで身についているようだが、コミュニケーションは慎重に行わなければならないだろう。



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