第3話 再会

30分程経ったところで、背高の青年が入ってきた。一目見た瞬間分かった。彼で間違いない。

こちらから声を掛けようと思ったときには既に気づいていたようだ。向かってくるそのガタイのいい体からは重々しい雰囲気が漂い、昔の笑顔は微塵も感じられない。一歩踏み出すごとに心が揺れ動かされ、平然を保つので精一杯だった。安慈が向き合って座ったところでコーヒーを注文し、真聖もコーヒーを続けて頼んだ。


「変わっちまったな、安慈」

「お前もだよ、真聖」


沈黙が流れる。


「要件はなんだ」

「その前にまずこれを見てほしい」

そう言ってアタッシュケースから書類を取り出した。真聖はじっくりと目を通す。そこには信じ難い事実が刻まれていた。



「茉莉は...殺されていた...」

「俺はあれから事件を一人で調べた。どうしても信じられなかったからだ」

真聖だってそうだ。あの事件以来ずっと筋トレしていたわけじゃない。時には自分を責め、時には茉莉が生きていると思ってしまうこともあった。だが、受け入れるしかなかったのだ。

あの事件以来、安慈とは疎遠になっていた。そのため、1人で事件を調べているなど考えもしなかった。

「犯人はわかっているのか?」

「ああ。だけど、それは簡単には話せない。だから頼む、協力してくれ。そして、最後はお前が復讐してくれ」


真聖は迷わなかった。これが茉莉にできる最後のことなら。


「...ああ、分かった」

真聖の低い声が、店内に響いた。



安慈が口にしたのは意外な人物だった。

「中学のとき、同じ部活だった田口祐樹って覚えてるか?」

「なんとなくだけど覚えてる。確かヤクで高校の時に捕まったらしいな」

「そこなんだよ。俺が田口だと断定した証拠は主に3つだ。まず、田口の親は製薬会社に勤務している。それも結構偉い立場らしい。そうなると犯行で使われた薬の入手方法に納得がいく。」

「たしかにそうだな。でもそれなら当時の警察だって田口を疑っただろ。」

「事件当時、警察は田口を第1容疑者として見ていたそうだ。だが、田口には決定的なアリバイがあった。」

「アリバイ?」

「ああ。それが、親の会社に行っていたんだ。防犯カメラに映像も残っている。これはどうにもならない事実だ。警察もここでお手上げだったらしい。だけど、そこには裏があったんだ。」

「田口が実行犯じゃないのか?」

「そういうこと。つまり、共犯者がいたんだ。」

「そこまでして殺したかったってことか...」

「そして、俺が田口だと断定した理由の2つ目、動機だ。田口は当時いろんな人にナンパしていたらしいが、茉莉はお気に入りだったらしい。そこへ真聖が関わり始めたことで田口は劣等感を覚え、振り向いて貰えなくなったことに腹を立てた。極めつきはあの手紙だ。ここで自分に興味を示さなかったことが、彼のプライドを大きく傷つけることになったんじゃないかと見てる。」

「なるほどな。あいつそんな感じだったもんな...。動機は分かった。でもなんで今になって...」

「もう1人の共犯者に吐かせたんだ。」

「ふーん......え?」

「単刀直入に言う、秋藤だ。」

真聖は混乱した。同じ部活だった2人が犯人。

「俺は事件の後、挙動がおかしかった秋藤を疑った。いや、その時点で確証があったのかもしれない。俺は秋藤と6年間連絡を取り続けた。真実をお前に何としてでも伝えたかったからだ。そして1ヶ月前、突然時が訪れた――」



今日が人生を変える日になろうことは誰が見ても明らかだった。



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